血をサラサラにする薬

血をサラサラにする薬を飲むことを抗血栓療法といいます。血液をサラサラにすると血が止まらないからダメなのでは?

脳梗塞後、心臓の冠動脈ステント後、心房細動などの病気の方は常に血をサラサラにしておく必要があります。そうしないと血が固まって血栓が血管をふさいでしまうからです。血栓が血管を塞ぐと、再び、あるいは新たに脳梗塞や心筋梗塞を起こし手足の麻痺や心不全になってしまいます。

血管を道路に例えると、突然土砂崩れが起きてその先が通行止めになってしまうのが梗塞(脳梗塞、心筋梗塞)です。放置すると物流が途絶えその先の村が滅んでしまうので、まずは工事車両を入れて少しでも車の流れを確保しなければなりません。突然トンネル内部、あるいは手前で崩壊することがあります。その時は筒状のステントという金属を用いて内張りをすることが解決策になります。

歳をとった道路はあちらこちらが痛んでいます。舗装が剥がれ、雨水があふれ、一部陥没し、完全通行止めにはなってませんが、そのようなところでは渋滞します。常にリニューアル工事が必要なのです。そこに土を盛ったり、砂袋を積み上げるのが血小板、そこにセメントを流し込み崩壊を防ぐことを凝固と呼びます。その後痛んだり古くなったらやり直すことを常に繰り返しています。過剰な砂袋やセメントは道路をますます狭くするので、ある程度補修が終われば土やセメントが放置されないよう、それをどかすような抗血小板薬抗凝固薬で常に道路をツルツル、サラサラにして交通が途絶えないようにしておく必要があります。

血液は血小板と凝固因子(先ほどの土とセメント)で固まり、血栓ができるのですが、流れの速い動脈系の血栓形成には主に血小板、流れの遅い静脈系の血栓は主に凝固因子が関係します。

高血圧、タバコ、糖尿病、高脂血症で動脈硬化が進むと動脈で血の塊ができやすくなります。不整脈や心不全で血の流れが悪くなると静脈で血が固まりやすくなります。

抗血小板薬はバイアスピリン、プラビックス、エフィエント、プレタールなど。抗凝固薬はワルファリン、プラザキサ、エリキュース、イグザレルト、リクシアナなどの商品名で販売されています。

抗血栓療法が必要な方は以下の通りです。いずれも血管の中で血栓ができて脳梗塞、心筋梗塞にならないための治療です。

抗血小板薬が必要な方としては脳梗塞後、心筋梗塞後の再発予防。継続的に抗血小板薬の内服が必要です。

冠動脈ステント術後、頸動脈ステント術後、カテーテル的大動脈弁置換術後など動脈系に異物を植え込んだ早期には抗血小板薬を2剤用いての厳重なサラサラ治療が必要です。

抗凝固薬が必要な方としては心臓の大動脈弁や僧帽弁を機械弁で置換された方。永続的にワルファリンでの抗凝固療法が必要です。

心房細動という不整脈がある方は脳梗塞予防として抗凝固薬が必要です。

脚の深部静脈血栓症から肺塞栓症を起こされた方は抗凝固薬が必要です。

心房細動のある方が冠動脈ステントを入れた場合は、最初の1ヶ月程度は抗凝固療法、抗血小板療法(2剤)の両者が必要です。血のサラサラの薬を一時的に3剤内服することになります。

大体以上が基本ですが、冠動脈に入れたステントの位置、長さによっても血栓リスクは異なりますし、高齢、腎不全、糖尿病、心不全はそれだけで血栓ができやすくなります。

血をサラサラにする薬(抗血栓療法)を内服されている方は当然ですが出血に注意です。出血には、しばしばみられる鼻出血、歯肉出血、皮下出血から、放置しておくと命にかかわる脳出血、消化管出血があります。

どのような人が血をサラサラにする薬で出血しやすいかというと、低体重、フレイル、腎不全、心不全などです。血栓リスクが高い場合には出血リスクも高いことがわかっています。

脳梗塞予防で血をサラサラにしすぎて脳梗塞で寝たきりになった、では困りますよね。適切な抗血栓療法とは血栓リスクを優先せずにまず出血リスクを評価することが重要です。

血を吐いたり、便からダラダラ血が出たらびっくりして病院行くのですが、転倒して頭打っても家でじっとしている人が多いのです。血のサラサラをのんでいる状況での脳出血は非常に危険です。翌日さらに内服するとなかなか出血が止まらず手遅れになることもあります。

薬が余ってますから血のサラサラの薬は今回要りません、という患者さん。理由を聞いてみると鼻血が良く出るのでほとんど内服していない、と言われます。これも困ります。

大切なことは患者さん自身が一体何のために血のサラサラの薬を飲んでいるかを理解しておくことです。そして色々な状況の時にどの程度なら中止して良いかどうかを主治医の先生に確認しておいてください。

医者の側もガイドラインで決まっているからこの薬は絶対に中止しないように、という場合も多いのですが、鼻血をダラダラ出しながら血のサラサラの薬を飲むのも酷な話なのでそのあたりは臨機応変に患者さんに説明してあげてください。