気を失いました(失神)

気を失いました、と受診される方がいらっしゃいます。家族が慌てて救急車を呼んで救急外来に行くことも、あるいは後日、定期受診でクリニックに来られることもあります。

気を失う(失神)とは一時的に意識がなくなる状態のことです。一過性の脳血流低下によって、脳機能が全般的に低下することにより、一時的に意識消失を来すものです。数秒から長くても数分、それ以上のものは意識障害と呼び区別します。さすがに数時間意識がなくなれば家族も救急車を呼ぶでしょう。

失神は放置してよいものから、早く治療しないといけないものまで原因はさまざまです。我々診る側としてはほとんどの場合、意識が回復し通常にもどった状態で診察することが多いので家族、本人に詳しく話を聞き必要な検査を行っていくことになります。

失神の原因として、心原性失神(心臓に病気があっておこる失神)、神経調節性失神(迷走神経反射)が主で、脳卒中とは関係ないことがほとんどです。

最も多いのは神経調節性失神です。迷走神経(血圧下げて脈を遅くする神経)が一時的に優位になり失神を起こすものです。通常治療は必要ありません。気を失いました、と来られても大抵の場合は放置で良いことになります。

立位、痛み、脱水、嘔吐などがきっかけで迷走神経活動が優位になる、あるいは心臓への血液量低下のため心拍出量が低下し、心臓副交感神経の亢進によって脈が遅くなり血圧低下を引き起こすことが原因です。

例として、高齢男性が夜中に排尿しその後失神(排尿失神)、咳をしすぎてその後失神、若い女性の長時間の立位による失神などがあります。酒飲みすぎて脱水気味、寝たきりに近い人、糖尿病が悪く自律神経が障害されている人はさらに起こりやすくなります。何となくお腹が気持ち悪くなり徐々に意識が薄れて気が付くと倒れていた、という場合もあります。これらの失神は倒れたときに何故かケガをしないことが多いのです。

さて、心配すべき失神です。倒れたときに顔面、頭を強打した、血だらけになっている、あるいは目の前が真っ黒になった。このような時には心原性失神を疑わなければなりません。極端な頻脈、徐脈になると脳血流が一気に途絶し受け身をとれずに頭から倒れます。要注意です。

失神で医療機関を受診すると詳しく話を聞いたうえで、心電図、採血、念のための頭部MRIなど行います。心原性を疑った場合は24時間のホルター心電図、負荷心電図、心エコーを行います。失神を繰り返し心原性を強く疑うがどうしてもわからない場合はマッチ棒よりもう少し太いループ心電図を皮下に植え込み定期的に観察することもあります。

こんな症例がありました。
40代男性、朝強い胸痛が一瞬ありました。自分で血圧測ると180でした。その後いったん落ち着き座って仕事をしていましたが今後は失神を起こしました。(数秒から数十秒)その後クリニックに歩いて来院。
心電図では虚血性変化(心筋梗塞の変化)はありませんでしたが、心エコーで大動脈が拡大。病院に搬送すると、結果は上行大動脈の急性大動脈解離、頸動脈まで解離したため一時的に脳血流が途絶し失神を起こしました。最も重症な病気で手術をして何とか助かりました。

70代男性、腹痛にて歩いて救急外来受診。トイレに行った直後ドスンと音がしたので近くにいた人が見に行きました。顔面強打し額が割れて血だらけになっていました。(大変失礼な言い方ですが、白髪が血に染まり外人の悪役レスラーを思い出しました)即座に心電図をとると右冠動脈領域の急性心筋梗塞でした。すぐにカテ室に直行、問題なく終了しましたが、抗凝固剤のため額の傷はひどいものでした。

気を失って(失神)受診される方のうち、大抵の場合は大丈夫なことが多いのですが、中には一刻を争う場合もあります。自己判断せずにまずは医療機関を受診してください。

大雪高原緑沼