健診で腎臓が悪いといわれました
腎臓は腰のあたりに左右2個あり、それぞれ同じ働きをします。腎臓には糸球体と呼ばれる濾過装置や細い血管がぎっしり詰まっています。
尿を作り、電解質バランスを保ち、血圧調整、赤血球産生の手助け、強い骨の維持、など重要な役割を担っています。
正常では、何を食べても飲んでも体の状況に応じて自然に老廃物を尿として捨ててくれます。
腎臓の働きは主に糸球体の濾過能力(GFR : 糸球体ろ過量)で示されます。
正確に調べるには1日畜尿してクレアチニンクリアランスで検査しますが、大変なので、血液中のクレアチニン濃度を測定し、年齢、性別で補正しeGFR(推算糸球体ろ過量)として代用します。
健診でもeGFR が用いられますが、これは日本人のデータを用いて大体正確に判定できるようにしているからです。
検尿あるいは、血液検査のクレアチニン(と計算式のeGFR)に異常があると健診で腎臓が悪いといわれます。何も自覚症状がないのに驚いて受診されます。
血液検査のクレアチニン(と計算式のeGFR)についてです。クレアチニンは、筋肉で産生する物質で血液を介して尿中に捨てられます。腎臓の働きが落ちることで、捨てられなくなり血液にたまるようになります。
すなわち血液中のクレアチニンが高いと腎臓が悪い、低いと良い、ということになります。
血液中のクレアチニンの基準値は、男性:0.65~1.09 mg/dL · 女性:0.46~0.82 mg/dL. です。幅があるのは年齢により異なるからです。一般的に加齢とともに上昇してきます。(加齢とともに腎機能は低下してきます)
ただし筋肉質の人はもともとクレアチニンが高い、ガリガリの人はもともとクレアチニンが低い。
それと腎機能が60%以下になって始めてクレアチニンは上昇し始める。という特徴があります。
そこで年齢、性別、クレアチニン値を加味した腎機能の指標がeGFR(推算糸球体ろ過量)です。
eGFR(mL/分/1.73㎡) = 194×Cr-1.094 × 年齢-0.287(女性はさらに×0.739)となります。
もちろん自分で計算しなくても血液検査でクレアチニンと同時に記載されます。
eGFR(mL/分/1.73㎡)は年齢・性別で計算されますがその人の体型や筋肉量は考慮されてませんね。ここが簡単にできる検査の限界です。より正確には身長・体重を入れて体表面積補正をしないといけません。それでも肥満なのか、ムキムキの筋肉質なのかで変わってきます。
eGFRは正常で90~100、eGFRが60以下になると腎障害と記載されます。その他の所見と合わせて慢性腎臓病という範疇に入ってきます。でも健診でeGFR60以下って結構多いんです。
一応人間ドック学会ではeGFR(mL/分/1.73㎡) 45~59.9 が要注意、44.9以下が異常(要医療)となっています。
一応eGFRにより慢性腎臓病は下図のように分類されます。あまり気にしなくてもいいのですが。
一般的に年齢とともに腎機能は低下します。eGFRで大体年1%低下します。
本格的な腎臓病になり、GFR(体系も考慮した本当のGFR)が50を切ってくると低下のスピードが速まります。弱りつつある腎臓にさらに負担がかかるためです。
下図は文献での日本人の性別年齢別のeGFRの正常値です。線がたくさんありますが、すべての線の範囲内にあれば概ね大丈夫です。健診で50代以上のおじさんたちのeGFRが60以下でも大抵大丈夫なのです。
ただし年々生理的なスピードをはるかに超えて低下していく場合は病気です。
まずは健診後にかかりつけ医に相談して
・尿蛋白2+以上
・尿蛋白と尿潜血ともに1+以上
・30代で eGFR 60ml/分/1.73 m2以下、70歳以上なら eGFR 40ml/分/1.73 m2以下
・eGFRが前年より25%以上低下
このような場合は専門医(腎臓内科)に紹介してもらってください。
腎機能が悪くなっていく原因として多いものは、糖尿病、高血圧、慢性糸球体腎炎(糸球体を徐々に壊していく腎臓特有の病気)などですが、原因が特定あるいは推測できないこともよくあります。
腎臓内科に行くとまずは詳しい検尿・採血で腎機能を詳細に調べます。腎臓が極端に萎縮してないか、結石で水腎症になってないか、腎臓につながる動脈が細くないかなど各種画像診断を行います。必要に応じて腎臓に針を刺して組織を調べる腎生検をされることもあります。腎臓特有の病気を検索するためです。
腎臓の特殊な病気でない場合は、まずは血圧の管理が重要です。塩分制限を行いながら、降圧剤で目標値まで下げることが腎臓を長持ちさせることになるのです。以前は腎臓が悪い人は蛋白制限を、といわれていたのですが、蛋白を制限すると筋肉が落ち結果として体が弱る場合があります。やせ型の方や高齢者には個人的には蛋白制限は勧めていません。
健診でクレアチニンが1.1mg/dl程度、eGFRが55程度で、腎臓が悪いと指摘されても、元気で血圧が問題なければ普通は気にしなくても大丈夫です。ただし160~180くらいの高血圧を放置している人は、その後長期に観察していると60~70歳くらいで末期腎不全となり透析となることがあります。
健診で腎臓が悪い、といわれたらまずはご自身の血圧を観察してみて下さい。