肝機能障害を指摘されました

職場の健診で4~5人に一人は肝機能障害を指摘されます。そしてその方たちは大抵脂肪肝です。

肝臓の役割です。私たちが食べたものは胃腸で消化吸収され分解され栄養素の多くは肝臓に蓄えられます。肝臓で貯蔵された栄養素は必要に応じてエネルギーを作り、身体活動に必要なたんぱく質を合成します。また脂肪やたんぱく質の消化に必要な胆汁と呼ばれる消化酵素を含む液体を分泌します。さらに肝臓は薬剤、アルコールなど飲食物に含まれる体によくない物質を解毒する働きがあります。
肝臓の働きが悪くなるとエネルギーやたんぱく質を効率よく作れなくなり、有害物質の解毒が出来なくなるのです。

生命維持に欠かせない肝臓ですが、少々ダメージを受けても自覚症状はありません。急性ウイルス性肝炎のように急激なダメージが加わると、だるさ、吐き気、発熱、腹痛、そのうち黄疸が出てきます。ところが健診で指摘されるような肝障害は、長期にわたって少しずつ肝臓に負荷がかかり全体として肝臓の機能が落ちた状態です。自覚症状はなく、指摘されても医療機関を受診されないことが多いです。ただし放置するとよくないことになります。

さて肝臓の状態は血液検査をすると大体わかります。肝臓で重要な検査項目は単純にAST(昔の呼び方GOT)、ALT(昔の呼び方GPT)、γ-GTPの3項目です。

ASTとALTは肝臓の細胞で作られる酵素で、アミノ酸合成に関与します。肝臓にダメージが加わって肝細胞が破壊されると、血液中にASTとALTが大量に放出され血中濃度が上昇します。なのでAST,ALTが上がっていると肝臓に障害ありと考えるのです。
なお、ALTの多くは肝臓の細胞に存在しますが、ASTは肝臓以外に筋肉や赤血球中にも存在します。このため、ALTが軽度の上昇でASTのみが急激に上昇している場合は肝臓以外の病気を考えます。

γ-GTPはタンパク質を分解し、肝臓の解毒作用に関与する酵素の一つです。γ-GTPが上昇しているということは肝臓が解毒をする必要に迫られているという意味です。胆管で作られるので胆管の病気の際も上昇します。またアルコールに敏感に反応し上昇します。

肝臓に関する3項目の数値の簡単な見方です。AST, ALT, γ-GTP はそれぞれ、20-20-20が理想値です。AST 10, ALT 6 のように数値が低すぎる場合は肝臓が良いのではなくビタミンB6不足(このような人はビタミンB全体に不足していることが多い)と判断します。

急性ウイルス性肝炎で全身の症状を伴った場合はAST 2000, ALT 3000, γ-GTP 1000のように強烈に上昇し、即入院です。ここまで上がらなくても肝炎ウイルス以外のウイルス感染でも400~500程度は上昇します。

さておじさん達の結果を見ると結構な割合でAST 60, ALT 90, γ-GTP 80 程度の方々がいます。ASTよりALTが上昇していてこの程度の数値であればたいてい脂肪肝なのです。AST 120, ALT 90, γ-GTP 600 っといった場合でアルコール多飲の方はアルコール性肝障害です。もちろん両者が合併しているい場合も多いです。例えば γ-GTP 600 の人がアルコールを完全に2週間止めて半分の数値になれば、アルコール性といえます。

健診には腹部エコーがついている場合がありますが先ほどのAST 60, ALT 90, γ-GTP 80 程度の方々に腹部エコーをして肝臓がキラキラ輝いていたら脂肪肝と診断されます。

以前は、脂肪肝です、酒でもやめたらどうですか?で終わりだったのですが、酒を飲まない脂肪肝が増えてきました。
アルコールが原因でない脂肪肝を非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD:ナッフルド/ナッフルディー)と呼ぶようになりました。肥満や糖尿病、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病の肝臓における病態です。睡眠時無呼吸症候群が関係することもあります。なおやせ型体型でも脂肪肝があり遺伝的な背景が関与することがあります。

脂肪肝は肝臓を顕微鏡で見ると、大摘性の脂肪沈着と肝細胞の風船状腫大がみられます。ここでとどまっていれば良いのですが、正常な肝細胞ではないので時に炎症を起こすことがあります(肝炎)。そして炎症性サイトカインが線維芽細胞を活性化し徐々に肝臓の線維化が起こってきます(肝硬変)。

成人の約20%は非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)といわれています。その中で、何も悪さをしないものを非アルコール性脂肪肝(NAFL)、肝臓に炎症を起こしたものを非アルコール性脂肪肝炎(NASH)といいます。1割程度がNASHに移行します。さらに肝臓に線維化が進むと肝硬変となります。当然、炎症を起こした肝臓は機能が落ちます。体に必要なたんぱく質が有効に作れず、解毒も低下するので体の免疫力が落ちてきます。
肝線維化が進行すると生命予後が悪くなるので、どの程度の線維化かは最終的には肝生検して病理組織で診断するのですが、その前にNAFICスコアやFib-4 indexといった指標でで線維化の拾い上げが重要になってきます。
脂肪肝の治療ですが、特効薬はありません。食事・運動が基本です。ある種の糖尿病薬、高脂血症薬で脂肪肝の改善のデータがありますが、まだ一般的ではありません。

厚生労働省の指針ではAST, ALT で51、γGTPで101を超えたらが受診勧奨となっています。
重要なことは脂肪肝と診断される方は大抵は肥満、耐糖能異常(糖尿病)、高血圧症を合併していることが多く、それら全身の病気の肝臓の表現型ととらえた方が良いのです。
アルコール止めると甘いものが欲しくなる、タバコをやめると食欲亢進して太る、などほとんどの場合、食べ過ぎ、運動不足から来ます。

肝機能障害を指摘されたら、肝臓だけではなく全身が痛んできていると考えまずは適度に節制しましょう。肝臓の数値を良くするのが目標ではなく、いつまでも病気にならず健康に過ごすこと、が目標です。