プラセンタの不思議

プラセンタを注射すると何となく調子がよくなります。科学的な表現ではありませんが。

プラセンタ療法とは胎盤を治療に使用する方法のことをいいます。
動物は産後胎盤を食べる習性があります。肉食動物だけではなく草食動物も食べるようです。
ヒト胎盤は日本では注射でしか使ってはいけません。サプリメントや化粧品でのプラセンタはブタ・ウマ胎盤由来のものです。ヒト胎盤由来のプラセンタには商品名でメルスモンとラエンネックという2種類があります。今回は主にメルスモンのお話です。

胎盤の機能は母体側と胎児側の代謝物質交換、ホルモン産生、胎児側への免疫学的支援をして妊娠を維持します。母体にとっては胎盤には免疫寛容があるので異物である胎児が育つのです。胎盤には様々な成長因子が含まれています。ただしプラセンタ注射には成分分析で成長因子は含まれていません。

ヒト胎盤はもともと生薬として使われていました。紫河車(しかしゃ)といって元気をつける効能の他、てんかんの治療にも使われていました。すなわちプラセンタ(商品名メルスモン)は生薬を注射している、と考えた方がよさそうです。

プラセンタ注射の源は1950年代に少量の胎盤組織を体に埋め込むと全身に色々な良好な効果があることが分かりました。これを応用して1950年代中頃、胎盤抽出エキスからなる注射液が日本で開発され、これがメルスモンで、れっきとした疾患治療薬なのです。

プラセンタ(メルスモン)は日本国内の提携するいくつかの産婦人科から調達したヒト胎盤を使用。各種感染症を除外し、塩酸加水分解し、加熱滅菌した製品でたんぱく質は含まれません。有効成分は1A(2ml)中、胎盤絨毛分解物の水溶性物質100mgです。プラセンタは特定生物由来製品(主に人の血液や組織に由来する原材料を用いた製品)なので一度使用すると、献血ダメ、基本臓器移植もダメになります。なお医療施設には20年間の使用記録の義務があります。

保険適応は更年期障害と乳汁分泌不全です。更年期障害に関しては週3回投与にて有効率77%を示したとの報告が根拠となっています(1981年唐沢らの報告)。精神症状(頭重感、入眠障害、倦怠感、疲労、緊張)、身体症状(ホットフラッシュ、のぼせ、動悸)ともにプラセボ群と比較して有意差が認められ、軽症症例だけではなく中等症の更年期症状にも有効とされています。
安全性に関してはホルモンは動かさない、すなわち乳癌発生促進や子宮筋腫増大はしないことになっています。

乳汁分泌不全においても有効率68%だったとの報告ありますが、乳汁分泌不全にプラセンタを使用することはまずありません。

さてプラセンタの何が効いているか。成長因子はごく微量のみ(ほぼ入っていません)、同定されているのは各種アミノ酸のみ。動物実験での薬理作用は組織呼吸促進作用、創傷治癒促進作用、抗疲労作用などが認められています。

あくまでも保険適応は45歳から59歳までの更年期障害です。最初は週2-3回程度、1本 2mlを皮下注射します。腕、腹部、臀部の皮下注射です。1~2か月続けて効果がある場合はそのまま続行。7割の方が効果を実感します。最終的には週1回にしても良いですが、2週間に1回では効果はまず薄れてきます。ただしプラセンタが効かない人もいます。

更年期症状改善以外にも効果はさまざまです。元気になる、カゼひきにくくなる、肌ツヤが良くなる、しんどい高齢者は元気になり調子がよくなります。なお男性にも効果があります。

なぜ効果があるかははっきりしない、でも元気にある。これがプラセンタの不思議です。