肝嚢胞・肝血管腫
健診で腹部エコーをされると様々な所見がついてきます。異常なしは約4割で、6割の方が何らかの所見が付くことになります。腎嚢胞、肝嚢胞、胆嚢ポリープ、脂肪肝、これだけで約6割弱です。もちろんそれぞれが重なっている場合もあります。
腹部エコー(腹部超音波検査)はお腹にゼリーを塗って超音波を発するプローブを当て、腹部臓器で反射された超音波の情報を画像化して判断する検査です。健診では主に肝臓、胆嚢、膵臓、脾臓、腎臓を観察します。一人当たりの所要時間は健診では10分程度です。1時間かけて詳細に見てくれる健診はないはずです。体型によって画像の見え方がかなり異なり、肥満の方の膵臓はほぼ観察できません。また検査する人の技量によっても異なり、ある病変が以前はなかったけれども今回はあった、というのもしばしばあります。
腹部エコーは、検査時の痛みがない、放射線を浴びなくてもよい、造影剤不要など体に負担が少なく安全にできることが最大のメリットです。胆嚢内部、嚢胞内部の詳細は観察しやすい人(やせた体型)に限れば診断能が非常に高いです。
さて腹部エコーでは以下のような所見がついてくることがあります。今回は肝臓のお話です。
脂肪肝、肝腫瘍、肝嚢胞、慢性肝障害、肝石灰化、肝内胆管拡張、肝嚢胞性腫瘍、肝血管腫などです。放置してよいのもから即精密検査、即治療まであります。そして各学会の指針に基づきA(異常なし)からC(要経過観察)、D(要医療)などの判定区分に分けられます。
肝嚢胞、肝血管腫はよく見られる所見です。データにより異なりますが肝嚢胞は12~18%、肝血管腫は2~4%に認められる所見です。肝嚢胞はB(軽度異常)、肝血管腫はC(要経過観察)になります。
肝嚢胞とは、肝臓の中に水のたまった袋ができたものです。先天性、後天性などがありますが、大きさ数cm以下のものが多く、無症状で治療の必要はありません。
先天性のものは多発性嚢胞性肝疾患という遺伝性のものがあります。多発性嚢胞腎という末期腎不全に至る遺伝性疾患の肝病変としての嚢胞もありますので、サイズの大きなものが多発している場合は注意が必要です。
サイズが小さく多発していないものは経過観察のみで治療は不要です。
肝嚢胞のサイズが10cmを越えてくるとお腹の張りや周辺臓器を圧迫することによる痛みが出る場合があります。さらに巨大肝嚢胞と呼ばれるものでは破裂や嚢胞内感染の頻度が高まります。このような場合は内科的・外科的な治療が必要になってきます。
次に肝血管腫です。肝血管腫とは恐い病名ではありますが、肝臓内の毛細血管が絡み合ってできた腫瘍(固まり)のことです。血管が異常増殖することでおこる海綿状血管腫です。良性腫瘍ですのでご安心を。女性に多くサイズは数ミリから4cmまでです。通常2cm以下です。基本放置(経過観察)で良いのです。
ただし実際サイズが多いものは肝腫瘍(特に肝癌)との区別が一度は必要です。肝臓の癌(悪性腫瘍)には原発性肝癌と転移性肝癌があります。
原発性肝細胞癌は90%がウイルス(B型、C型肝炎ウイルス)の持続感染で癌化するといわれています。すなわち元の肝臓も痛んでおりエコーで慢性肝障害(肝臓のエッジがシャープではない)の像を呈しています。一方大腸癌などの肝転移は孤発性に肝腫瘍として発見されることがあり、肝血管腫と鑑別が必要な場合があります。
肝血管腫と肝癌との鑑別は一般的には造影剤を用いたCTが使われます。ガドリニウム造影でのMRIも有用です。
肝血管腫は基本経過観察で良いのですが、サイズが大きい場合は病院で精密検査を受けた方が良さそうです。
健診のエコーでの肝嚢胞・肝血管腫は基本経過観察で良いのですが、大丈夫でない場合もまれにありますのでかかりつけ医に一度はご相談してみてください。過度な心配は不要です。