新しい肺炎球菌ワクチン
肺炎球菌は私たちの鼻や喉に常在している細菌です。普段は病気を起こしませんが免疫力が低下した時に様々な感染症を引き起こします。
肺炎球菌は一般の人の肺炎の原因病原体として頻度の高い細菌で、中高年の肺炎のうち大体20~30%が肺炎球菌によるものです。
肺炎、中耳炎、副鼻腔炎などの他に、重篤化し死亡率が高くなる侵襲性肺炎球菌感染症を引き起こします。
65歳以上の高齢者や糖尿病・腎臓病・心臓病などの基礎疾患をお持ちの場合は肺炎球菌感染症が重症化しやすいことが知られています。
肺炎球菌ワクチン接種の目的は、中高年の肺炎予防の他に、肺炎球菌によって起こる重篤な感染症を予防し重症化や死亡を防ぐことです。
肺炎球菌は細菌の表面を覆う莢膜と呼ばれる構造の違いによって多数の型(血清型)があります。ワクチンはすべての型をカバーできるわけではなく、カバーできる数により予防できる範囲が変わってきます。
まず1970年代に莢膜多糖体ワクチン(PPSV)が実用化されました。多糖体だけを使うタイプで現在広く使われるニューモバックス(PPSV23)は多くの型を広くカバーできるワクチンです。
ただし免疫記憶がつきにくいなどの弱点があり、初回接種後およそ5年程度で効果が低下するという報告があり再接種は5年以上間隔をあければ可能とされてきました。(65歳以降5年間隔で接種しましょう、になったのです)
そこで莢膜多糖体ワクチン(PPSV)の弱点を補うべく開発されたのが結合型ワクチン(PCV)です。多糖体をタンパクと結合させ、免疫記憶をつけることで、十分な効果が期待できるワクチンです。米国ではPCV7(2000年)、PCV13(2010年)と対象血清型を増やしながら普及しました。
現在はPCV15・PCV20など、さらに多くの血清型をカバーするPCVが各国で導入され、接種回数や組み合わせを簡素化する流れがあります。
2025年8月に、成人で多い血清型を意識して設計されたキャップバックス(PCV21)が日本で承認され、10月から接種が開始されました。
キャップバックスは21種類の肺炎球菌の血清型をカバーしており成人の侵襲性肺炎球菌感染症の原因の約80%の血清型をカバーしています。
2025年9月に合同委員会(日本呼吸器学会・日本感染症学会・日本ワクチン学会)の「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方」では、ニューモバックスの5年ごとの再接種を原則として選択肢としない方針が示されています。
ニューモバックス接種後の対応(現状)としては、
過去にニューモバックスを接種した方は1年以上あければキャップバックスを追加接種することができます。
そしてキャップバックスで追加接種を行った場合、その後のニューモバックスの5年ごとの再接種は不要と考えられています。
まとめると
従来のニューモバックス(莢膜多糖体ワクチン)は広く免疫をつけられる反面、免疫記憶がつきにくいため効果が落ちやすい。
一方で、キャップバックス(結合型ワクチン)は免疫記憶を形成しやすく、1回の接種で長期的な防御効果が期待される。しかも成人の重症肺炎球菌感染症の血清型の大部分をカバーできる。
これまでニューモバックスを打っていない人が初めて肺炎球菌ワクチンを受ける場合、キャップバックス単独で完結し、広い血清型をカバーします。そのため、必ずしもニューモバックスを先に接種する必要はなく、キャップバックスだけで進めるという選択肢も一般的になっています。(医療機関により考え方の違いがあります)
ただし現在、65歳の定期接種として利用できるのはニューモバックスのみです。キャップバックスは公費利用ができず自費となります。
というわけで、私も最近患者さんにニューモバックスの5年毎の再接種は勧めない事にしています。ある日を境にそのように説明しておりますが、これも医学の進歩だとご理解ください。



