酒を飲んではいけない人
適度な飲酒はコミュニケーションを円滑にします。いくつになっても、大切な人と美味しいお酒を飲みたい。そう思っている人がほとんどだと思います。
一方で過剰飲酒が健康被害、社会問題を引き起こすことも事実です。
酒は体に良いのでしょうか、悪いのでしょうか。
一体みんなどのくらいお酒を飲んでいるのでしょうか。
節度のある適度な飲酒量は1日平均純アルコールで20g(1合)
生活習慣病のリスクを高める飲酒量は純アルコールで40g(2合)
常用飲酒とは1日3合、大酒家とは1日5合、だそうです。
家に帰って暑いので夕食時にビール500ml、入浴後7%の酎ハイ350ml飲むと2合。もう1本酎ハイ飲むと3合、常用飲酒になります。節度のある飲酒とは500mlのビール1本で終わりです。
毎日飲んで、週末飲みに行くと当然節度のある飲酒では終わりません、まあ外行くと4合くらいは飲むのではないでしょうか。人にもよりますが。飲む人は結構飲みますね。
ある会社でアンケートを取ったところ、その会社では若者は、平日は飲まない人が殆どで週末に缶ビール1本程度でした。一方おじさんたちは連日2~3合飲んでいました。
何でもそうですが、平均ってあまり意味がありませんね。
以前から適量のアルコールを飲んでいる人は、まったく飲まない人や大量に飲む人に比べて死亡率が低いとされてきました。(Jカーブ効果といいます)冠動脈疾患が多い欧米の疫学研究に基づくものです。米国では死因の1位は心疾患ですが、我が国では死因の1位はがんです。また心血管疾患とひとくくりにしても欧米は心臓病が多いですが、我が国では脳卒中が多いです。
我が国の飲酒習慣と循環器疾患との関連です。(PMID: 18617651)
全循環器疾患(脳出血、脳梗塞、冠動脈疾患)では結果は欧米と同じで1日1~2合飲む群の死亡率が最も低く、冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)に限っては1日2~3合の群の死亡率が低いことが示されています。逆に脳出血は飲酒量が増えるほど死亡率が増加しています。
両親が心筋梗塞で亡くなった、など心臓病になりやすい家系の方は以下に述べる酵素が大丈夫なら、多少のお酒を飲んだ方が冠動脈疾患発生のリスクは減るでしょう。毎日飲酒を楽しんでください。
日本人の死因1位のがんに関してです。(PMID: 15597102)
アルコールとがんに関しては先ほどのJカーブ効果はありません。すなわち飲酒量が増えれば増えるほど、がんの発生率は上昇してきます。残念ながら適度な飲酒をしている人はがんの発生は低い、というデータはないのです。
アルコールと肝臓に関しては、5合以上あるいはそれ以上のむ大酒家、昼間から飲んでいるアルコール依存は間違いなく肝障害から肝硬変になっていきます。こんなに飲んだら誰が考えても体には良くないですね。
美味しいお酒を飲んだ後いつまでも酔っぱらっておくわけにはいかないので、肝臓でアルコールを分解します。2つの酵素が必要になってきます。以前のブログにも書きましたが大切なことなのでもう一度書きます。
肝臓でアルコールは、主に、ADH1B(アルコール脱水素酵素)の働きによってアセトアルデヒドという有害物質に分解され、さらにALDH2(アルデヒド脱水素酵素)の働きによって無害な酢酸へと変化します。 アセトアルデヒドはお酒を飲んだときの顔面紅潮、動悸や吐き気、頭痛などの原因となる物質でであると同時に恐ろしい発がん物質でもあるです。
ADH1BとALDH2この2つの酵素がバリバリ働いてくれたら特に問題はありません。たくさん飲んで、大量のアセトアルデヒドが作られ顔が赤くなりかけると、アセトアルデヒド分解酵素で酢酸にしてくれます。酔わないし、二日酔いにもなりにくいのです。
日本人の約4割はALDH2の働きが弱い、すなわち有害物質であるアセトアルデヒドを分解するのが遅いのです。
ALDH2の働きが弱い人は飲み始めたばかりのころはすぐに顔が赤くなります。ところが飲んでいくうちに次第に体が慣れてきて赤くなくなるのです。「飲み始めた頃、あるいはその後1~2年はすぐに顔が赤くなりましたか?」このような簡単な問診でALDH2の活性が低いかどうかが分かります。
さて日本人の5~7%はADH1Bの働きが弱い、すなわちゆっくりとアセトアルデヒドが作られます。なかなか酔わないし、顔が真っ赤になるフラッシングが起きにくいのです。
ではADH1B、ALDH2両方の働きが悪いとどうなるのでしょうか。日本人で約3%います。
この人たちはゆっくりアセトアルデヒドが作られるのでなかなか酔いません。自分は酒が強いんだ、と自覚します。でもゆっくり作られた大量のアセトアルデヒドを分解するのも苦手です。
夜中まで飲み歩いた翌日、同僚たちは少し頭痛がする程度で朝から働けているのに、その人だけは本当にひどい吐き気で起き上がれません。少しでも動くと吐きそうになり、ずっとトイレです。決してさぼっているのではないのです。夕方になってやっと楽になり家路につきます。
アセトアルデヒドがなかなか抜けないのです。このような人をみたら2つの酵素の欠損を疑います。
さあ大変。発がん物質であるアセトアルデヒドが体中を駆け巡ってます。この組み合わせの人が飲酒を続けると、食道がんのリスクがそうでない人の30~60倍、さらにタバコが加わるとなんと400倍にもなるのです。
胃カメラでそのうちまだら食道といって、いたるところから癌が発生しやすい状態となっています。また喉を調べると下咽頭癌の合併も高率です。
このような人たちは酒を飲んではいけないのです。
「もう30年間毎日飲んでました」、って。まず今日からお酒を一切やめてください。人生の折り返し地点から先は、癌に対して細心の注意をはらい毎年検査を受けてください。それと余裕があれば検査だけではなく癌に対する免疫を十分上げるために、○○摂取や△△点滴をして積極的に癌を攻撃してください。まだ諦めないでくださいね。