それって便秘?
若い女性から高齢者まで便秘で悩んでる方は非常に多いです。便秘とは、本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態、を言います。でも便秘と思われて来られた方が、実は便秘ではなく肛門に不具合があることも多いのです。
便の平均回数は1日3回から週3回といわれています。本来の便秘は便が硬くなる状態で、便秘と下痢は便に含まれる水分量で決まります。水分量が多くなれば下痢便、少なくなれば硬便となります。便秘の原因には大腸癌など腸自体の病気、薬剤の副作用(咳止めや癌治療の麻薬など)、全身の病気(糖尿病、パーキンソン、甲状腺機能低下症)がありこれらをまず除外しておく必要があります。
そこで便秘の治療ですが、刺激性下剤(センノシド、大黄など)と浸透圧下剤(マグネシウム)がよく使われます。最近ではリンゼス、グーフィス、モビコールといった製品や、便秘・下痢両方に有効なコロネルも使用されています。
さて本来の便秘とは別に排便時の不快感が強くこれを便秘と思っている方も多いのです。排便してもちょっとずつしか出ない、硬い便のあと下痢になる、常に便が残っている感じがする、など。本来の便秘は腸の問題、これらの症状は肛門が問題なのです。
食事をすると胃、十二指腸、小腸、大腸(結腸と直腸)を徐々に移動し消化・吸収され大腸(結腸)では水分が吸収され丸1日かけて徐々に便らしくなっていきます。そして便が直腸に降りてきた時に初めて脳は排便がしたい、と感じるのです。それは食事で新たな食物が入ることが刺激になることが多いです。人によって朝食であったり、夕食であったり様々です。食べた後の食物がすぐに便になるわけでは決してありません。
大腸の動きが活発になるのは早朝と言われてますので、起床後朝食をとった後、直腸に前日に作られた便が移動して、そこで排便をしてすっきりするのが理想です。便の回数が少なく、多少便秘気味であっても、すっきり便が出て、残便感がなければ問題ないのです。
そこで肛門について。直腸に便が降りてきて、蠕動運動が始まる、そこで便意を催す。その際排便をすると問題なく良い便が出てきます。肛門は繊細な構造をしています。おならと便を正確に判断して出すことができます。便が少しでも残れば残便感として違和感を感じます。繊細な組織だけに、例えば便が肛門付近まで来ても我慢する、便が殆ど残ってないのに残便感があるので何度もいきんで便を出そうとする、これらを継続的に行うと肛門のセンサーがおかしくなり肛門内部の静脈叢がうっ血してきます。さらに肛門の違和感が増し、その結果すっきり便が出ない、常に便が残っている感じがする、ということになりこれらを便秘と思っている人が多いのです。
便秘といって医者に行くと下剤を出されます。でも肛門付近には我慢した便は直腸粘膜で水分が再吸収されさらに硬くなります。一方上からは下痢便がやってきます。
便を出すと硬便がでて、肛門が切れる、その後はだらだらと下痢便が続いて肛門がヒリヒリする。このような状態になります。
一番の問題点は便意があるのに我慢してしまうことです。誰しも常にトイレに行ける状態であればよいのですが、接客中、手術中、なかなかトイレに行けないものです。このようなことを何年も継続していると、肛門や直腸に大量の便があるにもかかわらず肛門の感覚がマヒして鈍感になる。蠕動運動が来ないので出口にどんどん便が溜まり便秘になる。いきんで排便するしかなく、肛門周囲の静脈叢がうっ血し、痔核形成を助長する、といった悪循環になるのです。
「便秘ですか?では下剤でも出しておきましょうね、最近いい薬がありますからね。」、こんな単純にはいきません。
便秘を診るには原因が腸にあるのか、あるいは肛門にあるのかを見極めなくてはいけません。その人の排便習慣、排便様式、例えば、お尻を数回拭いた後も便が付いているか、ウォッシュレットをどれだけ噴射してもトイレッとペーパーに便が付着する、といった細かい話を聞いて初めてなるほど、とわかるものなのです。
肛門は大切な出口。出口戦略は何事も奥が深いのです。