ファスティングのすすめ
ファスティングとは一定期間食べ物を断つ行為(断食)です。
この話をする前に少し解説します。
500万年前に人類が誕生してから常に飢餓との闘いでした。人間の体は何とかエネルギーを確保しようと血糖値を上げる方向に働きます。成長ホルモン、グルカゴン、コルチゾール、カテコラミンすべて血糖を上げるホルモンです。一方血糖を下げるホルモンは唯一インスリンのみです。
戦後の食糧難を経て昭和50年代頃から飽食の時代を迎えました。飽食とは食べたいと思ったものを何でも手に入れられる状態を指します。食事をして満腹になっても美味しそうなものを見るとさらに食べてしまいます。ただし防腐剤、人工甘味料など体にとって良くないものも摂るようになりました。
現在飢餓とは正反対の状態が続いています。
500万年前に作られた我々の体がたった50年で変化するはずはありません。血糖を上げるのに必死だった体が、今度は血糖が下がらなくて困っています。インスリンを作る性能が上がったわけでもなく、ひたすら糖尿病まっしぐらになっています。次々に新しい糖尿病の薬が開発されても年間失明5000人、下肢切断5000人、透析導入15000人といった結果になっています。
食べ過ぎは糖尿病の発症だけではなく、活性酸素が増加し老化の原因に、胃腸機能が低下し免疫力低下による健康被害に、脂肪の蓄積は動脈硬化のトリガーとなり心血管病変を増加させます。
エネルギーの話です。食後血糖値が上がりブドウ糖が細胞に入って利用されますが、2時間で最高値になりせいぜい4時間程度しかもちません。それでは眠っている間もたないので、肝臓や筋肉のグリコーゲンが分解しブドウ糖として利用されます。
ここからが大切で、10時間以降さらにブドウ糖を摂取しないと16~18時間で今度はブドウ糖代謝からケトン体代謝に変化します。脂肪や筋肉を分解してケトン体をエネルギーとして利用することが出来るのです。
ケトン体へのシフトチェンジ、メタボリックスイッチとも呼ばれます。でも全員がこれを得意とするわけではありません。ここまでを覚えておいてください。
さてファスティングにはいろいろな方法があります。一般的な16時間の簡単なファスティングから、24時間、あるいは1週間まで様々です。長期間になるとそれなりに補充すべきものが必要で、その後も急に食事できないなど専門的になりますのでここでは触れません。
簡単にできるファスティングは16時間の絶食を週1回行うことです。間歇的なファスティングは科学的根拠があるのです。(N Engl J Med 2019; 381:2541-2551) 16時間絶食することで(この論文では18時間ですが)細胞でオートファジーが誘導されます。オートファジーとは聞いたことはあるかもしれませんが、古くなった細胞を内側から新しく生まれ変わらせる仕組みです。もちろん恒常的にオートファジーはおこっていますが、飢餓状態でさらに誘導されます。細胞内にある様々な部品の品質管理をしているようなものです。
ファスティングをすることで腸を休ませることが出来ます。グルテン・カゼインなど分解しにくいものが常に入ってくると腸上皮のバリア機能が低下してきます。休ませることで回復することが出来るのです。
脂肪が減少することで、肥満者における体重減少、インスリン抵抗性の改善、副交感神経の亢進などが見られます。体のあちこちでのボヤ、すなわち慢性炎症も鎮めることができ、血管の炎症をとり心血管病変の減少にもつながります。
糖質制限やケトジェニックダイエットという言葉も似たようなことをしています。
16時間絶食というと、食べれる時間は8時間となります。夕方4時半にご飯は終了、翌朝8時半に朝食です。(書いていて昔の国立病院を思い出しました、患者さんたち怒ってましたが夕食が4時半でした、職員が5時に帰るのが理由でファスティングではないのですが)
でもこの時間帯は働いている世代には無理そうです。
であれば夕食後睡眠をとり翌日の朝食は抜いて昼食は遅めに、でも良いです。もちろん毎日でなくてもいいのです。週1回から始めればよいのです。
個人的には休日を挟んで16~18時間絶食を週1回行っています。土曜の夕食後、翌日の3時頃まで何も食べない。もちろん糖分の入っていない水分はしっかり摂ります。
ひとつ注意する点は、エネルギー源として糖質しか使えない人たち、ガリガリで脂肪のない人、肝硬変、副腎疲労などの方はファスティングしてはいけません。
ファスティングというと痩せることのみ連想しがちですが、体感できる効果として肌の調子が良くなる、便秘が改善する、何となくだるいのがマシになった、など。しかし食べ過ぎることで体に起こるデメリットを減らし、腸を休ませること、慢性炎症改善、オートファジー亢進で様々なメリットを享受し、その先の心血管疾患の予防、感染症予防、認知機能改善などが得られれば幸いです。
人類は大昔から飢餓に適応できるようにできています。食べ過ぎで体が弱っていっては困ったものです。飽食の時代ですが体に備わったシステムをたまには使ってみて健康増進してみるのはいかがでしょうか。