『いびき』の裏には、重大な病気が隠されている可能性があります。当院でもご本人は気付いていないものの、ご家族や友人から「いびきがうるさい」と指摘を受けてご来院される方が多くいらっしゃいます。 いびきには大きく分けて「単純性いびき」と「睡眠時無呼吸症候群を伴ういびき」の2種類があります。単純性いびきでは、風邪やアレルギー性鼻炎や鼻中隔湾曲症、扁桃肥大といった鼻に関わる病気や飲酒などが原因となっており、その原因を解消すればいびきも改善されます。ただ、睡眠時無呼吸症候群を伴ういびきは放っておくと重大な合併症を招く恐れもあり、継続的な治療が必要となります。ここでは、いびきの原因と疾患について記載します。
いびきをかく原因の一つに鼻づまりがあります。この鼻づまりの原因となるのは、風邪やアレルギー性鼻炎などで鼻粘膜が慢性的に炎症を起こし腫れている状態、鼻の真ん中の骨が曲がっている鼻中隔彎曲症、慢性化した扁桃炎、アデノイド肥大などがあります。放置しておくと、いびきが悪化すると共に睡眠時無呼吸症候群の原因にもなります。こういった病気が疑われる場合、できるだけ早く耳鼻咽喉科を受診するようにしましょう。
肥満によって首や喉に脂肪が多くついている、また生活習慣として仰向けに寝ていて首や喉に重力がかかっている、飲酒や喫煙・睡眠薬の服用によって舌や喉の筋肉が緩められている、といったような場合、気道が狭められ、いびきをかきやすくなります。 このような時には、飲酒や喫煙を控える、横向きに寝る、といった日常生活の工夫によって、解消できることがあります。また睡眠薬が原因となってしまっている可能性がある場合、主治医に相談するようにしましょう。
上記原因に心当たりがないにも関わらず、いびきをよくかく、周りからうるさいと指摘される原因として考えられるのが睡眠時無呼吸症候群です。 睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている間に無呼吸状態(呼吸が止まっている状態)が繰り返される病気です。 医学的には10秒以上の呼吸停止状態を「無呼吸」と定義し、無呼吸が1時間あたり5回以上、または一晩(7時間の睡眠中)に30回以上あれば、睡眠時無呼吸症候群と診断されます。 ただこの無呼吸状態は寝ている間のことなので、なかなか本人は気付くことができません。このことから検査や治療を受けていない方が多く、日本でも300万人~400万人の潜在的な患者さんがいるといわれています。 睡眠時無呼吸症候群は治療法が確立されているため、適切に検査・治療を行えば決して恐い病気ではありませんが、放っておくと高血圧や心筋梗塞、脳卒中、糖尿病などにつながるリスクがあります。
ご説明したように「いびき」にはいくつかの原因が考えられます。いびきは単にうるさく、周りの人に迷惑をかけてしまうというだけでなく、背景に危険な病気が隠されている場合もあります。
中でも睡眠時無呼吸症候群に関しては原因の疾患となっている場合が多いですので、まずは睡眠時無呼吸症候群の簡易検査を実施している近隣の医療機関をお探しください。以下に一般的な診断・治療の流れをご説明します。
医療機関で問診を受け、睡眠時無呼吸症候群の疑いがあった場合、睡眠中の状況を把握するために自宅での簡易検査を行います。手や指にセンサーを装着し、無呼吸による低酸素状態を測定する検査と、鼻に呼吸センサーを装着して気流やいびきを測定する検査があります。検査装置は手首式血圧計を少し大きくした程度の大きさで、センサーをつける以外は普段と同じように寝ていれば測定できる検査ですので、仕事や日常生活など、普段と変わらず過ごすことができます。
【参考】
上記の簡易検査で睡眠時無呼吸症候群であると診断できず、より精密な検査が必要であると判断された場合には、基本的には病院で1泊2日のPSG検査(ポリソムノグラフィー検査)を行います。
これは簡易検査よりもさらに詳しく、睡眠と呼吸の「質」の状態を調べる検査です。入院とは言いましたが、実際には仕事などへの支障が出ないよう、仕事終わりの夜に入院して検査をし、翌朝出勤前に退院できるよう配慮されている医療機関も多くあります。
この検査では、口と鼻の気流、血中の酸素飽和度、胸部・腹部の換気運動、筋電図、眼電図、脳派、心電図、いびきの音、睡眠時の姿勢など、非常に幅広い項目を調べます。これらの項目を測定するために身体に多くのセンサーをつけますが、痛みを伴うような検査ではなく、簡易検査と同じく寝ている間に検査は終了します。
またどうしても入院による検査が難しい場合、少し精度は落ちますが自宅に検査機器を郵送してもらい、ご自身でセンサーをつけて一晩眠り、翌日検査機器を送り返す、という在宅でのPSG検査を紹介している医療機関もあります。
睡眠時無呼吸症候群と診断された方は、治療が必要となります。
一般的には「CPAP(シーパップ)治療」と呼ばれる、睡眠時に専用のマスクを装着し、エアチューブで鼻から上気道に空気を送り続ける装置を使う治療法が多く選択されます。
また、軽度な睡眠時無呼吸症候群だと診断された方には、症状が悪化しないようにするためにも下記のような改善内容をご説明します。
いびきをよくかく人の傾向として、肥満体型である、年齢を重ねると共に太ってきたという方が多くいらっしゃいます。軽度であれば、減量することでいびきや睡眠時無呼吸症候群の症状が軽減されることがあります。
仰向けの姿勢で寝ると重力により首や喉が下がり、気道が狭くなっていびきをかきやすくなります。横向き寝用の枕や抱き枕など活用により、横向きの姿勢を維持しながら寝るといびきを軽減できることがあります。
寝る前に飲酒をすると、筋肉が弛むことで気道が狭くなってしまうことがあります。寝る前の飲酒・喫煙を控えることでいびきの予防になります。
いびきをかいているということは、口呼吸になっているということです。口呼吸は喉の乾燥やホコリなどの吸入を招き、喉が炎症を起こしてしまう原因となります。そしてこの喉の炎症は気道を狭くし、いびきが更にひどくなる原因となります。加湿器などを用いることで部屋の湿度にも気を配り、いびきの悪化を防ぎましょう。
いびきは放置しておくと、徐々にひどくなっていく可能性があります。また睡眠時無呼吸症候群の原因にもなる場合があります。ご家族や友人の方からいびきについて指摘を受けた時は原因の特定を先延ばしにせず、もし睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合は必ずお早めに専門の医療機関を受診するようにしましょう。