健診での尿検査

健診で腎臓が悪いと言われました、と来られる患者さんがおられます。尿蛋白が陽性のようです。今回は検尿のお話しです。

まずは腎臓についてです。

腎臓は腰のあたりの左右にある10cm程度の臓器です。同じ働きをする内臓が二つもあるんですよ。
主に尿を作り水分や老廃物を捨てる働きをします。その他、血圧調整、赤血球産生、電解質バランス維持、骨の維持など多彩な機能を持った臓器です。腎臓の中には細い血管や尿細管がぎっしり詰まってます。

健診で腎臓が悪いと指摘された方は主に、尿検査(尿蛋白、尿潜血)血液検査のクレアチニン(と計算式のeGFR)に異常があります。なぜか尿酸値が高い場合も腎臓が指摘されるようです。

腎臓が悪くなるとどうなるか?
少々悪くなった程度では代償されるので何も症状は出ません。とことん悪くなると、先程の腎臓の働きの逆で、体が浮腫み、食欲低下、血圧乱高下、貧血、高カリウム、病的骨折、などが起こります。さらに腎臓の機能が廃絶すると血液透析に移行しなければ生命維持ができません。

週3回病院に通院が必要なのです=腎不全で透析をしているのです、という状態です。(もちろん別の原因もありますが)

健診で血圧の高い方はいくらでもいますが、本当に腎臓が悪い方は滅多にいません。

血圧の高い患者さんが薬局で足が浮腫む、と言ったら、「それは腎臓が悪いのでしょう、早く専門医に診てもらってください」と言われた、と来られました。イヤイヤそれは腎臓ではなく血圧のCa拮抗剤が悪いのでしょう。こんな例はよくあることで、足が浮腫む=腎臓が悪い、は滅多にないのです。

片方ずつ腎機能が悪くなれば良いのですが、外傷や癌を除いては、腎臓は血管の塊であるために血管を悪くする高血圧や糖尿病で腎障害は徐々に進行するのです。血圧に関係なく腎臓特有の病気もあります。

尿検査の話です。
尿を検査するだけで腎臓病、糖尿病の有無がある程度わかります。若い方の生命保険は問診、血圧、尿検査だけ、という場合も多いですね。尿検査は重要なのです。
本来尿検査は早朝尿が良いのですが、健診では昼前が多いようですね。
健診での検尿は基本テステープで判定します。その後尿を遠心分離して沈査を観察する場合もあります。

まずは尿蛋白の話。
腎臓内部には糸球体という血液を濾過する装置が多数あり、ごく少量の蛋白しか通過しません。腎臓に障害が起きてそのフィルター構造が破壊されると尿中に蛋白が漏れ出し、これを尿蛋白といいます。

正常でもわずかに尿に蛋白は漏れ出します。数十ミリグラム程度です。本格的な腎臓病、特にネフローゼ症候群などでは1日の尿蛋白が正常の100倍以上になります。腎臓が痛んで内部の糸球体の濾過フィルターがボロボロになった状態です。
一般的なのは高血圧を放置して腎臓の細かい血管の内皮細胞が障害され蛋白が漏れ出し始めていることです。尿蛋白陽性を伴った高血圧はしっかり管理しないといけません。

立位、運動、脱水などにより一時的に尿中に蛋白が出現することがあります。尿蛋白の量は多くなく通常の安静時に再検して尿蛋白が出現しなければ問題ないとして良いのです。夜勤のドライバーで荷物の積み下ろしのあと健診に来られる方がおられるのですが、尿蛋白は(2+)でした。その後通常の状態だと(-)となり教科書に書いてあるよりも尿蛋白の変動は激しいようです。

次は尿潜血についてです。
尿が赤いのは肉眼的血尿といって誰でもわかり、びっくりして医療機関を受診します。若者は一過性で二度と肉眼的血尿が出ない場合も多く、放置でよいことが多いです。実際精査しても原因不明であることが多いのです。中高年では尿路結石、尿路系の悪性腫瘍の可能性があり、しっかり泌尿器科で調べてもらいましょう。

健診での尿潜血とは、尿の色は正常だけれども顕微鏡でみると赤血球がでているので、血尿。顕微鏡的血尿といいます。腎臓・尿管・膀胱・尿道など尿の通り道のいずれかに損傷・出血があると尿潜血が出現します。当然悪性腫瘍でも始めは顕微鏡的血尿のことがあります。

尿潜血陽性のうち約半数は一過性に終わり、40%は持続し、10%で経過中に尿蛋白も出現し本格的な腎臓病になり、その一部が腎不全になるといわれています。

顕微鏡的血尿1+なら悪性腫瘍リスク1%未満ですが、2+, 3+になるにつれリスクは増してきます。ちなみに中高年の肉眼的血尿では悪性腫瘍である率は10~28%といわれています。

ついでに尿糖の話。
尿糖(3+~4+)、これは放置してはいけません。血糖値が180~200mg/dlになると尿糖が(+)になります。尿糖が出ている場合は糖尿病の可能性が高いのです。最近SGLT2阻害薬という薬が糖尿病以外にも使用されており、そのため陽性になることもあります。また腎性糖尿といって腎臓の問題で尿糖陽性になる場合があります。健診では採血で血糖値も一緒に測定するのでスルーされることはないでしょうが。

以上、簡単に尿検査を見るポイントは尿蛋白、尿潜血、尿糖の3つです。
それぞれ程度により(-)、(±)、(1+)~(3+)に分かれています。
正常はどれもマイナス。
尿蛋白±だけなら放置。尿蛋白1+で潜血正常なら経過観察。尿蛋白1+、潜血1+が共に続けば要受診。
尿蛋白2+以上が続けば腎臓が悪い可能性が高い。
尿潜血2+以上が持続する場合は中高年は精査必要。
尿糖3+で血糖値高ければ糖尿病。
簡単にはこんな感じです。

腎機能は年齢とともに低下していくので、年をとっても元気なうちは腎機能が廃絶し透析(末期腎不全といいます)にならないようにすることが目標です。透析になると日常生活が大きく制限されてしまいます。

補足すると心臓病末期=生命の終わり、ですが、腎臓病末期=透析の始まり、です。

下図は健診時での尿蛋白の程度とその後の末期腎不全発症率です。

具体的には尿蛋白が(1+)の場合、15年後に末期腎不全になる率は1%、(2+)の場合、6%、(3+)の場合は14%程度です。
まあ1+~2+程度なら放っておいても余程運が悪くなければ大丈夫?といえば腎臓内科には叱られそうですが。

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Figure 2Cumulative incidence of end-stage renal disease (ESRD) by the time after screening in each degree of proteinuria. Study period was from April 1983 to December 2000. Symbols are: (▴), proteinuria ≥3+; (○), proteinuria 2+; (▵), proteinuria +; (⋄), proteinuria ±; and (•), proteinuria -. Kidney Int 63:1468-1474, 2003より

以上、健診での尿検査異常はこんな感じで考えています。いきなり腎臓内科に行く必要はなく、まずはかかりつけの先生に相談してみてください。次回は腎機能の指標であるクレアチニンについてお話しします。