肥満の薬

肥満とは脂肪組織が過剰に蓄積した状態で日本の基準ではBMI(体重/身長x身長)が25以上の状態です。
肥満症とは肥満が原因で関連する病気を合併し、減量を要する状態をいいます。

例えば男性で170cmで72kg以上、女性で158cm 62kg以上だと肥満です。大した事ないと感じるでしょうがこれが定義です。男性の約3割、女性の約2割が肥満です。男性では40歳代で40%、50歳代で39%が肥満です。
な~んだ、みんな肥満か。ただし筋肉ムキムキでBMI25は本来の肥満ではありません。脂肪の蓄積ではなく筋肉ですから。

脂肪の蓄積といっても2種類の脂肪があり皮下脂肪と内臓脂肪です。皮下脂肪は中年以降の女性に多く下腹部、腰、お尻につき洋ナシ形の体型となります。長い年月をかけて溜まり脂肪が取れにくいです。一方内臓脂肪は男性や閉経後の女性につきやすく溜まりやすいが燃焼もしやすい傾向にあります。ぽっこりお腹が出てきます。
内臓脂肪が多いかどうかはドックのオプションで内臓脂肪型CT検査があります。おへその位置の断面の内臓脂肪が100cm2以上なら内臓脂肪型肥満と判断できます。

肥満はなぜ悪いか?
肥満、特に内臓脂肪蓄積型の肥満になると動脈硬化を抑制するアディポネクチン、食欲を抑えるレプチンといった物質が減少し、逆にインスリン抵抗性を高め、血圧を上昇させ、血栓方向に傾け動脈硬化を進展させる物質が増加します。その結果脂質異常、高血圧、高血糖といった生活習慣病を引き起こし全身の動脈硬化を進ませる方向にむかいます。

肥満の原因、肥満は遺伝?
肥満の原因は遺伝と生活習慣です。遺伝3、環境7といわれています。
ヒトの脂肪細胞には白色脂肪細胞(ためる)と褐色脂肪細胞(燃やす)があります。殆どが白色脂肪細胞で大量の中性脂肪を蓄えています。褐色脂肪細胞は熱産生を行う組織で一部にしか存在しません。新生児が体を動かさなくても熱を産生し体温を保つために存在すると言われています。成長とともに褐色脂肪細胞は減少します。肥満の元は白色脂肪細胞です。血液中の中性脂肪を取り込んで膨れ上がります。肥満の人の白色脂肪細胞のサイズはそうでない人の倍ほどあります。

遺伝に加えて食べ過ぎ、運動不足、太りやすい食べ方(1日1食でたくさん食べる、早食いなど)、太りやすい生活(ストレスから逃れるために食べる、必ず手元にお菓子を置く、など)により肥満になります。

食べないけど太ってしまう?
肥満の方とお話ししていると殆どの方は食べてないのに・・・と言われます。
一緒に1日過ごせば食生活がわかるのですがそうにもいきませんので。
食べてないのに太る原因として、あくまでも病気でない場合ですが。
糖質の占める割合が多い:糖質を摂りすぎるとインスリンが出てきます。過剰に出るとインスリンは脂肪の合成を促進する作用があるので体重が増える原因となります。

無理な食事制限:痩せるために1日わずかな食事しか摂ってないと飢餓状態に対する反応として栄養の吸収が亢進し脂肪を蓄える方向に傾きます。

生活習慣の乱れ:何らかのストレス過剰で交感神経優位の状態になると睡眠状態が悪くなります。睡眠不足になりグレリンが多くなると高脂肪の食べ物を求めるようになります。また体脂肪が多いとそれだけで満腹中枢の制御が効かなくなります。

加齢:加齢、筋肉量の低下により基礎代謝量が落ちると同じカロリーをとっても太りやすくなります。

肥満の薬?
肥満の薬には数年前からあるGLP-1受容体作動薬と、本年4月に発売開始された内臓脂肪減少薬アライ(オルリスタット)があります。オルリスタットは海外では1998年から販売されており、腸で脂肪分解酵素であるリパーゼの活性を阻害して、食事の脂肪吸収を抑制し約25%を便として排泄することが期待されるお薬です。市販薬でドラッグストアで買えますがある一定の条件が必要です。ただしおならでの便もれ、肛門からのアブラもれ、便失禁などがあります。

GLP-1という物質はもともと体にあり、食後血糖値が上がると小腸から分泌され、膵臓のβ細胞表面にあるGLP-1の鍵穴にくっつきβ細胞内からインスリンを分泌させます。 GLP-1は、血糖値が高い場合にのみインスリンを分泌させる特徴があります。それを外から補うのが一方GLP-1受容体作動薬です。食欲減退効果、体重減少効果があります。GLP-1受容体作動薬は2型糖尿病の治療薬として開発され、今ではSGLT2阻害剤とともに治療の中心となっています。
GLP-1受容体作動薬は商品名では、注射薬としてマンジャロ(チルゼパチド)、オゼンピック/ウゴービ(セマグルチド)、ビクトーザ(リラグルチド)です。内服薬ではリベルサス(セマグルチド)があります。ウゴービ以外は糖尿病の方であれば保険で使用可能です。ウゴービは現在クリニックでの使用はできません。ちなみに内服薬のリベルサスと注射薬のオゼンピック/ウゴービはセマグルチドという同じものです。減量効果は内服より注射薬の方が強く、マンジャロ>ウゴービ>オゼンピック>ビクトーザの順とされています。

肥満の治療は生活習慣が基本です。でもどうしても無理な場合は上記のような薬を使います。
当院に通院されている患者さんの症例です。
睡眠時無呼吸症候群で来られた30代の男性はどうしても痩せたくて食事制限・運動を徹底的に行いました。初診時105kgでしたが半年後には15kgの減量に成功しました。上記の薬は使用していません。
健診でHbA1C 9.2の糖尿病を指摘された84kgの50歳代男性。食事・運動で3か月で8kgの減量に成功しています。上記以外の薬でHbA1Cは6台に下がっています。
肥満(ここでいう肥満とはBMI35程度の高度肥満です、小太りではありません)の糖尿病の患者さんにはGLP-1受容体作動薬を自己注射してもらっているのですが、注射すれば痩せれると思われている方が多いです。違いますよとお話ししても、理解はされても行動には移せません。皆さん全く痩せず食事を我慢するとストレスがたまるのか食欲減退効果も見られません。食事・運動を徹底すればいいのに勿体ない。
一方一人暮らしの瘦せ型の糖尿病の高齢女性。内服管理が困難で週1回訪問看護師が上記の注射をしています。すると食欲がなくなりときには嘔吐し体重は減少しています。当然HbA1Cはどんどん下がります。

肥満の治療は食事と運動です。肥満治療薬を使用しても本人の努力がなければ満足には痩せません。GLP-1受容体作動薬のデータは、効いて欲しい人、逆に効いて欲しくない人の平均ですので、過剰な期待はせずに痩せる努力もしてください。