ビタミンCってがんに効くの?

結論ですが、ビタミンC単独ではがんは消えません。がん治療の補助、体を調整する目的での使用をおすすめします。

ビタミンCとがんの歴史を簡単にご説明します。
がんにビタミンCが効く、と最初に言い出したのはノーベル賞(化学賞と平和賞)を2回受賞したライナス・ポーリング博士です。1970年代のことです。ポーリング博士は1970年にがんとビタミンCという著書を発表しました。博士とその仲間たちはビタミンC大量投与ががん予防・治療に有効と唱え徐々にビタミンC熱が高まっていきました。

がんはコラーゲンという壁とコラーゲンの間隙を満たしているヒアルロン酸という成分を破壊して進行していきます。ヒアルロン酸を分解するのがヒアルロニダーゼです。
以前よりポーリング博士はコラーゲン産生にはビタミンCが必要と考えており、一方ヒアルロニダーゼとがんの進行を研究していたのがキャメロン博士でした。

この2人は1978年に、がん患者にビタミンCを持続静注すると生存期間が延長する、とPNASに報告しました。
ところが当時の主流医学会から猛反発をくらうこととなりました。翌1979年にはメイヨー医科大学がN Engl J Med からビタミンCを経口投与したがん患者には何のメリットも得られなかった、との論文が発表されました。その後1985年にもビタミンCの抗がん作用はないとの報告がなされています。
あとでお示ししますが、静脈投与と経口投与では全く濃度が違うのです。
これでビタミンCの抗がん作用の研究はやや下火になったのですが。

ポーリング博士の弟子であるリオルダン博士(現リオルダンクリニック創始者)はビタミンCを大量投与した際の血中濃度につき様々な研究を行いました。有名な話ではクモに咬まれた後ビタミンCを毎日15g点滴したけれども血中濃度は限りなくゼロに近かったとの報告があります。これは体内に炎症・毒素があるとビタミンCの消費が増大し濃度が上がらないことを示しています。炎症のある体にはビタミンCが必要なのです。

その後2005年に米国衛生国立研究所が高濃度のビタミンCには抗がん作用があることを報告しました。ただしこの研究は培養細胞でおこなったもので、実際がん患者に投与したものではありません。悪性リンパ腫、肺がん、腎がん細胞はビタミンC濃度を上げることで殺傷されますが、正常細胞はビタミンC濃度を上げても問題ありませんでした。

この報告を契機に各国でがん患者にビタミンCを大量投与する試みが始まりました。我が国でも悪性リンパ腫その他のがんに対する高濃度ビタミンC投与について、ある大学病院で治療研究されています。一般のクリニックで高濃度ビタミンC点滴が導入されたのは2007年頃からです。

ビタミンCを経口投与する場合と静脈内投与する場合では血中濃度が全く異なります。
血中ビタミンC濃度は単位は色々あるのですがここではmg/dlとします。ビタミンCを経口投与した場合は0.2gのビタミンC(薬のシナールなど)では吸収率は80~90%、サプリのビタミンC1gを摂取すると吸収率は60~70%程度となります。いくら口からビタミンCを摂取しても血中濃度はせいぜい0.5~3mg/dlです。ところがビタミンCを静脈内投与すると血中濃度は最高100倍程度となります。50gのビタミンC点滴で血中濃度は400mg/dlを超えがん細胞を殺傷できる濃度となります。ですのでがん治療には最低50g以上の高濃度ビタミンC点滴が必要といわれています。低濃度のビタミンCは抗酸化物質として、高濃度のビタミンCは逆に酸化物質として働くのです。
先ほどの1979年のメイヨー医科大学がビタミンCの内服投与でがんに効果がなかったのは血中濃度が上がらないので当然なのです。
また1978年のビタミンCが効果があった方のポーリング博士の論文は、ビタミンC投与は入院しての持続点滴であったそうです。

ビタミンCを持続点滴すると常にがん細胞を殺傷する濃度が保たれるので、がんの発育を上回りがんは抑制されるのでしょう。ところがビタミンC点滴ではがんを殺傷する濃度以上になるのはせいぜい2時間程度です。本当にこれで効果があるのかどうかは意見が分かれるところです。

ではなぜビタミンCが抗がん作用があるかについて述べます。血中のビタミンC濃度が高くなると鉄を還元します。還元された鉄が過酸化水素を産生、がん細胞をアポトーシスに導きます。また過酸化水素を生成する過程で一部ヒドロキシラジカルを発生しがん細胞を殺傷します。正常細胞は過酸化水素を中和するカタラーゼを持ち合わせているので正常細胞が障害されることはありません。

高濃度のビタミンC点滴でがんが縮小した画像は私は何度も見たことがあります。1cm程度の肺癌がビタミンC点滴をする過程で徐々に縮小していったCT画像、食道の進行がんが徐々に縮小していった内視鏡画像など。推測ではコラーゲンががんを包み込んで縮小していった感じです。ただし普通はがんが見つかって手術できるものは手術するのが標準治療です。手術できるにも関わらず最初からビタミンC点滴のみで治療することはあり得ないことです。あとで示しますがあくまでも標準治療との併用です。

ビタミンC点滴の際の注意点です。他で記載のあるものは省きます。
ビタミンC点滴は初回は12.5g~15gから開始して徐々に増量していきます。がん患者では50~75gが推奨されます。毎日点滴でも良いのですが大体の方は週1~3回程度点滴されます。
ビタミンCとブドウ糖は構造式が似ているので、ビタミンC点滴を開始して30分もするとリブレ(持続グルコース測定器)でみると高血糖になります。点滴翌朝まで高血糖状態は続きます。糖尿病の方はご注意を。
打撲した後(2~3日以内)にビタミンC点滴をすると、点滴終了後15~30分程度で打撲した場所がみるみる青くなり強烈な痛みがくることがあります。1時間程度で治ります。ビタミンCが活性酸素を発生しているからですので驚かないでください。
ビタミンC点滴で血管痛、時に静脈炎がおこりその血管が硬くなりその後使用できないこともありますのでご注意を。

何のための高濃度ビタミンC点滴?
大量のビタミンC投与は確かに試験管内では抗がん作用があります。ただしがんの患者さんに投与してもがんが完全に消えることはありません。
最近の考え方では、ビタミンCは天然の抗がん剤であるのですが、あくまでも標準治療との併用療法で体をうまく調整する適応物質と考えられています。ビタミンCは脳・副腎・白血球に多く存在しており高濃度のビタミンCで血中濃度を上げることは分子栄養学的治療の一環なのです。
標準治療のみを行ったときと比較して、高濃度ビタミンC点滴を行うことで、心の健康・社会生活能力・身体機能は有意に改善したとの報告は多数あります。このために高濃度ビタミンC点滴を行うのです。