コロナの後、しんどい

コロナウイルス感染症の多くは発熱、喉、咳、の風邪症状ですが、下痢・腹痛主体である場合もあります。
昔からウイルス感染は感染力が強くなると弱毒化するといわれてますが現状その通りです。以前のように肺炎になり入院する率は減少しており、ほとんどが軽症でおわります。どちらかというと若者の方が症状が激しい傾向にあります。ワクチン効果の有無は私にはわかりません。ただし今でも免疫系が過活動をおこしサイトカインストームと呼ばれる状態で入院する場合があるのも事実です。SARS-CoV2感染の基本は血管内皮機能を損ない血管の炎症を誘発し、血栓症を引き起こす可能性があることは以前も今も変わりありません。

弱毒化したコロナですが、コロナの後一定数はいわゆる後遺症に悩まされる場合があります。
ポール・ガーナー教授がコロナに感染した後、7週間もの間体調不良・極度の疲労が続いたが周囲の理解が全くなかった、というのがコロナ後遺症の始まりのようです。はっきり期間の定義はありません。

コロナ後遺症(Long COVID)、その割合は10~25%ともいわれてますが正確な数字は把握できません。本当のコロナ後遺症は少数のみと考えてますが、味覚障害や倦怠感が残る場合を数に入れるとその程度にはなりそうです。

コロナ感染の後、高血圧・糖尿病・精神疾患の発症が増えたとの報告があります。(BMJ 2021;373.n1098) 頭部MRI上脳萎縮をきたし認知機能低下が起こる場合があります。
コロナ後遺症の症状として、疲労・倦怠感・筋肉痛の持続、頭痛・ブレインフォグ(頭に常に霧がかかったような状態)。腹部症状として、吐き気・下痢・腹痛。呼吸器に関しては、咳・痰の持続の他、ちょっと歩くとしんどい・息が切れる・胸痛、といった症状があります。肺の間質の線維化により拡散能低下をきたし労作時息切れを伴う場合がありますが、このような場合は後遺症というよりも合併症と考えます。循環器系、血液系にも異常をきたすことが多いのですが早期に症状として出てくることは少ないです。

コロナで重症化する人としない人、免疫が関係ありそうですが様々な研究がなされています。ウイルス感染が起こるとインターフェロンが産生されますが、重症化する人はIFNに対する中和抗体を高頻度に保有する、だから免疫反応を遅延させ超重症状態を作り出す(34413139, 32788292)という報告があります。腸管は最大の免疫組織です。その中である種のビフィズス菌が喪失すると炎症が惹起され重症化するとの報告や、エンテロコッカスフェカーリス種の過剰な増殖がサイトカインストームを引き起こすともいわれています。

少しややこしい話ですが、コロナウイルスは我々の体に感染するときに細胞表面のACE2受容体を介して細胞内に入ってきます。そしてACE2の酵素活性が破壊されます。ACE2の喪失はアンギオテンシンIIの滞留の方向に傾き、肺炎・心不全・血栓・腎不全など過度の炎症および自己免疫を引き起こします。ケルセチンやイベルメクチンはウイルスのスパイク蛋白質がACE2に結合するのを防ぐ効果があります。(イベルメクチンに関しては現時点ではエビデンスはありません)

コロナ感染後わかっていることとして程度の差はありますが、約2か月たっても炎症が持続している、ACE2活性が低下している、血管内皮機能をが障害されている(若年成人においてもコロナ感染後FMDは低下している)、ディスバイオーシス(腸内フローラが激しくバランスを崩している)をきたしている、脳内では脳損傷をきたしたときのようなグリア細胞の活性化がみられる、などがわかっています。

炎症の持続は酸化ストレスを介してミトコンドリア機能に影響を与えエネルギー不足でしんどくなります。ACE2活性低下により呼吸機能低下を介して息切れ・倦怠感をきたします。腸のACE2欠如は抗菌ペプチドの減少とカンジダ増殖をきたします。また全身血管の内皮炎をきたし脳内では内皮機能低下による毛細血管血流不足が起こりブレインフォグ、頭が働かない・記憶力低下にかかわってきます。

コロナ後遺症の治療です。これを飲めば大丈夫というような都合のよい薬はありません。炎症を鎮め活性酸素を低下させミトコンドリア機能を回復させる、ACE2を取り戻し血管内皮機能を回復させ脳の毛細血管血流を再開させる、わかっていてもなかなか手段がありません。症状に合わせてコツコツと漢方やサプリメントを使用しているのが現状です。

感染症防御・治療すべてにおいて血液中のビタミンD濃度を高めておくことは重要です。ビタミンD4000~8000単位の摂取をお勧めします。炎症の持続という意味ではケルセチンやクルクミンを用います。コエンザイムQ10やALAはミトコンドリア機能活性化に有用です。腸には乳酸菌・ビフィズス菌などの善玉菌を十分入れておくことが重要です。脳機能改善、脳保護の観点からはオメガ3(EPA、DHA)とポリフェノール(レスベラトロール)が有用です。検査で異常値のない呼吸困難感やブレインフォグには上咽頭擦過療法(Bスポット療法)も効果があるようです。倦怠感に対しては、十全大補湯、人参養栄湯などの漢方も使用することがあります。

当院の発熱外来では、コロナは7月から急増していましたが、この2週間程度はコロナだけではなくA型インフルエンザも急増しています。
コロナが回復した後、別件で来院された際にコロナの経過をお聞きするのですが、味覚障害や咳がしばらく残った方はいらっしゃいますが大半の方はその程度で済んでます。ただし中には1ヶ月経過しても倦怠感や息切れがひどく非常につらそうな方がおられ治療に難渋します。インフルエンザの経過ではまず見ない症状です。この場合はコロナ後遺症(Long COVID)として先ほどのサプリメントやBスポット療法の適応となるのです。
現時点では、コロナ後遺症はその存在が明らかになって3年程度のことで、確実に治してくれる専門家もおられません。各先生方が色々意見交換し合い手探りで治療しているのが現状なのです。