ピロリ菌がいます
健診で胃にピロリ菌がいると言われました。どうすればいいでしょう、とよく来られます。
ピロリ菌は小児期に口移しで感染し長い年月をかけて胃粘膜を焼け野原にする、その結果胃がんが発生しやすい。だから除菌したほうがいいですよ。その際必ず胃カメラは受けてくださいね。簡単にいうとそういうことです。
ピロリ菌は胃の粘膜に生息しているらせんの形をした細菌でヘリコバクター・ピロリとよばれ1979年に発見されました。
胃には、強い酸(胃酸)があって、通常の細菌は生息できませんが、ピロリ菌は「ウレアーゼ」という酵素を使って、胃酸を中和しアルカリ性の環境にして胃の中で生存しています。感染した人のほとんどが抵抗力のない3~5歳までに感染者からの経口感染とされています。日本では約3500万人の方がピロリ菌に感染しているとされ特に50歳以上で多いです。
長期にわたる胃粘膜への感染で炎症が持続すると特徴的な萎縮性胃炎という状態となっていきます。さらに進むと見た目ツルツルの胃袋となり胃粘膜が焼け野原になってきます。ここまでくるピロリ菌が自然消滅することもあるのですが、今度はがん発生が心配になってきます。胃がんの99%がピロリ菌に起因するといわれています。早期胃がん治療後にピロリ菌を除菌した患者さんは、除菌をしなかった患者さんと比較して、新しい胃がんが発生する確率は明らかに低くなっています。
また、胃・十二指腸潰瘍の発症ならびに再発はこのピロリ菌感染に関係していることもわかっており、潰瘍の患者さんのピロリ菌感染率は80~90%と非常に高値です。 その他胃MALTリンパ腫や特発性血小板減少性紫斑病にも関係しています。
健診でピロリ菌の抗体が陽性だったので除菌してくれ、と来院されるのですが、保険で除菌するには胃カメラが必要です。なぜなら胃の状態を正しく判断し胃がんがないことを確認するためです。ピロリ菌を殺すことが目的ではありません。
ピロリ菌を調べる方法は胃カメラ中に行う迅速ウレアーゼ検査、血液検査で行う抗体検査、ピロリ抗原を調べる便検査、尿素呼気試験などがあります。胃酸を抑える薬(PPI)を内服しているとこれらの検査が同時にできないこともあり、まずは内視鏡で慢性胃炎(萎縮性胃炎)を確認して後日各種検査でピロリ菌陽性を確認します。
ピロリ菌を除菌するには2種類の抗生剤と1種類の胃薬を1週間内服します。除菌できたかどうかの判定は2か月後以降に尿素呼気試験か便中ピロリ抗原検査で判定します。約8割の方が除菌できるのですができない場合は2次除菌といって抗生剤の種類を変更して投与します。
以上のように診断し除菌を行うのが一般的です。
ではピロリ菌がいると全員除菌するべきか、これは難しい問題です。
胃がん発生だけ考えるとぜひとも除菌したいものです。ただし決してみんなが胃がんになるわけではありません。30歳で除菌すればその後の胃がん発生は抑えられるでしょうが、75歳ですでに胃粘膜が焼け野原になっている場合は今更除菌しても遅いでしょう。
がん以外の胃潰瘍や十二指腸潰瘍が発生しても、それは胃酸を抑える薬で事足ります。
また除菌により胃粘膜の委縮が改善し、胃酸分泌が元に戻り、食欲亢進・肥満・内臓脂肪増加により食道への胃液逆流が増加すると逆流性食道炎が助長されます。逆流性食道炎は食事の欧米化、ライフスタイルの変化でこの数十年で激増した疾患です。ピロリ菌がいたときは、慢性胃炎で何となく胃の調子が悪くPPIを処方され(正しくないのですが)、除菌後は逆流性食道炎で再びPPIを長期内服することになりかねません。逆流が進めば食道の胃粘膜仮成が起こり食道がんの素地にもなるともいわれています。
細かなことですが除菌の薬の副作用も決してゼロではありません。
さらにピロリ菌の除菌が生命予後を改善するかどうかもわかっていません。
健診でピロリを指摘されたらまずはかかりつけの医師に相談して除菌の目的、メリット・デメリットをよく説明してもらってください。胃のことだけを考えるのではなく貴方全体のことをみて判断してもらってくださいね。