酒とタバコと食道がん

「酒は百薬の長」。酒は適正飲酒を心掛ける限り、ストレス解消、食欲増進など、薬では得られ ない多くの利点を持っている、という意味です。
一方タバコは、「百害あって一利なし」というのは皆さんご存知だと思います。

酒を飲みすぎると肝臓に悪い、タバコは肺に悪い、と一般的に考えられていますが、今回は酒とタバコと食道がんについてお話します。

結論。遺伝子多型によりある酵素の活性が低い人は、酒とタバコで200~400倍食道がんにかかりやすくなります。

アルコールは主に肝臓で代謝されアルコール脱水素酵素(ADH1B)によってアセトアルデヒとなりアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)により酢酸に分解されます。

アセトアルデヒドは人の発がん物質として消化器癌、女性の乳癌の原因となります。濃いアルコール飲料はアセトアルデヒドも高濃度で含有し、食道粘膜はアルコールとアセトアルデヒドの両者に直接暴露されることになります。アセトアルデヒドはタバコ煙にも含まれ、アルコールはその場合タバコ煙を粘膜に浸透させる役割をします。

酒を飲んで真っ赤になる人をフラッシャーと呼びます。何となく酒が弱いので飲まない(飲めない)から食道がんのリスクは低いのです。
約6%の日本人はアルコール脱水素酵素(ADH1B)の活性が低く、ゆっくりとアセトアルデヒドが作られます。ゆっくり作られるので顔が真っ赤にならず、でも大量飲酒の翌日は夕方までアルコールが残ります。この方々は食道がんのリスクが高いです。
一方人口の約4割はアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)の遺伝的酵素欠損があります。この方々もアセトアルデヒドの蓄積で食道がんのリスクを高めます。

アルコール脱水素酵素(ADH1B)の活性が低い人、アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)の遺伝的酵素欠損の人はそれぞれ食道がんのリスクが数倍に増加します。
では両方の酵素が欠損している、あるいは活性が低い人はどうなるか?この組み合わせは日本人で約3%と低いのですが、食道がんのリスクは数十倍に高まります。さらに本人はフラッシャーではなく酒が強いと錯覚している人が多いのです。
そこにタバコが加われば何と、200~400倍食道がんにかかりやすくなります。

口腔内、喉から続く食道粘膜は扁平上皮という粘膜です。本来熱いもの、刺激物を食べても大丈夫なようにできていますが、アセトアルデヒドに長期間暴露されると発癌します。
ということは、食道がんがある人は口腔内や咽頭、喉頭のがんも合併する場合や食道がんが多発している場合も多いのです。
舌癌の手術後に精密検査してみると食道がんもあった、という例は多いのです。

アルコールの1日の摂取推奨量は純アルコールで20gなどといわれてますが、あくまでも平均の話で、重要なことは平均ではなく個別に考える必要があります。中にはたくさん飲んでもよい人も、少量でも癌のリスクを高める人もいるのです。先ほどの酵素の遺伝的な欠損を調べることで、自分のリスクがわかってきます。最近は遺伝子解析が進歩してきており比較的簡単に調べることができます。

顔面・口腔・頸部などにメスを入れる可能性のある頭頚部や食道のがんは、絶対一生かかりたくありません。毎晩缶酎ハイを飲んでほっと一息ついている貴女、タバコを吸ってリラックスしている貴方、一度は自分の癌関連遺伝子を調べて、もし食道がんのリスクが高ければ、残念ですが今日から酒、タバコは一切やめたほうがいいですよ。