慢性上咽頭炎
慢性上咽頭炎。耳鼻科で治療する病気ですが、実は全身に関係のある病気です。
人間の細胞は約60兆個、実はその10倍ほどの数の細菌が私たちの体を取り巻いてます。その多くは腸管に住みついています。口から腸管、肛門を一つの管とみると、これら消化管は人間の体では「外」なのです。それらの細菌は常に我々の体を攻撃しようとしています。
細菌だけではなく空気中のウイルスも常に攻撃する機会をうかがってます。
そこで鼻と口(特に鼻)、腸にはそれらの細菌が悪さをしないようしっかりと見張りをする免疫細胞が多数存在します。鼻や腸のリンパ球は外敵から体を守るため常に臨戦態勢なのです。
細菌・ウイルスなどの外敵が侵入するとそれを食い止めるため体は炎症を引き起こします。外敵を排除できればよいのですがそうでない場合は常に炎症が持続します。慢性炎症と言います。大きな火事(急性炎症)ではなく、小さな火事が体の中で常に起こっている状態です。困ったことにそれらの火事が鼻や腸にとどまっていればよいのですが、炎症(火事)から出てきた様々な物質が全身に飛び火して悪さをします。
私たちの体の中で腸と鼻の炎症は非常に重要なのです。腸の炎症はよく知られていますが鼻の慢性炎症、それが慢性上咽頭炎です。
上咽頭とはプールで鼻に水が入った時に痛くなる場所です。上咽頭は外の空気、排気ガス、それに含まれるウイルス・細菌が最初に取り込まれる重要な場所です。カゼをひくとまず上咽頭の急性炎症を引き起こしますが殆どがそのまま治ります(急性上咽頭炎)。上咽頭の炎症が遷延し慢性化して免疫細胞が常に活性化され、粘膜が肥厚しリンパ流や静脈うっ滞が生じた状態が慢性上咽頭炎なのです。
60年前に東京医科歯科大学の堀口先生が上咽頭の慢性炎症を治療すると様々な症状、病気が治った、と報告しました。上咽頭に1%の塩化亜鉛を繰り返し塗布、擦過する方法です。これがBスポット療法の始まりです。頭痛、耳鳴り、肩こり、めまい、後鼻漏の改善をはじめ、うつ、心身症、リウマチ、喘息、膠原病まで改善したとのことです。
上咽頭は細菌・ウイルスの通り道としての免疫細胞の集まりだけでなく、頸部から内臓まで広く分布する迷走神経の重要な通り道なのです。
なぜ上咽頭の炎症をとるだけでここまで病気が治るかということですが、日本病巣疾患研究会は以下のようにまとめています。
瀉血作用:慢性炎症を取り去ることで、脳脊髄液、リンパ、静脈循環の改善、脳内代謝産物、老廃物の除去ができる
迷走神経刺激作用:炎症反射の改善、自律神経のバランス改善が期待できる
消炎作用:炎症物質、粘液産生量の減少、上咽頭活性化リンパ球の鎮静化ができる
これらの作用により上咽頭に近い部分の症状、耳鳴り、後鼻漏、めまい。肩こりはもちろんのこと、リウマチ、アレルギー、IgA腎症、喘息など遠く離れて一見別物に見える病態の改善もできるのです。
上記の症状、病態がすべて慢性上咽頭炎で片付くものではありませんが、それぞれの症状・病態に関して検査して他に原因が見当たらない場合は、原因不明とせずに上咽頭の炎症をとってもらってはいかがでしょうか。
実は私も慢性上咽頭炎を治療し始めました。時間が無くまじめに通院できないのですが、初回治療の際、肩こりがスーッとひいて首が動くようになった感動が忘れられません。
慢性上咽頭炎をよくご存じの耳鼻科の先生に相談してみてください。
40年前から時々訪れる場所