少子化と栄養

2023年度の出生数は約73万人、そして2024年1~6月の上半期に生まれた子どもの数(外国人を含む出生数)は35万74人でした。もしかすると2024年は70万人を切るかもしれません。以前のブログで少子化の原因は子供を産むお母さんの数が減ってきているお話をしました。

さて結婚して子供を望んでも5組に1組のカップルが不妊で悩んでいるようです。
不妊治療にはタイミング法、排卵誘発法、人工授精、そして生殖補助医療(体外受精と顕微授精)があります。本格的な不妊治療は生殖補助医療(体外受精・顕微授精)が中心です。
生殖補助医療とは卵胞から採卵した卵子と精子を体外で受精させる胚移植のことです。生殖補助医療の妊娠成功率は約2割、流産はやや高く2割程度です。
ちなみに人工授精とは排卵に合わせて、精子を子宮内に注入することです。女性の卵管に問題ある場合には有効です。

2021年のデータです。全出生数約81万人のうち生殖補助医療で生まれた赤ちゃんは約7万人でした。8.6%、12人に1人が生殖補助医療で生まれているのです。2010年には2.7%でした。おそらく本年はもっと多い数字でしょう。

日本では生殖補助医療が多く行われてあり不妊治療大国ですが先進国の中で成功率は残念ながら最下位です。

日本で生殖補助医療が増加していったのは医療技術が進化し安全性・有効性が確立されたからです。と同時に妊娠を希望する女性の年齢が徐々に高齢化し自然妊娠しにくくなったことも原因です。ただし女性が35歳を過ぎたあたりから生殖補助医療の成功率は低下し流産率が上昇します。
専門外の私がとやかく言う立場ではありませんが、生殖補助医療技術の高い日本が頑張っても女性の年齢には勝てないといったところでしょうか。それ以外に何かあるような気もします。

さて妊娠と栄養について考えてみます。栄養とはカロリーのことではなくビタミン・ミネラルのことです。妊娠に必要な栄養は鉄、亜鉛、マグネシウム、ビタミンC、ビタミンDが特に重要です。

今回は鉄に注目してみます。体内の鉄は60~70%がヘモグロビンとして、残り20~30%はフェリチン(貯蔵鉄)という形でストックされています。フェリチンは大切な貯金のようなもので、月経で体内の鉄が失われると、まずは貧血にならないようにヘモグロビンの鉄を維持することを優先し、貯金であるフェリチンの鉄が最初に使われます。毎月の月経により失われる鉄の量を補充しなければに、ヘモグロビン値は正常でもフェリチンが低いという隠れ貧血と呼ばれる状態に陥ります。さらに放置すると血液検査でみて明らかにわかる貧血になります。

鉄が欠乏すると、DNA合成低下、エネルギー産生低下、コラーゲン産生低下、女性ホルモン低下、など。これらは妊娠にとって非常に困ったことなのです。DNA合成は受精、着床に必要です。卵子はミトコンドリアが豊富なのでTCA回路の随所の反応の補因子として鉄が必要です。組織の枠組み、細胞分裂の足場としてのコラーゲン産生には鉄が必要です。女性ホルモン産生にも鉄が必要となってきます。
鉄が妊娠成立にとって非常に重要なのに、いかに軽んじられているかが問題です。

まずは会社健診、血色素量(ヘモグロビン)だけで判断します。多少の貧血がありD判定だったとします。
内科に行きました。健診結果見せて、血色素量9.8g/dlですか、女性であれば大したことないですね~。様子見ときましょう。はい終わり。
妊娠希望女性であれば不幸ですね。必ず貧血検査(というよりも体のバランスを考える上では)ではフェリチンを測定しなければなりません。健康に妊娠したいのであればフェリチン50ng/mg程度は必要です。

先ほどフェリチンは定期預金で、鉄が足りない場合は貯金を切り崩してヘモグロビンを作り貧血にならないようにしています。貧血があればその時点でフェリチンは低いのです。
若い女性(40歳くらいまで)で動悸、めまい、胸痛、あざ、爪や髪の毛のトラブル、イライラ、抑うつがあればまず鉄欠乏です。氷をガリガリ食べるようになればフェリチンはかなり低いと考えてください。

厚生労働省のページを見ても妊娠中の貧血はいけません、鉄を摂りましょう、と書いてあるのですがフェリチンについてはなぜか触れていません。大体鉄何グラムなんて考えて食事する人いませんし、病院行ってもフェリチン測定してくれなければどうにもなりませんね。

妊娠可能年齢の女性のうち鉄欠乏性貧血は2割、貧血のない鉄欠乏は3割、と言われています。実に半分の女性が鉄が足りてないのです。これでは妊娠したくてもできません。

日本人の鉄不足の原因は加工食品過剰摂取と自然の問題があります。

日本の国土の約6割は森林で自然林と人工林があります。自然林は主に広葉樹で構成され自然の力によって発芽し、森林として成立したものです。一方人工林は主に木材の生産目的のために人の手で苗木を植栽し育てている森林でスギ・ヒノキなどの常緑針葉樹で構成されます。広葉樹は落葉し腐葉土となり土壌を豊かにし、微生物によって分解される過程でフラボ酸鉄が川から海に流れ、植物性プランクトンを育み海が豊かになります。山から川への鉄分が少ないと磯焼けとなり海藻が育たなくなります。人工林が増え結果として海に流れる鉄分が少なくなり食物連鎖で食品から摂取できる鉄が不足してきます。

鉄を補うにはこのような食品が良いですよ、とお勧めしてあってもビタミン同様、実際に含まれる鉄は少なく結果として体は鉄欠乏になってきます。

少子化の問題として、カップル誕生が少ない、晩婚化、高齢出産があります。でも忘れてはいけないのがお母さんの栄養です。どれだけ生殖補助医療が進化しても最も重要なのは母体の栄養だと考えています。

妊娠に必要な栄養素は鉄、亜鉛、マグネシウム、ビタミンC、ビタミンDです。せめてフェリチンの値だけは測ってもらってください。