急性大動脈解離の怖さ

急性大動脈解離は突然死することが多い怖い病気です。突然の胸痛、背部痛から始まります。血圧の高い高齢男性に冬に発症することが多いですが、若年者にも起こります。

急性大動脈解離と大動脈瘤は別物です。
大動脈瘤とは、大動脈がこぶのように病的に膨らんだ状態で、場所により○○大動脈瘤とよばれます。大きくなるにつれて色々な場所を圧迫したり、さらに大きくなると破裂し生命を脅かす危険性があります。確かに怖い病気なのですが、急性大動脈解離の怖さはこんなものではありません。

大動脈は3層構造になっています。そのうちの中膜が裂けることで、元々は大動脈の壁であった部分に血液が急速に流れ込んで大動脈内に二つの通り道ができます。
時間をかけて解離の準備状態が作られ、そこに血行学的なストレスが加わることにより発症します。
下の図は急性大動脈解離のStanford分類です。A型(心臓に近い上行大動脈が裂けるもの)、B型(心臓から遠い下行大動脈が裂けるもの)に大きく分けられます。

このA型、すなわち心臓に近い部分の大動脈が裂けると突然死の可能性があるのです。
発症から1時間あたり1~2%の致死率があるとされています。

なぜA型の急性大動脈解離が怖いか?
心臓に近いので解離腔に流れ込んだ血液が心臓の栄養を与える冠動脈を圧排し、すなわち急性心筋梗塞が起こったのと同じ状態となり、心臓が動かなくなる。
あるいは、心臓は心嚢と呼ばれる膜に覆われていますが、そこに解離した部分から血液が流れ込んで、心臓の周りに急に血液がたまることで心臓が動かなくなる(心タンポナーデ)。
また頭に向かう血管が圧排され血流がなくなり脳梗塞様の症状(意識消失、四肢麻痺)がでる。
このように直接生命を脅かす部分がやられるのです。

先日来られた40代男性。
会社に着いて血圧測ると180だった。普段から高いので気にしていない。その後突然胸痛がありしばらく持続。その際一瞬意識がなくなった、とのこと。しばらく休んでいたら落ち着いてきたので来院されました。
すぐに心電図をとり急性心筋梗塞を除外します。その後心エコーを見ると上行大動脈拡大が。心臓の周りには血液は溜まってませんが、これはただ事ではない。
ということで病院に送りました。
診断はA型急性大動脈解離。約10時間の緊急手術が行われたようです。

もし胸痛が落ち着いたので来なかったら、また心電図とって大丈夫だから経過見ましょう、なんて言っていたら。
病院に到着できて手術していただいて本当に良かったです。

このように急性大動脈解離は病院到着前に死亡することが多い疾患です。
何もない健康な人が急に起こるわけではありません。
大動脈解離の準備状態には高血圧、閉塞性睡眠時無呼吸などがあるのです。
たかが血圧、いびき、と放置しないでかかりつけの先生にしっかりご相談ください。

札幌市街