脊柱管狭窄症

脊柱管狭窄症のお話しです。

背骨は1個の骨ではなく椎骨と呼ばれる骨がブロックのように重なってできています。頸椎、胸椎、腰椎、合わせて24個の椎骨があります。背骨は体を支える、体を動かす、中を通る脊髄(神経の束)を保護する役目があります。

脊髄は脳から続く神経の束で情報を伝えることが役目です。首から腰まで、椎骨の横から左右神経の繊維が伸びて、手足や胸背部に分布し、それぞれの運動、感覚を伝えています。脊髄がやられると手足の麻痺や筋力低下、しびれをきたします。箸が使えない、ボタンが留めれない、そして段差につまずく歩行障害などがおこります。

脊椎管とは椎骨が重なったトンネル状の管で脊髄の大切な通り道です。そのため背骨やクッションとしての椎間板や靭帯に守られています。

長い間生きていると重力に常にさらされます。背骨にずっしり負荷が持続します。その結果椎間板が弱って変性し、靭帯を太くして支えようとします。さらに骨が出っ張って(骨棘形成)これ以上脊柱を動かないようにして悪化を防ぎます。これは生体の防御反応として良いのですが、その結果脊柱管のトンネルは部分的に狭窄を起こします。起こしやすい場所は決まっていて腰の下の方です。それにより脊髄を圧迫し下肢のしびれ、痛みがくる病気が腰部脊柱管狭窄症です。50代から増え始め高齢者の10人に一人は脊柱管狭窄症と言われています。

脊柱管狭窄症の症状としては腰痛とお尻から足にかけての痛みやしびれです。立ち上がったり歩行で悪化しますが、前かがみや座っていると楽になります。前かがみが楽なので自転車に乗ることはできます。歩くと足が痛くなり休むと軽快する、これを間欠性跛行と呼びます。また陰部のしびれや排尿障害がでることもあります。そして病院でのMRIなどの画像診断の結果が一致していると脊柱管狭窄症と診断されます。逆に腰痛のみでお尻や足のしびれがない場合は脊柱管狭窄症ではないかもしれません。

原因としては先ほどの加齢による自然の変化に加えて、骨粗鬆症に伴う脊椎圧迫骨折、それに伴う椎骨の変形や側弯、また椎骨周囲の筋肉、靭帯劣化による腰椎すべり症、それに加えて喫煙や糖尿病などの関与も指摘されています。

脊柱管狭窄症は簡単に診断できそうですが、以外と閉塞性動脈硬化症との鑑別が必要になる場合があります。閉塞性動脈硬化症とは腰から足に行く血管が動脈硬化により細くなり、しばらく歩くと足の痛み・だるさ、場合によってはしびれを伴い、休むと軽快します。間欠性跛行を呈し脊柱管狭窄症と間違えられることがあります。この場合ABI検査(足関節上腕血圧比)をすることで簡単に区別することができます。閉塞性動脈硬化症は血管の病気ですので脊柱管狭窄症とは治療法が根本的に異なり、カテーテルで血管を広げステントを留置することになります。

さて脊柱管狭窄症の治療です。いろんな病気に治療法として保存的治療と外科的治療があります。外科的治療は皆さんご存知のように体にメスを入れて根本的解決を目指す治療です。

脊柱管狭窄症は症状の寛解・増悪はあるものの筋力低下や高齢になるにつれ進行しやすい病気です。排尿・排便障害や痛みで歩行できない場合は手術以外では改善は困難です。それ以外はすぐに手術はせずにまずは保存的治療で経過観察します。

保存的治療として、まずは薬です。消炎鎮痛剤、しびれをとる薬、筋弛緩剤、血流改善剤などありますが、なかなか根本的な解決にはなりません。副作用で吐血、めまい、むくみ、などしばしば経験します。
もちろん薬は有用なのですが理学療法も重要です。脊柱管が細いのは仕方ないとしても、背骨を支える筋肉群を強くすることで腰に負担がかからないようにすると症状改善が見込まれます。また股関節の動きが悪いことも腰に対して悪影響を及ぼします。ただし正しい方法で筋力トレーニングをしないと腰痛を悪化させることにもなりますので必ず専門家のアドバイスを受けてください。
症状が最初強い方でも薬、理学療法をうまく組み合わせると、大体の感じではありますが1/3くらいの方はその後軽快され普通に生活されておられます。

外科的治療は狭くなった脊柱管を広げるために椎弓を切除する方法(内視鏡手術も含む)、背骨の支持性を高めるために脊椎を固定する方法、最近では椎間板治療もあるようです。(専門ではないので詳しくは書きません)
手術を行い、圧迫されていた神経に血流が十分戻ると(時間はある程度かかりますが)症状は改善します。ただし手術法により再発する場合も多いようです。
椎間板ヘルニアを併発した脊柱管狭窄症に椎弓切除をして、その際切除した椎間板の組織再生を図るため、骨髄由来間葉系幹細胞と生体材料を椎体間に補充し、椎間板の再生・椎体の安定性を期待する、といった再生医療の治験も始まっています。

脊柱管狭窄症は加齢プラス複合的な原因によるものが多いので、一筋縄ではいきません。診断されたのちは、ある程度、薬を使いながら、正しい方法で腰の周りの筋肉をつけて症状改善を図る、どうしてもの場合は手術を考える、でよいのではないでしょうか。そのうち手術プラス再生医療が発達してくるかもしれませんね。