がんの超早期発見

日本人が一生のうちがんと診断される確率は男性65%、女性50%(2018年度の統計)です。日本人ががんで死亡する確率は男性4人に1人、女性は6人に1人(2019年度の統計)です。
2018年度に新たに診断されたがんは98万例、2019年度にがんで死亡された方は38万人です。肺、大腸、胃、膵臓、肝臓の順です。ちなみに30年前はがんの診断40万例、死亡は約20万人でした。

30年前と比べて70代の肺がんは3倍、40代女性の乳がんは4倍に増えています。統計をあげればきりがないのですが、とにかくがんは増えています。がん家系の人はがんになる可能性が高い、一方がんとは無縁の人もいるのも事実です。長くなるのでなぜがんが増加しているかは述べません。

手術で取り切れなかった場合、抗がん剤時代は予後半年を9か月に延ばすことがせいぜいでした。2000年に入り分子標的薬時代になってからは予後6か月を数年に延ばすことが可能となりました。最近の免疫チェックポイント阻害剤はうまくいけばがんとの共存を目指す薬剤です。

1日に約5000個のがん細胞が生まれるといわれています。そして体の免疫細胞がそれを処理してくれますが、様々な状況下でがん細胞がどこかに巣を作ってしまうとそこで増え続けるのです。約1cm程度になると臨床的にがんと診断されます。そこまでくるのに5~10年、がんと診断されればその後はあっという間に大きくなります。癌を治療するにはいかにして敵(がん細胞)を少なくするか、少ないうちにすべて退治しておくかがカギになってきます。

でも本当はがんにかからないのが一番です。あるいは早期に発見することができれば治癒可能です。食道がん、胃がん、大腸がんは早期に見つかれば内視鏡手術で治癒が可能です。肺がんも早期であれば胸腔鏡で治癒可能です。ただしなかなか発見できないがんが厄介なのです。

健診のレントゲンで見つかる肺がんは約2cm、これでは治癒困難です。CTですい臓がんが見つかっても1~2cmだと、どこかのリンパ節に転移していることが多いです。PET検査なら全身の1cm程度のがんを発見できますがこれでも遅い場合があります。

がん細胞はある臓器に巣をつくって概ね1mm程度になると上皮間葉転換といって上皮細胞から血管内に入り込むための準備をして微小な血管を作ります。そして血液中にがん細胞が流れてきます。これを循環腫瘍細胞(CTC)と呼びます。それ以外にがん細胞から分泌されたエクソソームも流れ出て、これはメールのような役割をして受け取り側の細胞をより悪性度の高い性質に変化させるものもあります。

1mm程度、けっして画像には映らない程度のがん細胞の塊から血液中に流れ出る循環腫瘍細胞を見ることで超早期のがんを診断することができます。正常な状態では血液1ml中の循環腫瘍細胞数(CTC数)はゼロですが、どこかにがんがあるとカウントされるようになります。こんな検査が10年ほど前から可能となってきておりギリシャのラボに依頼するCTC検査が信頼性が高いです。

そして血液中に循環腫瘍細胞があればそれを免疫学的に検査してどの組織由来のものかがある程度判断できます。

この表は正常な人の結果ですが、もし循環腫瘍細胞のうちあるマーカーが陽性であればその臓器を中心に各種検査をして癌を見つけていくことになります。

皆さんドックで様々な検査を受けられると思いますが、ここでは私個人の意見をお話しします。保険適応か否かはここでは問いません。
早期のがんを見つける順序としては、まずは内視鏡、これで食道がん、胃がん、大腸がんを検査します。そして胸腹部CT、これで肺がん、膵がん、腎がん、肝腫瘍などを見つけます。リンパ節の腫れがないか、などもわかります。血液検査、昔からあるCEAやCA19-9も一応はとっておきましょう。PSAは前立腺がんには有効です。女性の場合は乳がん、子宮がん検診はぜひとも受けてください。

ここまでで問題なければ経過観察でもよいですし、場合によってはPET検査をうけても良いかもしれません。頭蓋内の腫瘍はやや特殊ですのである年齢すぎたら頭部MRIもとってみてください。
それでも自分はがん家系でとにかくがんが心配な方には循環腫瘍細胞検査(CTC検査)をぜひお勧めします。
画像診断をおこなってCTCゼロならまず問題ありません。しっかりお仕事を頑張りましょう。画像診断で何もなくてCTCがわずかに漏れ出しているのであれば、経過観察(放置)せずに、まずは○○点滴や○○で徹底的にがん細胞を破壊してどこかに巣を作らせないようにしましょう。