心筋梗塞と歯周病

冠動脈疾患(急性心筋梗塞や狭心症)は脂質代謝異常、高血圧、糖尿病の方に多いとされています。そして冠動脈疾患を起こしてカテーテル治療を行った後は血液をサラサラにする薬をのんで、コレステロールや血圧を薬で下げて、糖尿病があれば治療を行います。

それは正しいのですが、冠動脈疾患をおこした患者さんの中にはコレステロールや血圧が低く、糖尿病はなく、家族歴もない中年男性がおられます。その方たちも、さらにコレステロールの薬を出されるのですが・・・。ちょっと待って。冠動脈疾患の危険因子は歯にもあります。

先ほどの中年男性の話をよく聞くと、インプラント治療中だった、とか、元々歯が悪いが放置している。こんな話をよく聞きます。

医学部と歯学部は教育課程が全く違い、循環器内科の先生方はほとんど歯には興味ありません。しかし歯医者さんは歯が悪いと心臓病を引き起こすことはよく知っています。

世界で一番多い病気は何ですか?答えは歯周病(歯槽膿漏)です。
歯周病は細菌感染によって引き起こされる感染症で虫歯とは違います。食べかすに細菌が増殖し歯の周囲、歯茎の中に炎症を起こします。それにより歯茎、歯槽骨が徐々に溶け出し歯がぐらぐらになります。歯の根元に炎症が及ぶと(慢性根尖性歯周炎)そこに膿の塊を作ります。

歯茎の根元の炎症(慢性根尖性歯周炎)の程度は単純X線ではわからずCTで根尖周囲の低吸収域として診断します。よほど炎症が強くない限り本人は痛くないのですが、その膿から常に放たれる細菌が歯茎の奥から全身に回ります。細菌やその細胞膜から出る内毒素は全身に悪影響を及ぼします。通常の細菌感染症は抗菌薬で治療しますが、歯周病の場合はまずは物理的にプラークを取り除き歯茎の炎症の進行を抑えます。根尖まで炎症が進んで膿が溜まって、全身に細菌がばらまかれるよりは、抜歯して炎症そのものを取り去る方が良いのです。

以前ブログに書きましたが、動脈硬化の始まりは、血管の内張りをしている内皮細胞(風呂場のタイル)が何らかの原因で剥がれ、そこに変性したLDLコレステロールが侵入しプラークを作ることです。ビタミンC不足による局所の壊血病も内皮細胞が剥がれる原因のひとつです。そしてLDLコレステロールだけではなく、歯茎の根元から流出し全身を廻っている細菌も動脈硬化プラークの形成に重要なのです。

心筋梗塞を起こした冠動脈プラークから検出された細菌は歯由来のものだったとの報告や、歯の根元の炎症(慢性根尖性歯周炎)がある人はない人に比べて5倍、心筋梗塞になる率が高かった、との報告もあります。

世界でもっとも多い病気の歯周病ですが、その程度によっては心臓病と直結します。
冠動脈疾患になる前に、是非かかりつけの歯医者さんを持ち、常に歯のメンテナンスをしてもらってください。