増え続ける心不全
明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
年末年始は在宅で診ている患者さんの心不全悪化が重なり、ずっと働いてました。
「心不全」とは心臓が悪いために息切れやむくみが起こり徐々に悪くなり生命を縮める病気です。と言われてもピンとこないかもしれません。
例えば、血圧が高く、タバコを吸う男性が60歳で急性心筋梗塞になったとします。カテーテル治療を行い、その後も冠動脈に細い部分があり何度かカテーテル治療をしたとします。10~15年は特に症状なく経過していましたが、75歳ぐらいから労作時の息切れがひどくなり心不全と診断。(←この状態が心不全です)利尿剤など追加して治療します。一旦はおさまり元の生活ができます。しかし暴飲暴食、風邪などがきっかけとなり心不全増悪を繰り返し、内服薬で改善しない時には入院が必要です。その後も入院を繰り返すことになります。
この男性の場合、心不全になった心臓の基礎疾患は陳旧性心筋梗塞、それに伴う左心機能低下です。
もう一例。80歳女性、以前より不整脈(心房細動)を指摘されてました。以前は動悸のみでしたが、定期的な心エコー検査で担当医より左心房拡大と僧帽弁逆流と言われました。その後徐々に心エコー上、心腔拡大、僧帽弁逆流悪化を指摘され心不全の傾向ありと言われました。80歳のとき、労作時の息切れ・動悸を自覚。レントゲン上、肺に水が溜まっており心不全と診断され利尿剤などが追加されました。
今まで元気だったのですが、よく聞いてみると階段を避け常にエスカレーターに乗るようになっていたそうです。心臓に負荷がかかることを自然と避けていたので症状がわからなかったのかもしれません。
この女性の場合、心不全になった心臓の基礎疾患は慢性心房細動、それに伴う左心房、左心室拡大により僧帽弁逆流が悪化していました。
そしてよくある一例。今まで元気な高齢女性、風邪をひいて咳が止まりません。そのうちに夜中に起き上がり咳をするようになりました。家族が病院に連れて行くと、血液検査で炎症反応上昇、レントゲン写真で肺炎+心不全の像を認めました。入院し肺炎に対する抗菌薬と心不全に対する利尿剤、血管拡張剤などが投与されました。
今まで心臓は何もない、と言われていても高齢になってくると心臓の拡張不全から心不全になるパターンが良くあります。
このように様々な心臓の基礎疾患をベースとして発症する心不全ですが、一度心不全をおこすと最初は外来での内服薬だけである程度は良くなるのですが、その後繰り返し、入院しないと軽快しなくなってきます。その後さらに入院頻度が増えていきます。肺炎+心不全、尿路感染+心不全など病院の循環器内科病棟は心不全であふれています。そして入院が長引くほど筋力低下が進み家に帰れなくなる患者さんが増えてきます。
2040年にかけて高齢化による心不全はさらに多くなり心不全パンデミックという言葉も出てきています。
心不全に使用する薬にも限界がありました。そこで10年ほど前から心臓リハビリテーションが注目されるようになりました。リハビリというと脳梗塞や骨折後のリハビリを想像しますが、心臓リハビリテーションは心臓病の患者さんが快適で質の良い生活を取り戻すための総合プログラムなのです。
従来心臓の悪い人は安静にすることが重要と考えられてきましたが、そうではなく悪い心臓にある程度負荷をかけることにより心臓を長持ちさせる、という考え方です。
心臓リハビリテーションはその人に合った最適な運動量を決めるだけではなく、学習指導(心臓病の正しい知識、日常生活、食事療法)、カウンセリング(不安やうつ状態へのアドバイスなど)を含めた包括的なプログラムなのです。ある程度の規模の病院の循環器内科であれば心臓リハビリテーションを行っているところが増えてきました。
増え続ける心不全ですが、薬に加えてぜひ心臓リハビリテーションも考えてみてください。きっと良いことがあるはずです。かかりつけの先生に相談していただければと思います。