生活習慣病(高血圧・糖尿病・脂質異常症)療養計画書

2024年6月1日より、診療報酬改定により高血圧・糖尿病・脂質異常症で通院中の患者さんには治療目標を設定した上で生活習慣病を管理することが求められるようになりました。従来のように診察中の患者さんへの説明や生活指導だけではなく、療養計画書を作成し説明・同意(署名(初回のみ))をいただくことになりました。

6月1日からは日本全国の医療機関で、手書き、パソコン入力の違いはあっても生活習慣病療養計画書が手渡されることになります。

なぜ生活習慣病に重点を置くのでしょうか。過去のブログでもご紹介しましたが2003年に伊藤裕先生が提唱されたメタボリックドミノの有名な図を引用します。この有名な図はその後色々と改変されてますが基本は同じです。
以前から、良い生活習慣が病気を防ぐのに重要ですよ、と強調されているのですがいつまでたっても患者数は増え続ける一方です。高血圧・糖尿病・脂質異常の患者さんの意識を高めることが重要と考え厚生労働省が国民の健康増進目的で今回の改正をしたわけです。

図1. メタボリックドミノの概念図

最も上流は、夜更かし・過食・悪い食事・タバコ・睡眠不足といった悪い生活習慣から始まります。歯の手入れも重要で中年になって歯茎がやせてくると歯周ポケットが大きくなり歯周プラークからの炎症物質が血管内に入り込みます。それらはインスリン抵抗性を高め糖尿病を悪化させる原因にもなります。もちろん遺伝、体質も大いに関係しますが、その後内臓脂肪がたっぷりつくとドミノ倒しのスタートとなります。それが倒れるとパタパタと1枚ずつ倒れ、真ん中の食後高血糖・高血圧・高脂血症のところまで来ます。

食後高血糖とは糖尿病の前段階のことです。高脂血症は現在は脂質異常症と呼ばれますがLDLコレステロールや中性脂肪が高い状態です。
でもこれら生活習慣病は大体オーバーラップしているのです。高血圧の人を調べてみると脂質異常症や糖尿病の前段階があるものです。

この段階では本人は何も症状はありません。皆さんなぜ薬を飲まないといけないか、なぜ生活習慣を改善しないといけないのかわかりません。

そのうちどれかが倒れてもその後一斉に倒れ始めます。この段階では本人はまだ病気と思っていません。病気になってから、症状が出てから仕方なく病院に行こうと思っているのです。それぞれの札が倒れると危ないのですが、3枚とも一気に倒れるとドミノ倒しのスピードがさらに速まります。最終的には最前列の心不全・脳卒中・認知症その他、でゲームオーバー。

ここで症例を紹介します。70歳代の男性、以前より高血圧症・2型糖尿病・脂質異常症があります。禁煙者です。お酒はお好きですが体をよく動かし、スリムな体型で、ゴルフが大好き、頻回に旅行に出かけます。自覚症状は全くありませんが真面目にお薬も内服され血圧、血糖値、コレステロールもほどよくコントロールできています。この段階ではまだ本格的な病気とはいえないですね。薬をのむだけで特別な処置・治療は必要としませんので。ぜひこの状態を末永く保っていただきたいものです。

そのご友人の70歳代男性。以前より高血圧症、2型糖尿病、脂質異常症があるのは同じなのですが、やや生活習慣悪く、タバコ、アルコール多飲、過食、肥満、運動不足でした。お薬は大体飲まれているのですが、徐々に体のあちこちが痛んできました。心肥大、不整脈、腎機能低下、手足の痛み・しびれ、常に色々な科を回り処置や治療、短期の入院が必要になっています。ドミノがひとつひとつ倒れていっているのです。

さらに70歳代の男性。以前より糖尿病がありインスリン注射をされています。血圧は軽度高値、脂質異常症もあります。いまいち病識に乏しく忙しいことを理由にインスリンをしばらく注射しないこともありました。もちろん血糖コントロールは悪い状態が続いていました。ある時足の指が痛いといわれました。よく聞いてみるとずいぶん前から黒くなっているのを放置されていたようです。すでに指先が壊死しています。糖尿病により下肢の慢性動脈閉塞症が進行し血流不足で足の指が腐りかけているのです。これは切断しかありません。一気にドミノの最前列に来てしまいました。

このように高血圧症・糖尿病・脂質異常症の生活習慣病治療は、本人の自覚、疾患に対する理解、生活習慣の改善、適切な投薬を、本人の負担になり過ぎないよう行うことです。薬よりもまずは生活習慣の改善が必須なのです。

6月から高血圧症・糖尿病・脂質異常症で治療中の患者さんには療養計画書を用いて説明させていただきますのでご協力をお願いいたします。こんなもの要らん、署名などしない、とは言わないでくださいね。全国の先生方が困ってしまいますから。