『いびき』の裏には、重大な病気が隠されている可能性があります。当院でもご本人は気付いていなくても、ご家族や友人から「いびきがうるさい」と指摘を受けてご来院される方が多くいらっしゃいます。
いびきは、息を吸うときに、狭くなった咽頭部を空気が通過する際、喉が振動して起こる現象です。
咽頭部の大きさは顎と舌のサイズで決まります。顎が小さく舌が比較的大きな方は相対的に咽頭部が狭くなります。眠った時に舌や咽頭を支える筋肉が緩んでくると、容易にいびきがおこります。また笛と同じでより細いところを強く空気が通過すると、高い音のいびきが出ます。飲酒があったり睡眠薬を服用していたりすると筋肉がさらに緩むので、いびきが強くなります。
いびきには大きく分けて「単純性いびき」と「睡眠時無呼吸症候群を伴ういびき」の2種類があります。
単純性いびきでは、風邪やアレルギー性鼻炎や鼻中隔湾曲症、扁桃肥大といった鼻に関わる病気や飲酒などが原因となっており、その原因を解消すればいびきも改善されます。睡眠中の低呼吸や無呼吸といった酸素が低下するような事もないため、睡眠時無呼吸症候群に典型的な日中の眠気や熟眠感の欠如などは認められません。
問題となるのは睡眠中に酸素が低下する睡眠時無呼吸症候群に伴ういびきです。放っておくと重大な合併症を招く恐れもあり、しっかりと診断をつけたうえで継続的な治療が必要になってきます。
「いびき」がうるさい、と来院される方にはまず睡眠時無呼吸症候群に対する簡易検査を行います。当院では写真のような機器で検査を行います。
手指に装着する部分(赤枠上)と胸骨上に貼り付ける部分(赤枠下)に分かれており、赤枠下がいびきのセンサーになっています。左側の本体を腕時計のように装着し自宅で検査を行います。
この検査は、ご自宅で普段通り寝ているときに行うことができる簡単な検査です。痛みも苦痛もなく、患者さんにとって負担が非常に小さいため、まずはこの検査で健康リスクの高い睡眠時無呼吸症候群かどうか、判別をしていきます。
まずは正常例をお示しします。
1段目が睡眠中の無呼吸の出現の様子です。(PAT呼吸イベント)青線1本が無呼吸です。
無呼吸は1時間当たりの3.3回で正常範囲内です。
2段目がいびき/体位を示します。オレンジ色はいびきの出現を表し高くなるほどやかましい(デシベル表示)いびきです。いびきもごく軽度です。
3段目、上の黒線は酸素飽和度の変化、下の赤線は心拍数を示します。最低酸素飽和度は93%と保たれております。
4段目は機器を装着してからの睡眠深度を示します。赤線はレム睡眠と呼ばれる夢を見ている睡眠です。レム睡眠中、目はキョロキョロ動いていますが、体の筋肉が弛緩しており、いびきや無呼吸が出現しやすい時間帯です。
「いびき」がうるさいと指摘された男性に検査しましたところ図の2段目(いびき/体位)では睡眠開始後、起床時まで65~70デシベルの大きないびきを常にかいていることがわかります。(繁華街の騒音が50~60デシベルです。)多くの方は仰臥位から側臥位になるといびきが消失することが普通ですが、この患者さんは体位に関係なくいびきがあります。また上段のPAT呼吸イベント(無呼吸回数)では就寝中常に無呼吸があり1時間平均44回の高度な無呼吸を認めます。
3段目は酸素飽和度と心拍数、4段目は睡眠震度を表しています。この患者さんは常に無呼吸がありますが、レム睡眠(4段目の赤線の部分)中は酸素飽和度の大幅な低下を伴う無呼吸がおこっていることがわかります。
次の症例も「いびき」がうるさいと指摘された患者さんです。就寝中は継続的にいびきを認めますが(2段目)、無呼吸の数は1時間あたり約9回で無呼吸はあるものの軽症です。酸素飽和度の低下も軽度にとどまっています。
この症例ではいびきは認めるものの仰臥位のみで出現し側臥位では消失しています。ただしいびき出現時は無呼吸を伴っています。
このように「いびき」がうるさい場合、まずは睡眠時無呼吸症候群を疑い簡易検査を行った上で、単純な「いびき」なのか、あるいは重症の睡眠時無呼吸症候群を伴う治療を要する「いびき」なのかを区別することが重要です。
当院では睡眠時無呼吸症候群の検査機器を常備しておりますので、ご来院された当日に検査を受けていただくことも可能です。睡眠時無呼吸症候群は放っておいて治る病気ではなく、早く治療をしなければどんどん健康を害し、命にかかわるような病気や事故を招いてしまう恐れもあります。“たかがいびき”と思わずに、ぜひお早めにご相談ください。