頸動脈エコー

頸動脈エコー検査のお話です。人間ドックをすると頸動脈エコーがついてくる場合があります。
頸動脈を見ることで動脈硬化の程度を見るのが目的です。

健康で若々しい血管は、弾力がありしなやかです。しかし年齢を重ねるにつれ、肌と同じようにしなやかさがなくなり硬くもろい状態に変わっていきます。人によって程度は違いますが、加齢により必ず起こってくる現象です。

「人は血管とともに老いる」、と昔からいわれてますが、臨床的に老いて困る血管は、脳・心臓・下肢動脈です。
脳の血管の動脈硬化により脳梗塞が、心臓の表面の冠動脈硬化により心筋梗塞が、そして下肢血管の動脈硬化により間欠性跛行(歩行すると足が痛くなる)が起きてきます。

動脈硬化といっても動脈全体がしなやかさを失い全体的に固くなっている場合、またプラーク形成といって悪玉コレステロールが血管の下に入り込んでコブを作る場合、あるいは両者が混じった状態があります。プラークが大きくなると血管が狭くなりその先の血流が少なくなります。脳では一過性虚血発作(急に手足に力が入らなくなる)、心臓では狭心症発作(動くと胸が痛い)といった状態です。プラークにも硬くて安定しているプラークもあれば、ブヨブヨして破れて血栓がすぐにつくような悪いプラークもあります。何らかの刺激で破れやすい不安定プラークこそが最も質の悪い動脈硬化なのです。

脳・心臓・下肢動脈の評価を行う場合、さまざまな方法があります。
動脈全体が固いかどうかはCAVI(血管伸展性検査)といって心臓から流れ出た血液が両下肢に到達するまでの時間や波形の変化を見る事で、 動脈硬化の程度を判断するものです。簡単な検査でクリニックでもできます。

血管のしなやかさという意味では血管表面の内皮細胞の機能に注目です。FMD検査(血流依存性血管拡張反応)という検査で非侵襲的に血管の内皮機能を測定する方法です。超音波診断装置を用いて測定します。

血管が固いと判断された場合は血管にプラークがあり細いところがないかどうかを調べます。脳では頭部MRIおよび頭頚部MRAで大体のことがわかります。さらに詳しくは造影剤を用いたCT検査でプラークの質まである程度わかります。心臓表面の冠動脈も同様に造影CT検査を行うことで冠動脈の狭窄度合いやプラークの質(安定しているか不安定か)まで調べることができます。下肢血管も造影剤を用いたCT検査を行うことで詳細に評価ができます。

ドックでは脳ドックとしてMRIを行うことはありますが、造影剤を用いてのCT検査は多少のリスクもあり普通は行いません。そこで超音波検査(エコー検査)の登場です。エコー検査でも動脈硬化の詳細を把握することができるのですが、体表面に近い部分しか評価できません。体表面に近く、様々な情報を提供してくれるのが、頸動脈なのです。

頸動脈はこんな感じです。大動脈から総頚動脈がでて、内頚動脈と外頸動脈に分かれます。内頚動脈が脳内を栄養する重要な血管です。外頸動脈は様々な枝を出し顔面を中心に栄養します。上の図の赤く囲った範囲をエコーで観察します。

観察すると頸動脈壁の厚さ(内膜中膜複合体肥厚の程度)やプラークの有無がわかります。

頸動脈エコーで観察して内膜肥厚やプラークがあると何となく悪そうなのですが、一体何の病気の予測になるのですか?とよく聞かれます。
頸動脈表面の一層の肥厚を内膜と中膜の複合体の厚さ(IMT)と呼びます。IMTは加齢により分厚くなるのですが、IMTが1.1mmを超えると全身の動脈硬化の指標として重要となってきます。プラークに関しては大きければそれだけで頸動脈の内腔を圧排し血流障害となるのですが、重要なのはプラークの性状です。プラークの表面が欠損して潰瘍形成しているものや、可動性のあるもの、これらは非常に脳梗塞のリスクが高くなります。これを正確に評価できるのが頸動脈エコーの良いところです。

頸動脈エコー検査で頸動脈IMTが肥厚していると脳卒中発症リスクは高い、IMTが肥厚していると脳卒中は再発しやすい、血清HDL-Cが低いと頸動脈IMTは肥厚しやすい、といったことはこれまでわかっていました。では頸動脈エコーで心疾患発症の予測ができるかに関しては、はっきりしたことはわかっていませんでした。2018年に国循のグループが頸動脈プラーク進展はその後の循環器病発症リスクに関係する、との報告をしました。IMT肥厚が循環器病発症リスク予測に有効で、初回測定時に有意なプラークがなくてもその後プラークができた場合、その後の循環器病発症リスクが高まるというものです。

このように頸動脈エコーでのIMTやプラーク評価により脳・心血管イベントのリスクを評価することができます。
全身の動脈の中で最も簡単に評価できるのが頸動脈で、頸動脈エコーは全身の動脈硬化の窓としての役割があるのです。