昨今、“睡眠負債“や”睡眠の質“という言葉をよく聞くようになりました。健康的な生活を送るうえで、睡眠がとても大切な役割を担っているということが広く一般に知られてきたためでしょう。
同時に、睡眠に関する病気も注目を浴びています。睡眠に関する病気をまとめて「睡眠障害」と言いますが、このサイトで取り上げている睡眠時無呼吸症候群も睡眠障害のひとつです。
ただ一言で睡眠障害と言っても疾患によって原因が異なりますし、治療方法、対策も異なってきますので、漫然と「睡眠の質が悪い」というだけでなく、何が原因で睡眠の質が落ちてしまっているのか、ということをまずは把握することが大切です。
不眠をはじめとした睡眠障害には以下のように多くの分類があります。
などの症状があらわれます。
日中に過剰な眠気を感じ、日常生活に支障をきたす状態をさします。
日中の発作的な居眠りだけでなく、興奮した時に体の力が抜けてしまう
情動脱力発作、金縛りなどを引き起こす
一日中眠気が続く
といった疾患や、薬剤の副作用として日中に眠気が現れるものなどがあります。
体内時計の周期が24時間周期に同調できなくなるために生じる睡眠障害で、寝る時刻と目覚める時刻に一定のリズムが保てなくなる状態です。
睡眠中の呼吸障害のために、睡眠の質が悪化している状態です。代表的なものに睡眠時無呼吸症候群があります。
このページでは、睡眠時無呼吸症候群について具体的に解説します。
睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている間に無呼吸状態(呼吸が止まっている状態)が繰り返される病気です。
医学的には10秒以上の呼吸停止状態を「無呼吸」と定義し、無呼吸が1時間あたり5回以上、または一晩(7時間の睡眠中)に30回以上あれば、睡眠時無呼吸症候群と診断されます。
ただこの無呼吸状態は寝ている間のことなので、なかなか本人は気付くことができません。このことから検査や治療を受けていない方が多く、日本でも300万人~400万人の潜在的な患者さんがいるといわれています。
このように自覚症状の乏しい病気なのですが、この病気は放っておくと、とても重大な“良くないこと”を引き起こしてしまいます。
まずは睡眠の質が低下することによる日中の眠気です。眠気と言うと軽く聞こえますが、その眠気によって深刻な交通事故や労働中の事故などが引き起こされてしまうことがあります。日本では2003年2月に起きた新幹線の居眠り運転により睡眠時無呼吸症候群が注目を浴びるようになりましたが、それ以降も睡眠時無呼吸症候群が原因であると考えられている事故は継続して起こっています。
もっと重要なことは、無呼吸を繰り返すことによって脳の低酸素状態が起こり、心臓やその他の臓器に負荷をかけてしまうことから引き起こされる高血圧、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病などの合併症があります。
これらは最悪の場合、突然死を引き起こしてしまうこともある恐ろしいものです。
詳しくは SASがなぜ悪いのか というページで解説しています。
睡眠時無呼吸症候群には大きく分けて2種類あります。
一つは、呼吸自体はできているものの上気道(鼻の孔からのどまでの空気の通り道)がどこかで狭くなっており、鼻・口の気流が停止する「閉塞性」の、「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)」です。
二つ目は、脳からの信号命令自体が途絶えてしまい、呼吸そのものが停止してしまう「中枢性」の「中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS)」です。
よく睡眠時無呼吸症候群では「いびき」が取り上げられますが、いびきが生じるのは「閉塞性睡眠時無呼吸症候群」の場合です。
この二つの内、実際に有病率が高いのは「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)」です。
睡眠時無呼吸症候群の患者さんのうち、9割がこの閉塞性睡眠時無呼吸症候群であると言われています。
上気道の閉塞が起こってしまう要因としては、首・喉まわりの脂肪の沈着や扁桃肥大のほか、下の付け根(舌根)、のどちんこ(口蓋垂)などが落ち込んでしまうことによる喉・上気道の狭窄が挙げられます。
睡眠時無呼吸症候群は、よく太った人がかかる疾患であると言われます。しかし太っているというのも大きな要因なのですが、実は太っている人だけがなる疾患ではありません。
これには、もともとその人が持っている骨格も関わってくるからです。骨格の大きい人であれば、多少太っても(首・喉まわりの脂肪が沈着しても)上気道を狭める可能性は高くありませんが、骨格が小さい人であれば上気道のスペースが小さく、閉塞しやすいことはお分かりいただけるでしょう。特に日本を含めた東アジアの人はもともと顎が小さく気道が狭い人が多いと言われており、肥満がなくても閉塞性睡眠時無呼吸症候群が生じやすいと考えられています。
中枢性睡眠時無呼吸症候群は、脳から呼吸の命令が出なくなる呼吸中枢の異常です。
閉塞性の場合は気道が狭くなり呼吸がしにくくなるため一生懸命呼吸しようと努力しますが、中枢性の場合、気道は開いたままにも関わらず呼吸しようという努力がみられません。
中枢性睡眠時無呼吸症候群になってしまうメカニズムは様々ですが、心機能が低下した場合には30~40%の割合で中枢性睡眠時無呼吸症候群がみられるとされています。
睡眠時無呼吸症候群は寝ている間のことなので自覚しにくいとご説明しましたが、気付いていないだけで様々な症状が現れていることが多くあります。
当院でも、ご本人ではなくご家族や職場の同僚など身近な方から指摘を受けて受診される方も多くいらっしゃいます。
特に特徴的な症状として「いびき」が挙げられます。これは、上気道が狭くなり呼吸の際に圧力がかかるため上気道の粘膜が振動することから起こるものです。いびきは周りの人の睡眠の妨げになるだけでなく、背後に睡眠時無呼吸症候群が隠れている場合が多くあります。
以下に、睡眠時無呼吸症候群の代表的な症状を記載します。詳しくは、それぞれの症状の説明ページをご覧ください。
こうした自覚症状の感じ方、程度には個人差があります。
「ちょっと疲れているだけ」「いつものこと」で終わらせず、改めて日常生活を振り返ってみてください。
また寝ている間のことをパートナーやご家族の方に聞いてみたり、逆にパートナーやご家族の方にこういった症状が見られた場合、一度検査を勧めるようにしてください。