コレステロール下げるの?そのままでいいの?
健診結果でコレステロールが高い、といって受診される方がほぼ毎日おられます。脂質の項目には、総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪、それに加えて最近non-HDLコレステロールというのも加わりました。説明すると長くなるので、まずは簡単に、LDLコレステロールは悪玉で血管壁に脂をこびりつける、反対にHDLコレステロールは善玉で血管から脂を抜いてくる、としましょう。
non HDLコレステロールは、総コレステロールからHDLコレステロールを差し引いたものです。より動脈硬化を引き起こしやすいスモールデンスLDL(超悪玉コレステロール)などの値も含むため、動脈硬化のリスクを予測する因子としては精度が高いのです。
健診でのLDLコレステロールの基準値は119mg/dl以下です(他にも基準がありますが)。この基準だと男性の3分の1、女性の約半分が異常値となり脂質異常症と記載されるわけです(労働者層において)。会社によっては受診勧奨レベルを設けている場合もありますが、すぐに受診しなさい、といわれる場合もあるようです。
37歳女性、LDLコレステロール155mg/dl、どうしましょう? このままでいいですよ。
52歳女性、LDLコレステロール162mg/dl、どうしましょう? ウーん、このままでいいですよ。
57歳男性、高血圧、糖尿病、タバコ、LDLコレステロール166mg/dl、どうしましょう? 薬でものみましょうか?
これではかなりいい加減ですね。
患者さんとしてはある程度説得力のある説明が欲しいものです。
コレステロールの話の前に日本人の死因について簡単に説明します。年間約110万人が死亡、がんで約40万人、心疾患約20万人が亡くなります。心疾患と脳血管疾患を合わせた血管系での死亡は約30万人となり、がんについで多いのです。
さて、コレステロールが高すぎると心疾患(主に急性心筋梗塞や狭心症)になる率が上がります。だから下げる必要があるのです。急性心筋梗塞は毎年約80万人罹患します。ピークは男性60代、女性は70代です、そのうち約4万人が死亡します。
ではどんな人に対してコレステロールを下げるべきかをリスク分類する必要があります。
以下は国立循環器病研究センター作成の吹田スコア、および動脈硬化疾患ガイドラインの一部を抜粋したものです。
この表に基づいてコレステロールだけではなく、年齢、性別、血圧、糖尿病、タバコ、といった心筋梗塞の危険因子を考慮しながら、あなたの10年間の冠動脈疾患発症確立は何%ですよ、だから薬飲んだ方がいいですよ。あるいは低リスク、中リスク、高リスクに分けて、それぞれコレステロール値の管理目標値が決まっていますのでそれに従い薬物療法、非薬物療法をお勧めしています。
上の表で分類すると、37歳女性、LDLコレステロール155mg/dlの人(基礎疾患なしとする)は、10年間の冠動脈疾患発症確率は1%未満なので何もしなくていいのです。
57歳男性、高血圧、糖尿病、タバコ、LDLコレステロール166mg/dlの人は、10年間の冠動脈疾患発症確率は22%となり、冠動脈疾患予防にはLDLコレステロールを下げる必要がありそうです。
という具合に考えます。
ただし10年間の冠動脈疾患発症率といっても37歳女性は10年たってもせいぜい47歳ですから、なるわけないでしょ。でもおばあさんになれば心筋梗塞になるかもしれないですね。正確に生涯発症率みたいなものがわかればよいのですが。
LDLコレステロールを下げるのは実に簡単、スタチン系という薬を飲むだけです。どんな先生が処方しようと、自分でネットで購入しようと確実に下がります。ある程度の副作用はありますが。
ただし目的はコレステロール値を下げるだけではなく心臓病にならない、そして生命予後を長くすることが目的なのです。
以前コレステロールが低すぎると死亡率が上がるという報告がありました。下の図は2000年頃のJ-LIT研究からのものですが、総コレステロールが高すぎても、低すぎても死亡率が高いのです。
高いと心臓病になり、低いとがんが多い、と言われていました(もちろん異論は多数ありますが)。
またコレステロールを下げすぎると脳出血発症リスクは高まります。
そもそもコレステロールは胆汁酸やステロイドホルモンの原料なのです。
ただし最近の研究では、先ほどのスタチン系薬剤を飲むことで冠動脈疾患(心筋梗塞や狭心症)の2次予防(1度なった人が再度なることの予防)効果は既に証明されています。また2010年頃からスタチン系薬剤の長期使用により冠動脈疾患の発生(1次予防)や総死亡減少効果があるということも発信されています。さらにがんの発生やそれによる死亡の抑制効果があるという証拠も出始めています。
では結局、コレステロールは下げた方がいいのか、そのままでいいのかどちらなんですか?
例えば30歳を無作為に抽出して二つのグループ(コレステロールを下げる群とそうでないもの)に分ける。二重盲検(本人も下げる群かどうかは知らない)で40年間追跡し、死亡率を観察する。こんなことがもしあればはっきりすると思いますが無理な話です。どんな研究でもバイアス(偏り)がかかったり、期間の問題であったり、完璧なものはありません。
で、どうするの?
研究結果、学会のガイドラインに従いつつ、薬剤の副作用、患者さんをとりまく状況など考え、納得されればコレステロールを下げる薬剤を飲んでもらうようにしています。