あちこちが痛い
特定の場所が痛い場合は場所により診断を絞っていきます。重篤な病気を除外することが大切です。
胸痛なら心筋梗塞、大動脈解離、気胸など。右下腹部痛なら急性虫垂炎や憩室炎など。どれも違う場合は鎮痛剤で様子見ましょうか、ということになります。
あちこちが痛い場合は困ります。元気な人が普段しない運動をやりすぎても筋肉痛であちこちが痛くなります。しかし誘因なしに徐々にあちこちが痛くなる場合は注意が必要です。
線維筋痛症とリウマチ性多発筋痛症、聞きなれない病名があります。
線維筋痛症は身体の広範な部分に痛みが持続したり再発したりします。疲労、不眠、頭痛、うつ症状などを伴います。40歳以降の女性に多い病気です。
採血しても、レントゲン撮ってもわからないので、とにかく診断がつきにくいのです。残念ながら原因はよくわかっていません。しかも痛みのある部位に原因があるのではなく、痛みを感じる脳の回路が過敏になっているとされています。
ですので痛み止め程度しかなく、これといった治療法もありません。色々なサプリを試したり、キレーションしてみたり、でもなかなか良くならないのです。
あちこちが痛い病気にもう一つ、リウマチ性多発筋痛症があります。線維筋痛症は四肢末梢も痛いのに対してリウマチ性多発筋痛症は主に体に近い部分の筋肉の痛みです。こちらは治療法があるのでご安心を。
リウマチ性多発筋痛症はリウマチという名前は付いてますが、関節リウマチとは別の病気です。関節リウマチは関節の炎症ですが、リウマチ性多発筋痛症は筋肉が痛みます。
リウマチ性多発筋痛症は膠原病の一種で、やや高齢の女性に多い病気です。ある日突然起こってきます。首から肩、腰から足(太もも)の筋肉が激しく痛くなります。痛みの程度は個人差があり、我慢できる人もいれば、日常生活に支障の出る人、寝返りが打てなくて寝たきりになる人もいます。朝が特につらく、多少の発熱も伴うことがあります。また徐々に体重が減少します。
膠原病とは皮膚、骨、血管、内臓などを形成するタンパク質の一種であるコラーゲンに炎症が生じることによって全身のさまざまな臓器に病変を引き起こす病気の総称です。多数の病気があるのですが、最も多いのは関節リウマチです。自分の組織を攻撃してしまう自己免疫によって引き起こされることが分かっています。
リウマチ性多発筋痛症は決して頻度は低くないのですが、適当に痛み止めを処方されるだけで放置されるケースが多いです。疑ってかからないと診断が困難な病気です。血液検査をするとCRPという炎症の数値が上がっています。ただし関節リウマチに見られるような自己抗体は上昇しません。
リウマチ性多発筋痛症の1~2割に側頭動脈炎といってさらに聞きなれない病気を合併します。側頭部の動脈に炎症を起こすと、頭が痛い、物を嚙んだ時に顎が痛くなる、髪の毛をとかしたときに頭皮が痛い、といった症状が生じます。さらに目の動脈が障害を受けると視力低下も起こすような病気です。
リウマチ性多発筋痛症にはステロイドホルモンを使用します。膠原病全般にステロイドホルモンや免疫抑制剤を使用するのですが、この病気も膠原病の一種ですので効果があります。
関節リウマチのように関節破壊をきたすことはなく、重篤な臓器障害を残すこともありません。ステロイドホルモンの副作用に注意しながらおおよそ2~3年で収束することが多いです。再発はありますので、その際はステロイドホルモンの再開が必要です。
先日、正月明けから急に体のあちこちが痛い、という70代の患者さんが来られました。首、両肩、腰、太もも、寝返りが出来ない、といった症状でした。血液検査をしてみるとCRPが上昇しており、これはもしやリウマチ性多発筋痛症では、と病院紹介しました。
当然、詳細な採血、画像診断を行い、あらゆる疾患の除外診断をしたうえでこの病気を最終診断していただきました。ステロイドホルモンを投与され改善に向かわれているようです。
あちこちが痛い場合はこのような病気にも注意してください。
流氷を待つ能取岬