心臓に菌が入る?
ウイルス性心筋炎という病気があります。普通のカゼのあと1-2週間して咳が止まらない、胸が痛い、何となく息苦しいといった症状で病院を受診されます。脈は速く、胸部エックス線を撮ってびっくり、心不全を起こしている、ということが時にあります。もともと健常な人は滅多なことで心不全は起こしません。この病気がウイルス性心筋炎なのです。
一般的な循環器専門医でも生涯を通じて数十例診る程度でしょうか、決して多い病気ではありませんが重症化すると非常に恐ろしいのです。
カゼを起こす菌(ウイルス)、多くはエコー、アデノ、インフルエンザ、コクサッキーウイルスなどがカゼ症状のあとなぜか心臓に残りそこで増殖します。ウイルス増殖で直接心筋細胞を破壊し、ウイルス増殖でリンパ球が集まり炎症をおこして心筋が浮腫んできます。
ごく軽症な患者さんは医療機関を受診しませんのでこの病気、頻度もはっきりしません。
最初は同じようなカゼ症状なのに、その後なぜ心筋までウイルスが入り、増殖するかは今も昔もわかっていません。その人の抵抗力や免疫にかかわっているのでしょう。
この病気、厄介なところは経過観察だけで軽く済むこともあれば、病院に来たときは普通にしていたのに入院後2~3日で急に悪化してほぼ心臓が動かなくなる、ということもあります。
心臓全体にウイルスが広がり心筋の殆どがやられてしまった状態です。劇症型心筋炎と呼ばれます。その場合ウイルス増殖が収束し心筋の浮腫がなくなり、生き残った心筋細胞により何とか心臓収縮が回復するまで体外循環装置をつけてしのがねばなりません。
体外循環装置(多くはPCPSといって太ももの付け根から太い管を入れる)を1週間以上つけていると下肢が阻血になり最悪の場合下肢切断を余儀なくされます。
カゼに特効薬がないようにウイルス性心筋炎にも特効薬はありません。
これからカゼの季節です。カゼをひかないことが最も重要です。カゼをひいた後、胸が痛い、息苦しい、咳が止まらない、といった症状があれば医療機関を受診してください。殆どの場合大丈夫なのですが、ウイルス性心筋炎といった恐ろしい病気もあることお知らせしておきます。