動脈硬化の治療って? ~キレーション~
人は血管とともに老いる、という言葉があります。
血管の硬さは遺伝的要因に環境要因が加わり個人差が非常に大きいです。
100歳近い方の頸動脈エコーで殆ど内膜肥厚がないケースがある一方、50歳代男性で全身の動脈硬化著明というケースがあります。後者の場合はその後、心血管系疾患が原因でお亡くなりになることが多いです。
血管は頭から足の先まで延びており体全体に張り巡らされています。心臓が収縮することで動脈を流れる血液が全身に酸素や栄養を届け、末梢組織で使われた老廃物や二酸化炭素は主に静脈を介して回収されます。動脈と静脈では構造が異なり、動脈は常に高い圧力にさらされており外膜、中膜、内膜からなる丈夫な三層構造をしています。
血管の老化で気を付けなければならないのは動脈が固くなる動脈硬化なのです。
生まれた時は動脈はしなやかなホースのようなものですが加齢とともに固くなっていき、やがて土管のようになっていきます。
血管の弾力性がなくなり土管のような血管になると全身臓器に血液を送るためにより高い圧力で血液を心臓から拍出されることが要求されます。これが高血圧症です。そうなると心臓にも負担がかかり、血管壁や臓器にも無理が生じてきます。血圧が高いことは動脈硬化の原因にも結果にもなるのです。
動脈硬化には2種類あり、一つは高血圧や糖尿病などが刺激になって内皮細胞が傷つけられその部分の血管壁の中に脂肪物質がたまって厚くなり(内膜肥厚)、“おかゆ”のような状態(粥状硬化)になるタイプ。もう一つは血管内(主に中膜)にカルシウムがたまって固くなるタイプ。この2種類が同時進行していきます。
動脈硬化が進行すると“おかゆ”のような場所(粥腫やプラークと呼ばれます)に血小板が付着したりプラークが潰れて血管内を閉塞させ心筋梗塞や脳梗塞の原因となったり、固くなりカチカチになった動脈は末梢組織に十分な酸素を運ぶことができず様々な場所で虚血をおこします。
教科書的には動脈硬化の危険因子として高血圧、高脂血症、喫煙、肥満、糖尿病がありますが、ビタミン・ミネラル不足や重金属蓄積よる活性酸素も原因の一つです。
以下は動脈硬化学会ガイドラインからの引用です。動脈硬化の予防には生活習慣を是正し、LDLコレステロールが高い時はお薬の治療も考慮する、という内容です。
動脈硬化の指標としてエコーやCT、MRIといった形態を見る画像診断や、PWV、CAVIといった動脈の硬さを見る検査が一般的です。これらの検査で頸部、心臓の重要臓器の血管が細くなっている場合は薬物治療、内科・外科的治療を組み合わせて、即治療の場合もあります。そうではないけれども動脈が固くなっている場合は上記のガイドラインにのっとり生活習慣改善することが必要です。
前置きが長くなりましたが今回は動脈硬化治療のもう一つのオプションであるキレーション治療について説明します。簡単に言うと、定期的な点滴を行うことでゴミの詰まった血管のお掃除をする治療です。
EDTAというキレート剤を点滴することで体内に蓄積した有害重金属を排出し細胞機能、神経伝達をもとに戻す治療がキレーションです。
加齢と共に重金属の蓄積量が徐々に増加して細胞の働きを低下させると考えられています。目的として有害重金属による諸症状の改善、アンチエイジング、さらに動脈硬化性疾患の予防・治療に行われます。
キレーション療法は、もともと鉛や水銀などの蓄積による中毒症状の予防・治療としてはじめられ1950年代に、初めて動脈硬化性疾患に有効であることが報告されました。ペンキによる鉛中毒に対してキレーションをしていたらなぜか動脈硬化もよくなった、との報告です。
動脈硬化が進行して、例えば冠動脈狭窄の治療であれば、労作時の症状がでてカテーテル検査を行い必要に応じてバルーンで拡張しステント留置を行う、その後繰り返し起こさないように血液をサラサラにする薬やコレステロールを下げる治療を行うことが一般的です。
しかしキレーション療法が動脈硬化に効くであろうことは、血管内治療が行われる以前の1950年代にすでに報告されていました。血行の改善、血管の酸化防止、カルシウム代謝の改善、血液をサラサラにする効果、鉛の排出などのメカニズムが考えられていたのです。
そして最近になり、やっとキレーションが動脈硬化に有効であるとするデータが発表されました。
TACT Studyと呼ばれる動脈硬化性疾患に対するNa-EDTAキレーション療法の有用性を評価する臨床試験(多施設共同二重盲検無作為比較対照試験)の結果が2013年にAHAで報告されました。1708人の心筋梗塞を起こしたことがある患者さんを、キレーション療法を行うグループ(キレーション療法群)と、プラセボ(偽薬)グループ(対照群)とに分けて、さまざまなデータを比較検討した結果、総死亡率、心筋梗塞再発、脳卒中、冠血行再建、狭心症による入院は、キレーション療法群のほうが対照群に比べ有意に(統計学的な差を持って)少なかった、特に糖尿病患者では、キレーション療法群が対照群に比べ上記の事象が34%も減少したとの内容です。この試験の追加研究として糖尿病患者にしぼったTACT II試験が進行中です。
Na-EDTAキレーションによる動脈硬化改善の現在考えられているメカニズムとしてフリーラジカルの除去、有害重金属(鉛や過剰な鉄)の除去、血管壁の弾性改善、血小板凝集抑制、血管壁からカルシウムを除去、細胞内微量金属の再分配、NO産生、などがあります。 冠動脈疾患、下肢慢性動脈閉塞症の患者さんはまず画像診断で動脈の閉塞部位、硬化の程度を詳しく調べ、その上で血管内治療を受けていただきます。その後は教科書通り二次予防対策として脂質管理を行います。日本の保険医療はここまでですが、その先の有効なオプションとしてぜひ動脈硬化キレーションをお考え下さい。
四季彩の丘