現在日本人の男性1.6人、女性の2人に一人が生涯を通じて何らかのがんになるといわれています。30年前の統計と比較すると若年者のがんの発症が明らかに多くなっています。がんで死亡する人は男性25%、女性15%となっており、これも高い数字です。
かつてがんは治らない病気と言われていましたが、早期発見によって手遅れをなくすことができるのです。転移がない場合は5年後も約90%の方が生存されています。
人間の体内では毎日約5000個のがん細胞が発生し免疫細胞に攻撃されているといわれています。がん細胞が増殖し始めると細胞のエクソソームという物質が他のがん細胞に、免疫細胞に攻撃されないよう様々な信号を送ります。血液中でお互いに連絡をとりあって免疫細胞に捕まるのを逃れているのです。
正常細胞ががん化して成長し臨床的にがんと診断される(発がん、概ね5~10mm)まで5~20年の長い歳月を要します。その間正しい生活習慣を身につけ予防を実践することが重要です。
ドックで行われるがん検診ではCT、MRI、PETなどの画像診断を用いた検査が中心ですが、この場合5~10mm程の大きさにまでならないと見つからないことが多いのです。1cmの大きさになるにはがん細胞が集まりだしてから5~20年かかるといわれています。1cmになるとすでに転移を起こしていることもあり、手術をしても完全に治らない場合が多いのです。
今のところがんを完全に予防するのは困難ですが、最新の検査を組み合わせて危険を察知し、がんと戦える体を作っていくことが重要です。
これらはすべて血液検査です。これらを組み合わせて判断します。また検査によっては繰り返し行う必要があります。
当院でのがん検査の位置づけです。それぞれのステージによって推奨される検査は異なります。いずれの検査もドックやがん検診で行う画像診断のはるか手前の段階の検査であることがおわかりいただけると思います。
これらの検査は、以下のような使い方が出来ます。
「がんになりやすい体質の人」が、「なりやすい生活習慣を継続する」ことで、時間をかけてがん細胞が増殖し発症するといわれています。その人のDNAの中にがんをおこしやすくする関連遺伝子がどの程度あるかを解析することでハイリスクのがんを明らかにできます。この検査で現在がんになっているかどうかはわかりませんが、リスクを把握することでその後の生活習慣の改善をはかることができます。
結果の一例をお示します。
要注意のがんに対してはタバコ、アルコールなどの生活習慣の改善、あるいはそのがんに特化した画像診断を定期的に行うなどして少しでもがんが発生する可能性を減らすことができます。
当院では生活習慣、栄養指導の他、適切な画像診断をお勧めします。
設計図であるDNAから必要な情報を選択し運ぶ役割をするのがメッセンジャーRNA(mRNA)です。このmRNAの情報をもとに各種タンパク質が作られます。がんを含む疾病発症のプロセスには遺伝子の異常や環境因子が複雑に絡み合っていることが多く、前がん状態でも生体内において平常時とは異なった遺伝子発現をすることがわかってきており、その発現変化(RNA)を検査することでリスクの予想が出来ます。がん関連遺伝子の血液中のmRNAの発現量を測定し、どのようながんが成長に向かっているかどうかを調べる検査です。
ある時点である種のがんが成長に向かうシグナルが出ても、生活習慣の改善、各種治療にてmRNAの量は減少することも見られます。
結果の一例をお示しします。
マイクロRNAという物質を測定することにより現在がんがあるかどうかを判定します。
マイクロRNAはRNAの中でもタンパク質を作れない小さな物質で元々不要なごみの様なものと考えられていましたが、最近の研究で遺伝子を制御するのに必要であることがわかってきました。マイクロRNAは「エクソソーム」とよばれる細胞内の小さな袋に包まれて、各細胞の組織から血液中に放出されます。このエクソソームの中の疾患特異的な複数のマイクロRNA量の変化を見ることで、現在のがんの予測ができるのです。
血中マイクロRNA量はステージ・腫瘍の大きさに依存せず上昇します。
臨床現場でよくある話ですが、がん治療を行う際にはステージ分類をします。例えばあるがんに関して、1cmならステージ1としましょう。そしてそのがんはステージ1なら予後良好としましょう。
ある患者さんが、1cmのがんを手術でとりました。ステージ1なので予後はよく、通常その後の抗がん剤治療などはしないことが多いです。そしてその後は、定期的に画像診断のみで経過をフォローしていくのが通常です。1年後、CTやMRIといった画像診断では再発なし。ところが3年後に検査をしたところ他の臓器に再発していました、というようなことがあるのです。この場合、がんを手術しただけで、画像フォローといってもその後は何も積極的な治療はしていないことになります。しかしこれが通常の治療経過で、保険診療ではこれが限界です。
通常、腫瘍が1~2mm以上になると酸素や栄養を必要として血管新生が起こり血液中にがん細胞が入り全身を巡るとされています。これを循環腫瘍細胞(CTCs)と呼びます。この循環腫瘍細胞検査(CTC検査)では、画像診断で腫瘍が特定されない超早期の段階からがん細胞の存在を検出します。また転移を防ぐためには、早期がんの手術後であっても積極的にCTC検査を行い、全身にどの程度がん細胞が循環しているかどうかを調べる必要があります。
結果の一部分をお示しします。
健常人が自分の血液中に循環腫瘍細胞がないかどうかを調べたものです。
以下の結果より現在各種がんマーカーは陰性で循環腫瘍細胞はなし、と結論できます。
しばらくがんの心配はなさそうです。
次に早期の肺がん手術後の患者さんです。
この患者さんの場合CTCは平均3.6個、カットオフポイントはこのがんであれば10個ですので10個を越えれば転移する可能性が高くなる、と解釈します。一応許容範囲内ですが転移を完全に防ぐためにはCTCの発現遺伝子、薬剤感受性、天然物質感受性をみながら感受性の高いものを摂取する、あるいは発現遺伝子に対するアンチセンス療法(支援的オリゴヌクレオチド療法)を行うことがあります。
早期がんであっても転移を防ぐためにはこのような検査・治療が必要になってきます。
当院ではできる範囲内でサポートを行い、より専門的な治療を必要とする場合は他院にご紹介いたします。
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