両手が腫れる
両手が腫れるお話しです。
普段はお元気な90歳代の女性です。趣味は手芸で器用な方です。ある時から急に両手が腫れてきました。両手がグローブのように腫れあがり指もパンパンな状態です。手をわずかに握ると痛がります。何も持てない状態になってしまいました。一度見ると忘れられない手です。
医学的には左右対称性の、比較的急性発症の、手の圧痕性浮腫を伴う多発関節炎です。
さて何が起こったのでしょう?何やら自己免疫の関与するリウマチのような病気なのでしょう。
答えは、RS3PE症候群でした。
RS3PE症候群とは一般的にはなじみのない病気で、正確な日本語訳がありません。
1985年に提唱された病気で高齢者の発症が多いです。予後の良い、リウマチ因子陰性、対称性、手背や足背の圧痕浮腫を伴う滑膜炎、その頭文字をとってRS3PE症候群なのです。
RS3PE症候群の発症誘因として考えられるものはウイルスなどの感染症、各種悪性腫瘍、BCG、各種薬剤などがあげられます。文献的にはコロナワクチン接種後に発症した報告がありました。
ちなみにこの患者さんは発症1週間前にインフルエンザワクチン接種を行いましたが、私の探した限りでは因果関係のありそうな症例報告はありませんでした。
RS3PE症候群の罹患部位は、対称性に手関節、足関節に見られ、時に肩関節にも見られますが、股関節には見られません。
血液検査上、リウマチ因子や(関節リウマチで上昇する)抗CCP抗体は陰性です。炎症の数値であるCRPは上昇することが多いです。一方で血中の血管内皮細胞増殖因子(VEGF)濃度の著明な上昇が認められます。
手指の変形はなく、レントゲンでは関節炎の部位に骨破壊は見られず、MRIでは皮下浮腫と腱鞘滑膜炎の所見がみられます。
RS3PE症候群は上記の特徴をもち、高齢者発症関節リウマチやリウマチ性多発筋痛症を除外した上で診断されます。
RS3PE症候群の治療です。少量のステロイドホルモンが非常によく効きます。
一般的な膠原病では最初はステロイドホルモンを大量投与します。関節リウマチでもステロイドホルモンや免疫抑制剤を用います。ところがRS3PE症候群はステロイドホルモンを少量しかも短期間投与するだけで(プレドニン5~10mgを1~2週間投与します)すみやかに手のむくみが改善し、完全に手を握れるようになります。(フルグリップ)
少量のステロイドの反応性が良いことも鑑別のひとつです。
ただしRS3PE症候群には悪性腫瘍を合併していることがありその場合少量のステロイドでは反応性が悪いとされています。
RS3PE症候群の予後は良好で関節リウマチのように長期間にわたる治療の必要がなく、通常数か月で寛解します。
両手がいきなりグローブのように腫れあがり握れなくなると非常に怖いのですが、このような病気もあることを頭の片隅に入れておいてください。
