適応障害
3月、4月は進学、就職、異動など様々な環境の変化が訪れます。勝ち取った合格・就職、あるいは社内の異動で最初はワクワクしていてもゴールデンウィークあたりになると心身の不調が生じ、気分が落ち込んでくることも多いです。
個人的には産業医をやっていると、社員のストレス度合いが大きいので面談してほしい、と相談されることがよくあります。いろいろな原因で仕事が十分できなくなり専門医を受診すると、適応障害という診断をされることがあります。
職場における適応障害では、新しい環境になじめず、人間関係や上司からの叱責などで、眠れなくなる、不安、焦り、無気力などの精神的な症状が現れます。めまい、吐き気、腹痛などの身体症状も出ることがありこの場合は内科に行くのですが一向に治りません。やがて仕事の効率が低下し、欠勤することが多くなってきます。
精神状態が悪いのでうつ病になったのではないか、と思われるのですがうつ病ではなくこれは適応障害(反応性抑うつ状態)です。
適応障害とは、生活の中で生じる日常的なストレスにうまく対処することができない結果、抑うつや不安感などの精神症状や行動面に変化が現れて社会生活に支障をきたす病気のことです。
世界保健機関の診断ガイドラインでは、原因となるストレスが生じてから1か月以内に発症し、ストレスが解消してから6か月以内に症状が改善するとされていますが、ストレスが長く続く場合には長期間続くこともあります。
もちろん同じストレス、環境の変化が起こっても何も感じない人、少し叱責されるだけで気にする人、個人の感受性の問題も大きいのです。
適応障害とうつ病とは違います。適応障害は発症の引き金があります。ストレスに暴露されたのち早期に発症し、ストレスから解放されるとすぐに良くなることが多いです。一方うつ病は明確な引き金がありませんが、慢性的なストレスに暴露されたのちに発症することはあります。ただしストレスから解放されてもすぐにはよくなりません。
適応障害はうつ状態であっても楽しいことがあると楽しめます。一方うつ病は楽しむことはできません。
うつ病になる人は性格として、真面目で責任感があり、几帳面な人が多いです。一方適応障害になる方には性格の傾向はありません。
うつ病には薬が効きますが、適応障害には効きません。
なお適応障害と似たような言葉で発達障害というのがありますが、こちらは脳機能の偏りによって身体や学習や行動に不全をきたしている状態で、生まれつきの特性なので病気扱いではありません。適応障害は投薬せずに治療が行われる病気扱いとなります。
30代男性、職場で以前多人数でしていた仕事を少人数でさせられている。残業はないがすることは非常に多い。仕事に興味がわかず、集中できない。仕事の朝は布団から出たくない、日曜日になると翌週のことを考えてちっとも楽しくない。同僚との会話も少なく、上司はいるが話せる状況ではなく仕事内容を理解してくれない。徐々に不眠になってきたので酒の量が増えてきた。愚痴を言う相手もいないので一人でひたすら飲む。朝は余計にしんどい。気温が上がってきてからは耳鳴り・めまいも増えてきた。ひどくなってきたので心療内科を受診すると適応障害と診断された。
このケースでは仕事をしていてこうなったのだからおそらく会社が原因なのでしょう。ただし職場の環境は、業務上の要因と業務外の要因、それと本人の個人要因、この3つで成り立っています。この3つの要因を踏まえたうえで不都合があった時に、職場不適応という診断をつけるべきです。
業務上の問題で一番は長時間労働、過重負担です。対人関係、ハラスメントが続きます。異動・転勤での環境変化もあります。本人側の問題としては、本人の得意でない仕事、力量以上の仕事をさせられる、といった場合があります。そして自分にこの仕事は向いてない、となります。本人の適性もあり問題をややこしくします。なお対人関係が苦手な方でも良い上司に巡り合えば解決する場合もあります。
職場で調子悪そうな人がいたら、まずは上司が把握し、得意・不得意も考慮して職場環境を変えてあげないといけません。そして周囲もフォローをしてあげないといけないのです。個人の感受性の問題が大きいのでしょうが、気合を入れてしっかり働け・我慢しろ、などと決して言ってはいけないのです。
勤怠が乱れてきたときは産業医に入ってもらい、必要に応じて診療内科を受診して、うつ病などの違う病気を除外してもらい、本人納得の上で適応障害の診断書を出してもらってください。心療内科の主治医は職場のことはわかりませんので、そこは職場を知っている産業医と連携を取りながら、産業医は会社側に進言して一致点を見出すことが、一番本人のためになるのです。
これからの季節、自分では処理できないほどのストレスが溜まってきても相談に乗ってくれる人は必ずいるはずです。一人で溜め込まず周囲に相談してみて下さい。