聴診器で何が診断できるの?

加齢のふりしてやってくる、心臓弁膜症・・・というCMが以前流れていました。心臓弁膜症のお話しです。

弁膜症は胸に聴診器をあてることから始まります。真剣に聴診するには静かな環境で下着を外してしっかり胸に押し付けて聴きます。聴診しているふり、では何もわかりません。

心臓は1日に10万回、収縮と拡張を繰り返し体中に血液を巡回させています。図にあるように心臓の中には弁が4個あります。それぞれの場所を血液が流れる際に仕切っていて血液が元の場所に逆流しないようにする役割があります。

(図はエドワーズライフサイエンス社のHPより)

正常な弁はしっかり閉じてその後十分開きます。加齢とともに弁そのものが石灰化する、あるいは弁周囲の組織が固くなり弁の開きが悪くなることがあり、これを狭窄といいます。また弁そのものが壊れる、あるいは弁を支持する組織が痛んでしまって締りが悪くなる、これを閉鎖不全(逆流)と呼びます。

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一つの弁に対して狭窄症と逆流症の2パターンがあるので4個の弁x2で8通りの弁膜症があることになります。また狭窄と閉鎖不全が混在していることもあるのでさらにパターンは多いです。

でも実際、問題となる弁膜症は大動脈弁狭窄症と僧帽弁閉鎖不全症の二つが主です。昔はリウマチ熱からの僧帽弁狭窄症も多かったのですが。

聴診器を使って、狭窄症の雑音か、逆流症の雑音か、それ以外かを聞き分けているのです。

では実際の皆さんの健診をみてみましょう。小学校、中学校の検診に呼ばれた際には生まれつきの心臓病(先天性心疾患)による心雑音を見落とさないようにします。

労働者層(大体65歳まで)の健診では、通常先天性心疾患はすでに除外されているので、成人になってから起こる弁膜症を見つけます。

若い人(20~30代)に明らかな心雑音が聴こえたら僧帽弁逸脱症による僧帽弁逆流症の可能性が高いです。僧帽弁逸脱症とは僧帽弁の先端が収縮期に左房側に落ちこむことで僧帽弁の逆流が起こります。軽度であれば放置ですが年々ひどくなってくる場合は僧帽弁形成術が必要です。

次におじさんに心雑音が聴こえたら大動脈の先天性二尖弁の方で、早い時期に大動脈弁狭窄症がおきているのかもしれません。大動脈弁は3尖あるのですが、そのうち二つが癒合していることがあります。この場合狭窄症が早期に起きてくるのです。

退職間際の方で心雑音が聴こえたら大動脈弁狭窄症かもしれないし、以前の心筋梗塞が原因で僧帽弁に逆流をきたしているのかもしれません。

いずれの場合も聴診だけが診断ではなく、心雑音があればその後心エコー検査などを行い、正確な診断をつけるのですが。

さてクリニックに来られる高齢の患者さんの心雑音です。いつも書くのですが本当の高齢者は65歳ではなく(65歳はピンピンしてます)80歳から90歳の方々です。

少し歩くだけでフーフーしている患者さんを聴診するとすぐに大動脈弁狭窄症の診断ができます。このような患者さんはその後の各種検査で症状のある重症大動脈弁狭窄症として治療の適応となります。
ただし大きな心雑音が聴こえて、心エコー検査で重症の大動脈弁狭窄があっても何も症状がない方もおられます。あるいは、寝たきりに近いけれども頭はしっかりされている、自分ではほとんど動けず車いすで連れて来られる方。心雑音があり心エコー検査で重症大動脈弁狭窄症があるのですが、安静にしていることが多いので症状が出ません。さてどう治療してもらったらよいものか。

従来、弁膜症の治療は心臓血管外科医が開胸し心臓を止めて弁を取り換える手術(弁置換術、僧帽弁は弁形成術もあり)を行っていました。大動脈弁狭窄症に関しては若い人は機械弁、高齢者は生体弁と大体決まっていましたが、2013年に経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)が承認されて以来高齢者の外科的大動脈弁置換術(SAVR)は一気にTAVIに置き換えられました。詳しくはそのうち書きます。

内科の先生が首からさげている昔ながらの聴診器も役に立っているのです。