カリウムが下がると
カリウムが不足した場合のお話しです。
カリウムの98%は細胞内に存在し、細胞外に多いナトリウムと相互に作用しながら水分保持、浸透圧調整、神経興奮や筋収縮に重要な役割を果たしています。摂取されたカリウムは主に腎臓で調節されており血中カリウム値3.6~5.0mEq/Lに保たれています。
カリウムは果物、野菜、藻類に多く含まれており、摂取の目安は1日約3000mgで殆どが腎臓から排出されます。多く摂りすぎても腎臓機能が正常であれば血中濃度はほとんど変化しません。逆にカリウム摂取が減少しても細胞内の大量のカリウムが緩衝し血中濃度の低下を妨げます。でもカリウムが下がって困ることがあるのです。
カリウムは少々下がっても症状はありません。下がりすぎると筋肉痛、こわばり、脱力、筋力低下、腸管麻痺、さらに下がると致死性不整脈が出ます。教科書的には3.0mEq/L以下になると筋力低下、2.5mEq/L以下になると重篤とありますが、大体2.5mEq/L以下になると筋肉の症状、2.0mEq/L以下になるとこれはやばい、という印象です。
カリウムが低くなる原因として、摂取量減少、カリウムの喪失促進、カリウムの細胞内への移動があります。
ただしカリウムの摂取量が減っても細胞内に大量にストックがあるので少々のことではカリウム濃度は低下しません。
カリウムが本格的に減少するには嘔吐・下痢、下剤乱用で腎臓以外の消化管から喪失してしまう場合、そして腎臓から大量に喪失してしまう場合、があります。利尿剤、甘草の含まれる漢方薬の長期服用は腎臓からのカリウム喪失の代表的な例です。ある種の抗生剤、抗がん剤もカリウム排泄を促します。
またインスリン投与や喘息に用いる吸入薬の作用で血液中のカリウムが細胞の中に移動して血液中のカリウム濃度が低下することもあります。
80歳代の女性、普段は歩いてこられるのですが、ある日家族に連れられて車いすで来院されました。急に立ち上がれなくなった、と言われます。脳梗塞の麻痺というわけではなさそうですが、採血してみるとカリウム2.2mEq/Lとなっていました。低カリウムによる筋力低下の診断ですが、原因は漢方薬の副作用でした。甘草という成分を含む漢方薬(カゼ薬に普通に含まれています)の過剰摂取、長期摂取で低カリウム・血圧上昇といったアルドステロンというホルモン過剰に似た状態を起こします。通常甘草の1日接種量が2.5g以下なら大丈夫(通常の漢方薬はそれ以下です)ですが個人差もありなんともいえません。
このようなケースではまずは原因となる薬剤を中止します。中止しただけでもしばらくして改善するのですが、怖い不整脈を伴っている低カリウム血症の場合は、迅速にカリウム補正をしなければなりません。
高カリウムも怖いのですが治療も多く存在し、即効性のあるものがあります。これに対して低カリウムの場合、急速なカリウム上昇は心臓に悪影響を与えますので急速なカリウム投与をするわけにはいきません。以外と難しいのです。
50歳代女性、カリウム2.9mEq/Lと低いです。以前より低く内服のカリウム製剤を用いているのですがなかなか正常にはなりません。腎臓からのカリウム排泄量は多そうなのですが、どこで診てもらっても正しい診断がつかないのです。慢性便秘で下剤は多用されます。カリウムが低いことによる便秘かどうかもわかりません。
この方に限らず慢性的にカリウムが低く、カリウム製剤内服だけでは補正できないことがあります。
そこでマグネシウムの登場です。マグネシウムは細胞の各種反応の起爆剤ともいわれる大切な電解質です。リラックス効果、血圧の調整、筋肉を緩める、神経の伝達といった様々な働きがあります。筋肉はカルシウムで力を入れてマグネシウムでリラックス、といった印象です。
さてこのマグネシウムはカリウムが尿中に排泄されるのを邪魔する働きがあります。マグネシウムが不足するとカリウムが尿に出ていってしまうのです。すなわち低カリウム血症でカリウム製剤を投与してもなかなかカリウムが上がってこない場合はマグネシウムも不足していることが多く、マグネシウムを一緒に取り入れるとうまくいくのです。マグネシウム不足で起こる便秘、睡眠障害、片頭痛にも有効となります。
原因不明の筋肉痛、筋力低下や脱力がある場合はカリウム不足の可能性があることも覚えておいてください。