睡眠時無呼吸症候群(以下SAS)の治療において最も一般的な治療であるCPAP (Continuous Positive Airway Pressure:シーパップ)とは日本語で「経鼻的持続陽圧呼吸療法」と呼ばれ、睡眠時にマスクを装着し、エアチューブで鼻から上気道に空気を送り続ける装置を使う治療法です。これにより常に上気道を開いた状態に保ちます。
「マスクを着けながら眠るのは難しいのではないか」とご質問をいただくことも多くありますが、ほとんどの方は問題なく治療を続けられています。実際に違和感がある場合には外来通院の際に医師に相談し、マスクの種類を変えてみたりフィッティングをやり直したりすることで改善します。
基本的にCPAPの装置は医療機関から患者さんにレンタルされ、ご自宅で毎日使用していただきます。機械の保守点検や消耗品などの補充・管理も医療機関や保守会社が行いますが、日々装着する機械ですので、日常の簡単なお手入れはご自身でしていただく必要があります。
CPAP治療は物理的に空気を送り込むことで閉塞を防ぎますので、フィッティングさえしっかりできれば、いびきや昼間の眠気などの症状は劇的に改善します。こういった意味では、日本においては中等度以上のSASの方がCPAP療法の保険適応ではありますが、無呼吸自体が軽症であったとしても日中の眠気などの症状が強い方は保険適応外ですが試してみるべき治療法ではないかと思います。
またCPAP治療は無呼吸を防ぐことにより、高血圧の改善、不整脈の減少、交感神経の働きの抑制、糖尿病の改善などにも効果があることが分かっています。
さらにSAS患者さんをCPAPで治療した場合と治療しなかった場合の影響を比較した研究データによると、心筋梗塞もしくは脳卒中での死亡率が健康な人に比べて軽症のSAS患者さんで2倍、重症のSAS患者さんでは4倍以上でしたが、CPAP治療を受けていた人は軽症のSAS患者さんよりも死亡率は低く、明らかな治療効果が出ています。
このようにCPAP治療はしっかり継続できると、長期的に見て非常に高い治療成果を出してくれることが分かっています。
CPAP治療は根本的な治療方法ではなく閉塞を防ぐ対症療法ですので、継続して使い続ける必要があります。また保険適応の対象となりますが、そのためには原則として毎月の定期的な外来通院が必要です。
この時、中には治療の継続が難しいと言われる患者さんもいらっしゃいます。治療が続かないよくある理由は、マスクが合わない、機械から送られてくる空気の圧力が合わない、といったものです。徐々に慣れてくるということもありますが、確かに毎晩眠る時に装着する装置ですので、これ自体が不快の原因となってしまっては元も子もありません。
まずはCPAP治療の導入時に不安点があればしっかりと相談し、患者さんご本人に合ったマスク・空気圧を設定することが大切です。また使っている間にどうしても違和感が取れなかったり、新しい不安が出てきたりした時は通院時に主治医に相談し、その都度改善していくようにしましょう。場合によってはマスクの種類を交換したり、CPAP装置の圧力設定を変更したりすることもあります。
このようにCPAP治療は、患者さんと主治医が信頼関係を持って二人三脚で進めていくことがとても重要です。SASの不安がある方は、まずは信頼できる専門医に相談することをお勧めします。
ここでは、CPAPの治療中によくお受けする相談内容についてご紹介いたします。いずれの場合も、主治医に相談して対策を検討していきましょう。
慣れるまでの間は、特に息を吐きだす時に機械から空気が入ってくるという感覚に違和感があります。最近の機械は患者さんの呼吸に同調し圧力を調整する機能を備えているので気にならなくなってきていますが、どうしても気になる場合には主治医に相談しましょう。
機械から送られてくる空気を飲み込んでしまうために起こる現象です。おならが出やすくなる、というご相談もあります。空気圧の設定変更によって症状が改善することがあります。
マスクのフィッティング、またはマスクの形が合っておらず、皮膚に刺激を与えてしまっているかも知れません。フィッティングの再確認、それでも改善しない場合には別の種類のマスクを試してみることも検討します。
耳と鼻は耳管でつながっています。機械から送られてくる空気が耳管を通って耳に抜けてしまうと、違和感や不快感が出てしまうことがあります。空気圧の設定調整で改善される可能性があります。
CPAP治療は鼻から空気を流し込むため、鼻呼吸をすることが大前提です。しかし患者さんに花粉症やアレルギーなどで鼻づまりがあり、鼻呼吸がしづらい場合には、まずは鼻の症状を薬でコントロールした方が良い場合もあります。
最近の機械では、タンクに水を入れることによって送られてくる空気を加湿する機能を備えたものもありますので、主治医に相談してみてください。それでも乾く場合、口呼吸になってしまっている可能性もあります。口を閉じるバンドを使用する、部屋に加湿器を置くなど、工夫してみるのも良いでしょう。
マスクから空気が漏れてしまっており、目や口に空気が流れている可能性があります。マスクフィッティングを再確認する、合うマスクに変更することで改善できる可能性があります。
機械の保守点検や消耗品などの補充は、医療機関や保守会社で行います。しかし直接肌に装着するマスクやエアチューブは、小まめにお手入れして清潔にしておくことが大切です。
取扱説明書に簡単な掃除の方法などが書かれていますので、それを参考にしてください。