健診で高血圧を指摘されました
会社の健診で高血圧を指摘され来院される方は多いです。ほとんどの方は受診した証明を書いてくれ、と来られます。皆さん何も症状がないので仕方ないですね。
わざわざお越しいただきありがとうございます。用紙は書きますが、ちょっと待ってください。
日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」の基準では、診察室での収縮期血圧が140mmHg以上、または拡張期血圧が90mmHg以上の場合を高血圧と診断します。また自宅で測る家庭血圧の場合は、診察室よりも5mmHg低い基準が用いられます。高血圧が持続すると、動脈硬化を進め、狭心症、心筋梗塞、心不全、脳血管障害や認知症のリスクが高まります。
まあ細かな数字はいいのですが、結論として高血圧を放置しないでください。
日本では4300万人が高血圧といわれています。治療介入をしている人の中で、コントロール良好とされているのはそのうち25%とされています。
そもそも血圧とは、心臓から送り出される血液が全身へと流れていく際、動脈の内側にかかる圧力のことです。
血圧=心拍出量 X 末梢血管抵抗 です。緊張して心臓がバクバクしても、塩分摂りすぎて体液量が増えても、また動脈硬化で血管がカチカチになっても、あるいは両者が合わさっても上がります。
血圧は常に変動しており日内、週内、季節内それぞれで変動します。週末は会社でのストレスがなく下がるケースや、寒くなると一般的に血圧は上昇傾向です。
下図は2007年の我が国の死亡者数への影響です。感染症、外因死は除いてあります。
死亡原因にはタバコと高血圧が突出してます。男女別では、男性はタバコ、女性は高血圧が一位です。
症状のない中高年の方に血圧下げましょう、といってもなかなか伝わりません。まず下げる意義を説明することから始めます。簡単にいうと血圧を下げる目的は健康寿命を延ばすことです。高血圧を放置しておくと脳、心臓、血管、腎臓が障害を受けます。脳は脳卒中(脳梗塞や脳出血)のリスクが増えます。心臓は血圧の影響で心筋細胞が肥大し、また心臓表面の血管が硬化することで心筋梗塞のリスクが増えます。高い圧力が大動脈に加わることで大動脈解離、大動脈瘤が起こりやすくなります。腎臓に高い圧力が加わると腎臓自体の小血管が硬化し腎機能低下が進行、最終的には透析となります。
メタボリックドミノといって慶応大学の伊藤先生が提唱された概念で、最も上流に悪い生活習慣があります。最近では歯医者さんが、最上流は歯周病であると強調されてます。内臓脂肪・肥満となりそれが倒れるとパタパタと1枚ずつ倒れ、真ん中の食後高血糖・高血圧・高脂血症のところまで来ます。そのうちどれかが倒れてもその後一斉に倒れ始めます。この段階では本人はまだ病気と思っていません。病気になってから、症状が出てから仕方なく病院に行こうと思っているのです。高血圧の札が倒れると一番危ないのですが、もちろん3枚とも一気に倒れるとドミノ倒しのスピードがさらに速まります。最終的には最前列の心不全・脳卒中・認知症その他、でゲームオーバー。
できるだけ高血圧のところまでで止めておくことが重要です。高血圧が倒れ始めても、何とか初期の段階で切れ味のよい治療をして、目標血圧まで下げることで高血圧の札が倒れるのを防ぎましょう。
血圧が高くて来られた方は先ほどの式 血圧=心拍出量 X 末梢血管抵抗 に従うとそれぞれのいずれかが(あるいはいずれもが)異常をきたしています。
塩分溜め込みすぎ、神経興奮しすぎ、で心拍出量が上がっている場合はそれを抑える取り組み、治療が必要です。
末梢血管抵抗が上がっている、すなわち血管がすでに動脈硬化でカチカチの場合は注意が必要です。この場合は全身の血管を調べる必要があります。頭部MRIを撮ると意外と小さな脳梗塞があったり、頭蓋内血管が狭くなっているケースもあります。心臓表面の動脈硬化に起因する狭心症は、労作時の胸痛が症状、と昔から言われてますが典型的な症状はむしろまれです。積極的に調べにいく必要があります。突然死を引き起こす急性大動脈解離も事前に何らかのサインを察知しなければなりません。足の血管は比較的症状があるのでわかる場合が多いのですがこちらも要注意です。
高血圧症の患者さんの1割程度は二次性高血圧症といって副腎の異常、腎血管の異常などに起因するものがあり、それらの治療をすることで治ることが多いので最初に鑑別するようにしています。
また、薬を増やしてもコントロールできない治療抵抗性の高血圧症は睡眠時無呼吸がひそんでいることがあり、こちらも同時に検査を行います。
このように、健診で高血圧だけ指摘されたとしても、その時点で他の疾患の合併や全身の血管が痛んでいる場合があることを留意しなければなりません。そしてドミノ碑の両脇の食後高血糖と高脂血症に関しても一緒に見ていく必要があります。
1年半前から始まったコロナ騒動で、コロナ太り、コロナうつ、など食べ過ぎ、運動不足、ストレスといった血圧を上昇される要因が増えました。健康はその人の資産です。働き盛りの方々の高血圧のドミノ碑を何とか倒すことなく踏ん張りたいところです。