心房細動と無呼吸

健診で指摘される不整脈の多くは心室性期外収縮といって心臓のしゃっくりのような不整脈で、ほとんどの場合放置しても構いません。それに対して心房細動は加齢とともに生じる不整脈で、放置してはいけません。心房細動は脈が不規則になる不整脈です。

通常の心臓では心房と心室が協調して働きますが、心房細動では心房が小刻みに動いて心室に不規則に伝わるので脈が不規則でバラバラになります。当然心房・心室の協調運動がないので収縮効率が落ちてきます。

一般的には高血圧、糖尿病などの基礎疾患のある中高年の方が、ある日突然動悸に見舞われます。ただし放置しておくともとに戻ります。(一過性心房細動)その後短いときは30分、長いときは1週間、といった心房細動の発作を繰り返します。その後5~10年経つと知らないうちに常に心房細動の状態(慢性心房細動)になります。動悸はすで感じなくなっています。
ではこれでハッピーかといえば決してそんなことはありません。心房細動になると左心房の一部(左心耳)に血栓を作りやすくなります。それが突然はがれて脳動脈に飛び激しい脳梗塞(脳塞栓)を起こす確率がぐんと上がります。
ベースに高血圧、糖尿病、心不全、高齢者、脳梗塞既往のある方は、新規の脳梗塞のリスクが増してくるのです。
もう一つ。加齢に伴い心機能は低下してきますが、心房細動が持続するとより心不全を合併しやすくなります。

心房細動には脳梗塞のリスクと将来的な心不全の発症、という二つのデメリットがあります。

さて心房細動の治療ですが、2000年頃は心房細動のままでも血をサラサラにして脈拍数をゆっくりにしておけば良いといわれてましたが、最近では心房細動発症後できるだけ早期に治療した方が良いとされてます。

心房細動の治療としては、以前は抗不整脈薬、電気ショックなどが主流でしたが、2005年頃より一般病院でもカテーテルアブレーションという治療が可能となりました。心房細動のトリガーとなる上室性期外収縮の出どころ、4本の肺静脈周囲を電気的に隔離するカテーテルアブレーションがさかんに行われるようになりました。足の付け根の静脈から心臓に管を入れて、心房中隔を貫き左心房に到達します。

治療初期のころは、透視で見ながら4本の肺静脈周囲を丹念に熱を加えて焼灼していました。巧の技で4~6時間程度かかっていました。その後手技、機器が進化し現在では、3Dマッピングといった仮想空間を用いて、肺静脈にバルーンを挿入し一気に冷却・加熱あるいはレーザーで電気的隔離を行えるようになりました。

睡眠時無呼吸症候群とは睡眠中に上気道が閉塞し、呼吸が止まる病気です。睡眠中の低酸素、高炭酸ガスにより交感神経が活性化され血圧変動が大きくなります。また胸腔内が激しく陰圧になるので心房が引き延ばされる力が働きます。結果として睡眠時無呼吸があると心房細動の合併が増えてきます。
また心房細動の人を調べると約半数に睡眠時無呼吸症候群を合併しています。

睡眠時無呼吸では常に心房が物理的に引き延ばされ、通常の心房細動のトリガーとなる不整脈の出どころが肺静脈周囲以外にもあることがあります。また術中、胸腔内高度陰圧により肺静脈隔離が手技的に困難となることがあり、通常の心房細動アブレーションを行っても成功率が低いのです。
睡眠時無呼吸症候群の治療としてCPAP治療が一般的ですが、睡眠時無呼吸を合併する患者さんのカテーテルアブレーション後の心房細動再発予防にはCPAP治療が必須となってきます。

元々無呼吸がある➡胸腔内陰圧で心房が引き延ばされる➡心房の構造変化が起きる➡心房細動のトリガーとなる不整脈が起きやすい➡心房細動を発症しやすい➡しかも通常の肺静脈周囲の電気的隔離ではうまくいかないことがある➡治療しても再発が多い

といった事態になります。

睡眠時無呼吸と心房細動は密接にかかわり合っています。睡眠時無呼吸症候群を見つけたらCPAPなどで早期に治療介入し、まずは心臓への物理的刺激を減らすことです。それにより心房細動新規発症を抑制します。また心房細動発症後、アブレーション治療をした後はCPAPを継続することで再発率の低下が認められます。

心房細動の患者さんを診るときには、抗凝固療法を行い脳梗塞予防を行います。心拍数のコントロールを行い心機能保護に努めます。そして心房細動発症から比較的早期であれば積極的にカテーテルアブレーションをしてもらい心房細動自体の治療を行います。同時に睡眠時無呼吸症候群のチェックを必ず行い、適応があればCPAP治療を速やかに行うようにしています。

心房細動と睡眠時無呼吸症候群は常にセットで考えています。