デジタルデトックス

デトックスとは英語のdetoxificationの略語で体にたまった毒素を体外に排出させることです。
医療でのデトックスとは、キレーションという方法で有害重金属のデトックスをおこなうことを指します。これは有害重金属の長年の蓄積で体調が悪くなった方のための治療です。

デジタルデトックスとはスマホやパソコンと一定時間距離をおくことでデジタル機器の悪影響から少しでも逃れましょう、という意味です。デジタル機器の悪影響とは、脳過労に伴う不眠、頭痛、不安、動悸、さらに脳過労が遷延することによるうつ状態、認知機能低下などです。

私が研修医の頃の通信手段はポケベル。夜間・休日の呼び出しなのですが、かけ直す携帯電話がなく、外出中は公衆電話を探していました。これでも十分不眠でしたが。携帯電話は1993年から普及しましたが通話機能のみでした。1999年にNTTドコモがiモードを発表し端末からインターネットに直接アクセスできるようになりました。しばらくの間、皆さんガラケーで電話+インターネットを楽しんでおられました。
2007年のiPhone誕生で端末から何でもできるようになりました。まだまだガラケーという方もおられましたが2022年はスマホ率94%となっています。スマホ保有率は2020年のデータでは13~59歳で90%、今はもっと多いはずです。

電車の中ではもちろんスマホ、横断歩道渡っていてもずっとスマホ、運転中は罰則があるので何とか我慢、ご飯中、寝る前もスマホ。一体何をそんなにすることがあるのでしょうか。

人間は楽しい、気持ち良くなると快楽物質のドーパミンが出てきます。ドーパミンにより形成された神経回路で行動選択を動機付けします。生命維持、種族の保存はもちろんですが、依存という問題も起こってきます。
スマホの魔力は、飽きない、無限のコンテンツ、手軽に楽しめる、心地よい、という点です。酒、タバコ、ギャンブルと一緒で完全に依存に陥ってしまいます。

人間の脳は情報が入ってくると整理、整頓され一部記憶され必要な時に取り出すことができます。ただしスマホやパソコンの無限のコンテンツが常時入ってくると優先順位がわからなくなり脳疲労が起こります。神経細胞間のセロトニンのような神経伝達物質が過負荷により消耗されてしまうのです。

朝起床時には脳内のエネルギーであるセロトニンが出ます。暗くなると眠るためにメラトニンが分泌されます。寝る前にスマホを見ているとスマホの画面からのブルーライトでメラトニンが減少、交感神経も興奮し、これでは眠れません。交感神経が常に活発なので途中で覚醒し、その後眠れず朝しんどいといった悪循環になるのです。またスマホ・パソコンに頼りすぎると人の名前が出ない、漢字が書けない、計算できない、といった一時的な脳機能の低下につながります。

スマホ・パソコンなどのデジタル依存になるとコピペで済ませひらめきが低下する、スマホしか見てないのでコミュニケーションが不足する、実行力が低下する、さらにはスマホ以外の現実世界には興味がなくなってしまうのです。脳に負荷を与えすぎてセロトニンが消耗し枯渇してくると前頭葉の機能低下が起こってきます。その代表がうつ病です。他人の目や評価が気になる日本人はさらに神経質になってきます。若いころのうつ病は老年期の認知症発症のリスクと言われています。

さてデジタルデトックスの方法です。1日のうち何時間かはスマホを手放しましょう、あるいは週末の半日はスマホなしで出かけましょう。
午前の仕事が終わったらすぐにスマホを見るのではなくぼんやりしましょう。作業脳を休憩させ、休息脳を活性化させるのです。昼食の場所もスマホで道順を検索しないようにすることで視空間認識能が戻ってきます。誰かとしゃべって思い切り笑いましょう。これから涼しくなる時期、日光にあたってちょっと散歩。できればベンチで昼寝をしましょう。15~30分の昼寝はアミロイドβのような残骸物質を掃除するのに重要です。ネットの情報と距離をとって本当に自分に大切な情報を探しに行きましょう。

スマホ依存が始まってまだ10年も経っていないのです。今後ますます依存するとスマホ世代が将来どうなるかは誰にもわかりません。健康診断で肝機能や糖尿病の数値が気になる、医者の側も心臓病には興味があるけど、脳の健康には全く興味がない。それが実際のところです。スマホ依存になって良いことはなさそうです。できるところからデジタルデトックスを始めましょう。