生活習慣病 患者さんへの説明~脂質異常~

脂質異常症の基準値は空腹時採血でLDLコレステロール140mg/dl以上、HDLコレステロール40mg/dl未満、中性脂肪150mg/dl以上となっています。LDLコレステロールに関しては119mg/dl未満ではじめて正常、120~139mg/dlは境界域となっています。

健診で脂質異常を指摘され来院された方で、動脈硬化リスクの殆どない場合は放置で良いことが多いです。
薬物治療が必要な脂質異常症の方で運動大好き・筋肉質・食事に十分気をつけている、という方は殆どいません。いるとすればそれは家族性高コレステロール血症という特殊な病気です。
大抵は小太り、殆ど動かない、タバコ吸っている(今はやめた)、好きなだけ食べる、方が多い印象です。そして脂質異常症だけではなくすでに(或いはそのうち)高血圧症、糖尿病を合併してくる場合が多いです。

高血圧の方は血圧下げるために薬を飲んでいる、糖尿病の方は血糖値を下げる薬を飲んでいることを理解されています。ただし脂質異常症の薬はコレステロール、いや中性脂肪を下げる、よくわからない場合が多い印象です。そしてこれら高血圧、糖尿病、脂質異常症を放置すれば何が起こるか、どんな状況になるかは皆さん理解されていません。いままでしっかり説明してこなかった医師(私を含め)が悪いのでしょう。

何のために脂質異常症を治療するか?それは動脈硬化性疾患の発症を少しでも減らすためです。

1970年代に北欧の氷雪地帯に住むイヌイット族とその近くのデンマーク人とを比較した研究で、イヌイット族はデンマーク人に比べ心筋梗塞による死亡率が1/10であったという報告があります。イヌイットは魚やアザラシを主食とし、デンマーク人は動物由来の肉が主食です。摂取するアブラの種類によりこれだけ動脈硬化性疾患の発症に差がでたわけです。

さて我々が摂取する脂肪は主に脂肪酸と呼ばれるものです。脂肪酸3つとグリセロールが合わさったものを中性脂肪といいます。

コレステロールは主に肝臓で作られます。当然摂取したコレステロールも影響するのですが、通常は多少多くコレステロールを摂取しても肝臓でつくられるコレステロールを調整し血中コレステロールはさほど上がらないのです。摂取するコレステロールが多すぎると、この調整が破綻してどんどん上昇し、脂質異常から脂質異常症という名の病気になります。

詳しいことは省きますが、脂(あぶら)と油(あぶら)の話です。常温で固まる脂(主に動物性)は飽和脂肪酸、常温で液体の油(主に植物性、魚由来)は不飽和脂肪酸といいます。それ以外に本来液体の油を無理やり固形にしたもの(マーガリンなど)はトランス脂肪酸といって体には悪い油です。

ごくごく簡単に飽和脂肪酸は動脈硬化を促進、不飽和脂肪酸のうちのオメガ3系(亜麻仁油、EPAやDHA)は炎症、血栓を抑え動脈硬化を抑制する、と覚えてください。先ほどのイヌイットのお話しです。

摂取した脂肪酸やコレステロールは吸収、分解、再合成され、血液中には脂質として、コレステロール、中性脂肪、リン脂質、遊離脂肪酸の4種類となります。そのうちコレステロールと中性脂肪が重要となってきます。

コレステロールは人の細胞膜や、消化吸収に必要な胆汁酸、ホルモンの元となる重要な物質です。ただしコレステロールはその人のエネルギー源にはなりません。一方中性脂肪は、内臓でエネルギーとして貯蔵される他、保温・外部からの衝撃を和らげ内臓を固定し体内で重要な役割を果たしています。

脂質異常症というのは、これらの脂質の中でも特に、悪玉(LDL)コレステロールや中性脂肪が多過ぎる、あるいは善玉(HDL)コレステロールが少なすぎる、などの状態を示す病気のことです。悪玉(LDL)コレステロールは、余分なコレステロールを血管の壁に沈着させ、動脈硬化を起こしますが、善玉(HDL)コレステロールは逆にその血管内にたまったコレステロールを肝臓へ戻すように働きます。

LDLコレステロールが高すぎると動脈硬化性疾患(心筋梗塞およびアテローム硬化性脳梗塞)の発症リスクが高まります。その際、同時に中性脂肪が高値だとLDLコレステロールが小粒になり血管内の滞留時間が長くなり、血管内皮下に侵入し酸化を受け泡沫化しプラーク形成を助長します。LDLコレステロールが高く同時に中性脂肪も高い人は要注意です。

これら脂質異常症に加齢、高血圧症、糖尿病、喫煙などが加わるとプラーク形成助長、プラーク破裂のリスクが高まります。加齢は仕方ないとしても高血圧、糖尿病、喫煙は是正すべきなのです。

脂質異常症の治療としてまずは生活習慣の改善が必要です。すなわち食事、運動、体重コントロール、禁煙です。

魚とアザラシだけ食べましょうではないですが、過食、アルコール多飲を控え、飽和脂肪酸(固まる脂)をある程度制限しましょう。コレステロールを上げる食材として、加工肉、卵、乳製品、お菓子、カップ麺など。下げる食品は緑黄色野菜、キノコ類、魚・大豆製品、未精製の穀類や麦などです。なお善玉コレステロールを上昇させるためには運動、禁煙以外は効果は少ないとされています。

運動は中等度以上の有酸素運動を毎日30分目標にして下さい。もちろん通勤でよく歩き、階段を使うなどしていただければ十分です。若い方は激しい筋トレを併用、高齢者は下肢筋力をつけて転倒予防を目標としてください。

食事、運動を十分行ってもLDLコレステロールや中性脂肪が下がらない場合には薬を内服することになります。素晴らしい薬なので飲むとすぐに下がるのですが、そこで食事・運動を元にもどしてはいけません。

飽食の時代、いつでも美味しい甘いものが手に入る、在宅勤務で動かない、生活習慣病(高血圧・糖尿病・脂質異常症)はますます増えてきています。優秀な薬も出そろっていますが内服して見かけ上の数値だけ改善しても良くはありません。資産である健康を手に入れるには生活習慣の改善が必須です。