夜寝ている時に、尿意を感じて排尿のために起きなければならない状態を夜間頻尿といいます。夜間頻尿は排尿に関わる症状のうち最も頻度が多いもので、約4,500万人に症状があるとされており、加齢にともない男女ともその頻度が増加することが分かっています。夜間頻尿の原因は多尿(夜間の尿量が多い)、膀胱容量の減少、そして当ホームページでお伝えしている睡眠時無呼吸症候群などが考えられます。ここでは、考えられる原因や疾患について記載します。
多尿の原因としては水分の取りすぎだけでなく、糖尿病などの内分泌疾患、高血圧、うっ血性心不全、腎機能障害といった全身性疾患などが挙げられます。多尿は単純に「尿が近い」と軽く考えがちですが、背景に危険な病気が潜んでいるリスクがあるとご理解ください。
膀胱容量の減少は、少量の尿しか膀胱に貯められなくなる状態です。これは過活動膀胱といった病気や、前立腺炎、膀胱炎などの炎症により、膀胱が過敏になるために起こります。
過活動膀胱は膀胱に尿が少しか溜まっていないにも関わらず膀胱が勝手に収縮してしまう病気です。脳卒中やパーキンソン病など、脳・脊髄の病気で膀胱のコントロールが効かなくなる、前立腺肥大症による排尿障害が原因で膀胱が過敏になる、といったことが起因となることが多いですが、膀胱の老化現象として起こることや、原因が分からないことも少なくありません。こうした場合、まずは泌尿器科での適切な治療が必要となります。
夜間頻尿が睡眠時無呼吸症候群と関係していると聞くと、不思議に思われる方もいらっしゃるかも知れません。
睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている間に無呼吸状態(呼吸が止まっている状態)が繰り返される病気です。
医学的には10秒以上の呼吸停止状態を「無呼吸」と定義し、無呼吸が1時間あたり5回以上、または一晩(7時間の睡眠中)に30回以上あれば、睡眠時無呼吸症候群と診断されます。
ただこの無呼吸状態は寝ている間のことなので、なかなか本人は気付くことができません。このことから検査や治療を受けていない方が多く、日本でも300万人~400万人の潜在的な患者さんがいるといわれています。
本来、眠っている間はリラックスの神経である「副交感神経」が優位となっており尿意を感じにくく、膀胱にたくさん尿を溜めることができます。しかし睡眠時無呼吸症候群では無呼吸状態によって血液中の酸素濃度が低下し、血圧や心拍数の上昇を招くことで交感神経が優位となり膀胱が収縮しやすく、尿意を感じやすい状態であることが分かります。よって、睡眠時無呼吸症候群の方は夜間頻尿の症状が出やすくなるのです。
睡眠時無呼吸症候群は治療法が確立されているため、適切に検査・治療を行えば決して恐い病気ではありませんが、放っておくと高血圧や心筋梗塞、脳卒中、糖尿病などにつながるリスクがあります。
当院でも夜間頻尿の症状で悩まされている患者様の相談をお受けした場合は問診を行い、睡眠時無呼吸症候群が疑われたときは自宅でできる簡易検査を実施して適切な診断と治療を実施しております。
上記でご説明したように、夜間頻尿の原因はいくつか考えられます。背景に重大な病気が隠されている可能性もあるので、原因疾患を早期に改善するために早期に専門の医療機関を受診し、原因を特定するようにしましょう。
中でも睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合には、お早めに検査を受けることをお勧めします。以下に一般的な診断・治療の流れをご説明します。
医療機関で問診を受け、睡眠時無呼吸症候群の疑いがあった場合、睡眠中の状況を把握するために自宅での簡易検査を行います。手や指にセンサーを装着し、無呼吸による低酸素状態を測定する検査と、鼻に呼吸センサーを装着して気流やいびきを測定する検査があります。検査装置は手首式血圧計を少し大きくした程度の大きさで、センサーをつける以外は普段と同じように寝ていれば測定できる検査ですので、仕事や日常生活など、普段と変わらず過ごすことができます。
【参考】
上記の簡易検査で睡眠時無呼吸症候群であると診断できず、より精密な検査が必要であると判断された場合には、基本的には病院で1泊2日のPSG検査(ポリソムノグラフィー検査)を行います。
これは簡易検査よりもさらに詳しく、睡眠と呼吸の「質」の状態を調べる検査です。入院とは言いましたが、実際には仕事などへの支障が出ないよう、仕事終わりの夜に入院して検査をし、翌朝出勤前に退院できるよう配慮されている医療機関も多くあります。
この検査では、口と鼻の気流、血中の酸素飽和度、胸部・腹部の換気運動、筋電図、眼電図、脳派、心電図、いびきの音、睡眠時の姿勢など、非常に幅広い項目を調べます。これらの項目を測定するために身体に多くのセンサーをつけますが、痛みを伴うような検査ではなく、簡易検査と同じく寝ている間に検査は終了します。
またどうしても入院による検査が難しい場合、少し精度は落ちますが自宅に検査機器を郵送してもらい、ご自身でセンサーをつけて一晩眠り、翌日検査機器を送り返す、という在宅でのPSG検査を紹介している医療機関もあります。
睡眠時無呼吸症候群と診断された方は、治療が必要となります。
一般的には「CPAP(シーパップ)治療」と呼ばれる、睡眠時に専用のマスクを装着し、エアチューブで鼻から上気道に空気を送り続ける装置を使う治療法が多く選択されます。
また、軽度な睡眠時無呼吸症候群だと診断された方には、症状が悪化しないようにするためにも下記のような改善内容をご説明します。
上記でご説明したように、夜間頻尿は腎機能障害、前立腺肥大、過活動膀胱や前立腺炎、膀胱炎などの泌尿器科の病気だけでなく、糖尿病や高血圧、うっ血性心不全、睡眠時無呼吸症候群などの多岐に渡る病気が原因となっている場合があります。「尿が近い」と軽く考えがちですが、その背景にある病気を早期に改善することが大切です。
特に睡眠時無呼吸症候群の場合、適切な治療をすることにより早期な改善が期待できます。一方で適切な治療ができていない場合、睡眠の問題は患者様の生活の質(QOL)を低下させてしまうだけではなく、重症化すると交通事故や思わぬトラブルを引き起こしてしまうリスクがあります。症状が徐々に進行していくために、気になってはいるものの医療機関を受診することを先延ばしにされている方も多いと思いますが、大きな問題が引き起こされてしまう前に原因を特定し、悩みを改善するようにしましょう。