若いのに血圧高いねぇ
血圧が高くても放置している人は多いのですが、40歳で血圧が高く放置していると将来的に様々な合併症をおこします。脳・心臓・血管・腎臓・眼がやられます。血圧が高くてもちっとも自慢になりません。
一般的に高血圧症は遺伝的要因と環境要因で決まります。両親が血圧高い、塩辛いものが好き、肥満体型、このような場合40代後半から血圧の治療というのが多いです。
加齢により血管が硬くなり抵抗が増してくるので、大体60歳以上であれば多少の血圧上昇は仕方ありません。ただし両親ともに高血圧でないのに40歳で高血圧、これは問題です。
若いのに血圧が高くなるのは二次性高血圧症と呼ばれるもので、高血圧全体の10~15%程度を占めます。遺伝的要因が関係する本態性高血圧症とは異なります。(ここで若いというのは大体40歳までのことです)
高血圧治療ガイドラインでは、腎血管性高血圧症・腎実質性高血圧症・原発性アルドステロン症・睡眠時無呼吸症候群・褐色細胞腫・クッシング症候群・・・が原因疾患とされています。
日常臨床でよく見かける二次性高血圧症の原因疾患は、原発性アルドステロン症、睡眠時無呼吸症候群、腎血管性高血圧症、腎実質性高血圧症、薬剤誘発性高血圧症です。腎臓が悪いのはもっと若いころからわかっていることが多く、腎血管が狭くなるのは高齢者に多いです。
若い方が初診で来られて血圧が高い場合は、ある種の薬を常用していないか、そうでなければ原発性アルドステロン症、睡眠時無呼吸症候群(体型も考慮)、腎臓由来を調べることにしています。また他院で降圧剤をだされているにも関わらず全然血圧が下がらない場合も二次性高血圧症を疑います。
原発性アルドステロン症は二次性高血圧症の代表です。以前は稀な疾患と考えられていましたが検査法の進歩に伴い高血圧症の5~10%ともいわれています。原発性アルドステロン症は左右の腎臓の上にある副腎(3~4cmの薄っぺらい臓器)がアルドステロンというホルモンを過剰に産生することにより起こる高血圧症です。副腎腫瘍(片側性でほとんどが良性腫瘍)や過形成(多くは両側性)によるものが原因です。
アルドステロンはナトリウムを溜め込みカリウムを体外に出します。すなわち血管のナトリウムとともに水分量が増加し血圧が高くなります。またアルドステロン自体が心肥大や心筋細胞の線維化、また血管の硬化を促し、腎臓の糸球体を直接障害します。高血圧、動脈硬化を介して脳卒中、虚血性心疾患、末梢動脈疾患を助長します。原発性アルドステロン症の人は通常の高血圧症(本態性高血圧症)の人の数倍、脳卒中や心筋梗塞などの臓器障害のリスクがあります。
詳細な診断は成書を参考にしていただければと思いますが、若いのに血圧が高い、通常の降圧剤では下がりにくい、採血でカリウムが低い(ただし30%程度です)方は要注意です。腹部の画像診断で副腎腫大がある、血液検査でレニンが低くてアルドステロンが高い、場合はさらに詳しいホルモン負荷試験が必要です。
治療は片側性の副腎腫瘍の場合は手術により改善、両側性の過形成の場合はアルドステロン拮抗薬を使用します。原発性アルドステロン症の人に通常の降圧剤で血圧だけを下げてもアルドステロンによる臓器障害は進行していくので要注意です。
若いのに血圧が高く通常の降圧剤ではコントロールできない場合は睡眠時無呼吸症候群も検査しておく必要があります。睡眠時無呼吸症候群は通常は肥満・首が太い方に多いのですが、日本人は顔の前後系が小さいので、その場合顎が小さい・舌が大きい場合は痩せた女性でも睡眠時無呼吸症候群になります。詳細は睡眠時無呼吸症候群のブログをご参照ください。
薬が原因で血圧が高くなる場合があります。若い方で頭痛・腰痛でいつも消炎鎮痛剤を飲んでおられる方がいます。長期連用で血圧が上昇することがあります。ただし中止により速やかに血圧が元に戻るのですが、なかなかやめられないのが現状です。
次に漢方薬。多くの漢方薬に含まれる甘草(カンゾウ)は抗炎症・解毒・抗アレルギーといった作用があり多用されています。甘草という字が入っている芍薬甘草湯・大黄甘草湯、甘草という字が入ってなくても多数の漢方に甘草が含まれています。
甘草の有効成分であるグリチルリチンが原因で原発性アルドステロン症と同様の症状を呈する偽性アルドステロン症が起こり血圧が上昇します。ただし甘草の用量とは関係なく、個人差があるので予測することは困難です。
漢方を連用している、あるいは健康食品にも甘草が入っている場合がありますので、よく聞いてみるしかなさそうです。この場合もやめると高血圧は戻ります。ひどい場合は偽性アルドステロン症による低カリウム血症で筋力低下で発見される場合もあります。
40歳までで血圧が高い場合には上記のような病気があることを知っておいてください。くれぐれも若いのに血圧が高いまま放置しないようにしてください。