ウェアラブルデバイスと健康管理

ウェアラブルデバイスとは、手首や腕に装着する小型コンピューターのことです。スマートフォンの普及以降急速に発展してきました。現在はアップルウォッチに代表される腕時計型が主流です。特殊用途としてはメガネのように装着するスマートグラスが挙げられます。2013年がウェアラブルデバイス元年だそうです。このころからスマホが爆発的に普及しクラウドコンピューティングとの連携が可能となり、小型・軽量・省電力のさまざまな用途に合わせたデバイスが次々に登場しました。

ウェアラブルデバイスの用途は幅広く、腕時計型の端末でスマートフォンと連携して同様の使い方をする、生体情報や運動を記録して健康維持に役立てる。またスマートグラスでは両手の自由を確保しつつ情報を確認でき、あるいは現実空間に仮想空間を重ね合わせて表示する、など様々な領域での利用が考えられています。

腕時計型の格安のウェアラブルデバイスでも歩数、移動距離、消費カロリー、体温、心拍数、酸素飽和度、血圧、ストレス度、睡眠といった基本的な生体情報はある程度正確に測定できます。座りすぎ注意などのアラート機能も備わっています。

健康管理としては今から述べる個人の健康管理の他に、企業が従業員のデータを収集し産業医が健康サポートを行う、あるいは収集されたデータから集中力低下やストレス度合いを検出し、メンタルヘルスに役立てる方法もあります。

健康管理におけるウェアラブルデバイスの最初のステージとして、データの測定・収集・閲覧です。次にデータを自動解析してアラートをだすことです。ここまでは瞬時の計測データによるものです。そしてデータを蓄積して今の状態を続けた場合、今後どういった疾患が発生しやすいか、などを予測します。さらなるステージとしては、疾患発症リスクを減らすための対策を提案するようなサービスが出てくる可能性があります。

様々な可能性を秘めたウェアラブルデバイスですが、とりあえず血圧、心拍異常、睡眠、血糖値に注目してみましょう。

高血圧症は日本人での死亡寄与度2位の重要な病気です。血圧は通常夜間は低いのですが、夜間上昇するタイプは臓器障害、心血管事故が多いとされ夜間血圧を正確に測定することが重要でした。医療機器では昔から使用されている24時間血圧計というのがありますが、ウェアラブルとは程遠いデバイスです。

血圧は従来カフで加圧して測定しますが、心拍数や血流などの測定を組み合わせることで推定することができ、格安なウェアラブルデバイスで主流の計測方法となっています。正確ではないけれども大体の傾向がつかめれば良い、という方はまずは一般的な腕時計型のもので試してみてください。
2019年にオムロンから医療機器認定を受けたHeartGuideという腕時計型の製品が発売され(高価ですが)1日中腕時計タイプを装着することで、簡単に夜間の血圧が測定できるようになりました。従来の大型の24時間血圧計にとって代わる存在になりそうです。

次に心拍異常。動悸で来られる患者さんは多いのですが、除外しておきたい不整脈に心房細動があります。詳細は省きますが、脳梗塞の原因となる心房細動をどうやって記録するかが大きな問題でした。めったに出現しない不整脈はクリニックでたまたま出るはずもないし、24時間記録できるホルター心電図でもなかなか当たりませんでした。

2020年に、スマートウォッチとしては初めてApple WatchのECG機能が医療機器として認められました。Apple Watchで測定されたデータからある条件下ではありますが、心房細動を診断することができます。このようにウェアラブルデバイスで心拍異常が診断できることは医師・患者双方にとって心強いものです。ただし治療不要の不整脈が見つかり患者さんだけを不安にさせることもありますが。

睡眠は一生のうちの1/3~1/4を占める大切な時間です。この時間を有意義に過ごすためにウェアラブルデバイスの登場です。現在簡易的なデバイスにも睡眠の状態あるいは、いびきの録音ができます。睡眠に特化したものであれば睡眠を浅睡眠、深睡眠、REM睡眠(夢を見る睡眠)を簡易判別します。血中酸素濃度を連続して測定することも可能です。(正確ではないので医療機器承認はされてませんが)

これらのデバイスで得られたデータからいびきが激しく、血中酸素濃度の低下があれば、睡眠時無呼吸症候群を疑い受診されるのが良いでしょう。眠りが浅い人で下に述べる血糖値が夜間下がりすぎている人は、血糖値の維持が出来ず眠りが浅いタイプかもしれません。医療機関を受診された場合に問診だけでなく、デバイスのデータをお示しいただくことで診察内容が充実します。

さて最後は血糖測定です。血糖値が高くなるとご存じの通り糖尿病となります。特殊なものを除いてはまさに生活習慣で起こる病気です。従来は年1回の健康診断でHbA1Cと空腹時血糖を測定し、糖尿病疑いあるいは受診勧奨がされてました。今でもそうですが。
糖尿病になりインスリンを打ち始めると自己血糖測定(SMBG)といって自分で指先に針を刺して測定器で測る方法が長く用いられてきました。繊細な指先に毎回針を刺すなんて、嫌ですね。でも病院では当たり前のように教育入院という言葉でSMBGを行っています。

現在各社が非侵襲的な血糖測定装置を開発しています。すでに完成している機器もありますが残念ながら医療機器承認されてません。その中で、完全非侵襲的ではないですがウェアラブルデバイスとしての持続血糖測定器FreeStyleリブレが2017年から販売開始になりました。上腕皮下に細い電極を刺し、血漿中のブドウ糖濃度を測定します。ほぼ正確に血中ブドウ糖値を反映します。好きな時間にリーダーあるいはスマホをかざすだけで血糖値が表示されます。いちいち指先を消毒してプチっなんて不要なのです。

リブレによって血糖測定が大きく変わりました。保険適応は2022年から拡大され、1回でもインスリン製剤を注射している患者さんです。ただし保険関係なくAmazonなどで誰でも購入することができます。

最近腹が出てきたお父さん、毎日アイスを必ず食べる貴女、リブレつけてみてください。あらまあ、食後血糖値がぐんぐん上昇する、糖尿病の診断基準をぎりぎり超す方続出です。こんなに皆糖尿病だったのか・・・。あるいはリブレのなかった時代の診断基準は見直すべきなのか・・・。
このことで食後運動始めよう、アイスを毎日食べるのは止めよう、といった行動変化が起こればそれがベストです。
今までのように月1回病院いってHbA1cいくらでした、食事・運動頑張ってください、なんて言われても全くピンときませんでしたからね。でもリブレつける場合は医師の指導は必ず受けてくださいね。

今回はウェアラブルデバイスでの健康管理の具体例として血圧、脈拍、睡眠、血糖値をお示ししました。リブレはパッチ式ですが、あとは割と簡単にデータ収集が可能です。しかもこれらは比較的短い期間において得られる指標で、ウェアラブルデバイスの実力のほんの一部です。

私の日常診療でも患者さんのウェアラブルデバイスのデータを貴重なデータとして参考にさせていただいております。今後スマホ、腕時計型端末、スマートグラスの組み合わせで想像をはるかに超える健康管理ができる時代になることを楽しみにしています。