カリウムが上がると

カリウムのついてのお話しです。
カリウムは人体に必要なミネラルの一種で体内に100~200g含まれています。大部分は細胞内に存在し、細胞外に多いナトリウムと相互に作用しながら水分保持、浸透圧調整に重要な役割を果たしています。

食物から摂取されたカリウムは全身に運ばれたのち、ほとんどは腎臓から排泄されます。カリウム濃度は主に腎臓で調節されており血中カリウム値3.6~5.0mEq/Lに保たれています。

カリウムの働きとしては、細胞内の浸透圧の維持、酸塩基平衡の維持、神経興奮や筋収縮への関与の他、ナトリウムの排泄を促し塩分過剰を調整する働きもあります。

カリウムは体にとって重要なミネラルで不足すると困るのです。日本人の普通の食事をしていれば不足することはありません。成人男性で1日約3000mgが摂取目標です。
カリウムを多く摂りすぎてもその後数時間で尿中排泄され、残りは細胞内に運ばれるために血中濃度はほとんど変化しません。逆にカリウム摂取が減少しても細胞内の大量のカリウムが緩衝し血中濃度の低下を妨げます。

カリウムは特に果物、野菜、藻類に多く含まれています。加工・精製により含有量は減少します。煮たり、ゆでたりしても水に溶けだします。効率的に摂取するには生野菜、果物がおすすめです。とろろ昆布、芋、ドライフルーツなどに多く、ポテトチップスにも多く含まれています。

カリウムが上がるとどうなるか?実に危険なのです。まず筋収縮が調節できなくなりしびれ、知覚過敏、脱力などの四肢の症状、悪心・嘔吐といった胃腸症状が現れます。同時に心臓にも悪影響を与えます。
カリウムは常に細胞内から細胞外に移動し、細胞内の電位を下げる働きをしています。電位が下がると細胞外に多いナトリウムが一気に細胞に流入して心筋が収縮できるのですが、細胞外のカリウム(血中のカリウム濃度が高い)とナトリウムが心筋内に入りずらくなり心筋の興奮が起こらず心停止につながるのです。

カリウムが高くなって困るのは腎臓が悪い場合のみです。(特殊なケースは他にもありますが)腎不全で腎機能が低下するとカリウムが尿に排泄できなくなり血液中の濃度が上がるのです。

腎臓は左右2個ある臓器で老廃物排泄、血圧調整、赤血球産生の指令、ビタミンD活性化、ミネラルバランス調整などの働きをします。細かい血管の塊ですので、高血圧症、糖尿病といった血管を障害する病態で次第に痛んできます。腎臓の細かいユニットを悪化させる慢性糸球体腎炎でも腎障害は進みます。腎臓が一旦悪くなると残念ながらもとには戻りません。腎臓が悪くなり上記の役割を果たさなくなった場合、末期腎不全と呼びますが、血液透析が必要になってきます。血液透析は例えば月・水・土の週3回4時間が一般的です。患者さんは基本尿が出ず、老廃物を出せないので2日空いた時も食べ過ぎ、飲みすぎには注意しないといけないのです。

血液検査でのカリウム値は3.6~5.0mEq/Lが正常範囲なのですが、低めの人、高めの人は当然います。ただし腎臓が悪くない限りは5.0mEq/Lを超えません。腎機能正常な人がカリウムが高い場合は採血の仕方が悪いか、血液の保存方法が悪いかどちらかです。
6.0mEq/Lを超えたら要注意、7.0mEq/Lを超えたら命の危険にさらされます。

70歳代男性、腎不全(末期腎不全)で通院中。クレアチニン(腎障害の指標)が6台、カリウム値6.0mEq/L台と徐々に上昇してきておりカリウムを下げる薬を内服中。透析導入も近くシャント(透析の際に必要なブラッドアクセス)も作成していました。ある日気分不良で救急外来を受診、心電図にて心拍数40の徐脈、P波のない洞心室調律、採血にて血清カリウム7.2mEq/Lとなっており緊急透析を施行。その後維持透析となりました。
このような例は末期腎不全ではしばしば見られます。本当はこうなる前に透析導入が望ましいのですが。

透析をされている患者さんは透析直後はカリウムは正常化します。透析をしていない日、一般的には1週間に2日空くときがあるのですが、そこでカリウムを多く含むものを食べ過ぎると当然上がります。2日食べ過ぎてカリウム上がりすぎて心停止した、はさすがにないのですが、患者さんによってはとろろ昆布を2袋食べた、とか柿が美味しいので食べ続けた、という方もいます。透析の患者さんは高カリウムにある程度体が慣れているので少々上昇しても鈍感な場合が多いです。手足がピリピリするのでカリウム高いんちゃうか?とご自分でいわれる場合もあります。

最近経験したケース。70歳代男性。2型糖尿病、慢性心不全、高血圧、慢性腎不全など色々とお持ちです。腎機能が徐々に悪化してきておりクレアチニン3台の後半になってきました。クレアチニンは上がり始めると早いので注意が必要です。毎月色々な科でチェックしているのですが、最終のカリウムは5.0mEq/Lで正常上限でした。
ある日運転中に胸部圧迫感、一瞬意識が遠のく感じ、手足がピリピリする、と来られました。
心電図上徐脈傾向、明らかな心筋梗塞様の変化はないのですが、まずは急性冠症候群の除外をと思い病院に搬送しました。結果はカリウム値7.0mEq/Lの高カリウム血症でした。つい先日の採血で5.0mEq/Lだったのですが。
その後よくお聞きすると、健康増進のために毎日バナナを2本ずつたべていたそうです。バナナ2本でカリウム800mg程度ですが腎不全の進んだ方はこれでもカリウムが上がるようです。確かに手足がピリピリ、心電図見返すと以前と比べてT波は少しとんがっていたな・・・。
幸い1回の透析でカリウムは正常化、しばらくは透析なしでお過ごしです。

腎臓が悪くない方の特殊なケースとしては災害時、がれきに挟まれた際に起きるクラッシュ症候群。救出、圧迫解除後にカリウムやミオグロビンにより急性腎不全、高カリウムになることがあり、急激な高カリウムによる心停止に注意が必要です。

カリウムは身体活動に必須のミネラルで普通の生活では上がりすぎることはありませんが、腎臓の悪い方にプラスアルファの要素が加わると上がりすぎて大変なことがあるのです。普段は気にすることのない物質ですが、こんなこともあると知っておいてください。