血糖値が上がると

私たちは生きてくために食事をします。パン、ごはん、麺などの炭水化物は体内で吸収されてブドウ糖(グルコース)となりエネルギー源となります。血液中のブドウ糖濃度のことを血糖値といいます。

健康な人は空腹時血糖は70~100mg/dlで、食事で血糖値が上昇しても膵臓からインスリンというホルモンが出て過剰に上がりすぎることなく140mg/dlを上限としてコントロールされています。その後約2時間でもとに戻ります。糖尿病の人は初期は膵臓が頑張ってたくさんのインスリンを分泌しますが、インスリンの反応が悪く血糖値が下がりにくくなります。その後長期間経過すると膵臓が疲弊してしまいインスリンが出なくなります。

糖尿病は血糖値が上がることで様々な合併症を引き起こす病気です。
血糖値が上がりすぎると全身の血管の内張りをしている内皮細胞が障害を受けます。傷ついた内皮細胞から悪玉コレステロールが侵入し炎症を引き起こしプラークを形成します。このプラークが徐々に大きくなると血管の通りが悪くなると同時に、プラーク自体も傷がつきそこに血小板が集まり血栓を形成します。
全身の血管とは、目や腎臓の細い血管のほか、心臓や脳の太い血管などすべての血管のことです。

さて糖尿病の指標としてヘモグロビンA1Cという値があります。ヘモグロビンとは赤血球内の蛋白の一種で、血糖値が高いほどヘモグロビンに結合するブドウ糖の量が多くなります。いったん結合すると赤血球寿命が来るまで戻りません。ヘモグロビンA1C(HbA1c)はすべてのヘモグロビンに対して糖と結合したヘモグロビンが何%であるかを示し、これが過去1~2か月の血糖値を反映し糖尿病患者さんの指標として用いられるのです。
HbA1cは正常では5.5%、6.5%を超えると糖尿病型とよびます。6.0%以上の方は要注意です。

健診でHbA1cが高めの方はブドウ糖負荷試験を行います。75gのブドウ糖を飲んでもらい前後で血糖値やインスリンの反応を見る試験です。正常(と思われる)な人はこの検査をしないのですが、健診でHbA1cが少し高い方でも負荷後1時間の血糖値が250~300mg/dlになることがあります。(全く正常な人は負荷後140mg/dl以上は上がりません)
食後急速に血糖値が上昇し、その後速やかに低下することがあります。これを血糖スパイクとよびます。すぐに下がるので血糖値の平均値を示すHbA1cは正常より少し高いだけです。この血糖値の乱高下がより血管を傷つけ動脈硬化を進めるのです。

糖尿病の初期はこのように血糖スパイクが起こります。空腹時血糖やHbA1cはそれほど高くないので職場でも必ず受診、ということにはなりません。そのまま放置して何年か経過すると徐々に空腹時血糖が高くなっていきます。糖尿病の診断基準である早朝空腹時血糖126mg/dl以上やHbA1c 6.5%はすでに食後の血糖値が高い状態です。久しぶりに健診を受けたらHbA1cが8%だった、というのはよくあります。それでも怖いのは自覚症状が何もないことです。

血糖値が高い状態が長期間続けば続くほど血管が痛んできます。さらに、過去に糖尿病を放置していた期間がある方はその後治療介入してHbA1cを下げたとしても、初期段階から治療している方と比較して糖尿病合併症をより発症しやすい、とされています。これはメタボリックメモリーや遺産効果と呼ばれています。(こんなこと言われても嬉しくはないですね。)
他院から転院されてきて今は血糖コントロールは良好だけれども、各種画像診断で思いのほか脳血管が傷んでいる、あるいはすでに網膜症がある、というような方に詳しくきいてみると長期にわたって糖尿病を放置していたということが良くあります。

HbA1c 10%程度、空腹時血糖として大体200mg/dl、(大体のイメージですがHbA1cの20倍が空腹時血糖です)そんな方はおそらく食後400mg/dlくらいになりますが、ここでも症状はまだありません。

では糖尿病の症状って何?と聞かれたら、相当悪くなると口渇、もっと悪くなると体重減少、糖尿病の末期的な症状はだるい・吐き気・腹痛・深い呼吸です。でもこれは血糖値だけの問題であり、全身にはもっと重篤な合併症が起こっているのですよ、とお答えします。

少し症例を。
40歳代男性、独居。母糖尿病・脳梗塞。35歳で糖尿病を指摘され一時インスリンを使用されるもその後内服のみでコントロール。内服薬がなくなり放置、口渇が出てきたため当院を受診。初診時HbA1c 14%、血糖値430mg/dl、治療を再開したが1,2回来院されては半年来院せず、そのたびにHbA1c 13~14%となっている。目のかすみやEDあり、網膜症・神経症がすでにありそうです。心血管系の合併症精査に病院紹介するも拒否。このように口渇が出てくると怖いのです。

60歳代男性。いくら水分とっても口渇、しかも甘い飲み物。トイレ頻回が気になり来院されました。血糖値540mg/dl、いつから糖尿病なのかわかりませんが口渇は要注意です。

当院かかりつけの90歳代男性。軽度の耐糖能異常(糖尿病の手前)はあったのですが非常にお元気な方です。この1ヶ月で体重が徐々に減少、食欲不振、トイレ回数が増え口渇も出てきました。徐々に歩行距離が短くなり吐き気出現。もしやと思い採血すると血糖値550mg/dl、1ヶ月前に110mg/dlであった90代男性に何が?
病院紹介すると、尿中・血中ケトン体陽性、血液ガスでアシドーシスの糖尿病性ケトアシドーシスでした。早速インスリン持続点滴などしていただき回復されましたが、その後の検査でインスリン分泌は廃絶しており、まさかの急性発症1型糖尿病でした。超高齢者での1型急性発症は珍しいのです。

血糖値が上がっても大抵の場合症状は出ません。職場の健診でHbA1C高値・要受診となっていても、口渇・体重減少があり仕方なく受診される場合が多いのです。その場合すでにひどいことになっている場合があります。
定年まではしっかり働くことができ、その後も病気から解放された老後を送りたいものです。血糖値が上がった方はまずは受診をお勧めします。