生活習慣病 患者さんへの説明~糖尿病~

糖尿病は遺伝的な素因に生活習慣が加わって発症します。太っているから糖尿病になったわけではありません。痩せたら糖尿病が治るわけでもありません。肥満でも糖尿病でない人がいる一方で痩せてても糖尿病が進行する場合があります。
遺伝的な素因は仕方のないことですが少しでも生活習慣を改善し今後起こりうる糖尿病の合併症を防ぎましょう。

まずは糖尿病全般の説明です。

摂取した糖質は小腸でブドウ糖に分解され血液中に取り込まれます。血液中のブドウ糖の濃度を血糖値と言います。膵臓からでるインスリンの働きでブドウ糖をエネルギーとして利用できるように肝臓、筋肉、脂肪組織に分配されます。

糖尿病とは血液中のブドウ糖が有効に使われず血糖値の高い状態が続くことをいいます。原因としてインスリンが出るが効きにくくなる(インスリン抵抗性)かインスリンの分泌量が不足していることです。
免疫異常によりインスリンが絶対的に不足する病型を1型糖尿病といいます。小児期~思春期から発症するのが多いですが中高年以降での発症もあります。大多数の糖尿病は2型糖尿病で遺伝や生活習慣によりインスリンの働きが低下する病型です。いずれの型の糖尿病でもコントロールが悪い状態が続くと全身の合併症が出てきます。

糖尿病の方が医療機関を受診するきっかけとして例えば以下のものがあります。
1) 年1回の会社健診で糖代謝異常を指摘された。
この場合毎年受診しているので数年前からの推移がわかります。合併症などの危険性をよくお話しし、スムーズに治療に入っていきます。全身の合併症はないことが多くしっかり治療すれば比較的予後良好です。
2) 口が渇いて仕方ないので受診した。定期健診は受けてない。
この場合はちょっと要注意です。血糖値が400~500mg/dlになると口が渇き、多飲・多尿・頻尿が出てきます。これが高血糖の症状です。糖尿病の指標であるHbA1Cは大抵10%を越えています。この場合糖尿病が発症してから長い間が経過していることが多いです。調べれば調べるほど糖尿病の全身合併症が出てきます。
3) 目が見えにくいので眼科受診した際、採血で糖尿病、腎障害を指摘された。
この場合眼科は糖尿病性網膜症、腎障害は糖尿病性腎症、そして本来の糖尿病、といった最悪のケースです。

糖尿病の合併症は全身のありとあらゆる部分に起こります。目(網膜症・白内障・緑内障)、歯(歯周病)、脳(脳梗塞)、心臓(冠動脈疾患)、皮膚(白癬)、下肢(末梢動脈疾患、壊疽)、神経(しびれ、感覚障害)、腎(腎障害から透析へ)、泌尿器(ED、尿路感染)など。
これらは主に細い血管の合併症としての網膜症、腎症、神経障害、太い血管の合併症としての脳梗塞、心筋梗塞であり糖尿病は主に血管を傷つけるのです。糖尿病の罹患期間が長ければ長いほど合併症が多くなります。

糖尿病の治療の目的はもちろんこれらの合併症をできるだけ起こさないようにすることです。糖尿病のコントロールの指標としてHbA1Cがあります。これは血液中のヘモグロビンとブドウ糖が安定的に結合したもので過去1~2か月の平均の血糖状態を示します。検査の数日前たくさん食べてもHbA1Cに影響はないのです。貧血があると実際より低く出るので要注意です。

血糖コントロール目標として血糖正常化を目指す際の目標としてHbA1C6.0未満、合併症予防のための目標として7.0未満、治療強化が困難な際の目標として8.0未満とされています。
40~50代は合併症を防ぐためできるだけ低く、大体75歳以上の高齢者は血糖下げすぎに伴う低血糖が恐いので、HbA1C7.5くらいで良いでしょう。

治療は食事、運動、内服です。
食事に関してです。食事のエネルギー摂取量は目標体重(BMI 22~25)xエネルギー係数(普通の労作であれば30~35kcal)です。
1日3食規則正しく、腹八分目に、ゆっくりよく噛んで、バランスよく、とされています。順番も食物繊維、タンパク質、最後に炭水化物です。
教科書にはそう書いてあっても忙しい方はそんな食事できませんよね。できるだけそのように心がけましょう。

糖質制限という言葉を聞いたことがあると思います。糖質(炭水化物)のみが血糖値を上昇させます。蛋白質、脂質は基本的に血糖値はあげません。では糖尿病の人は徹底的に糖質制限をすればよいのでしょうか?
できる人はしてください。というのはエネルギーを摂取する際に糖質が一番手っ取り早くエネルギーになるのです。糖質制限は相対的に高蛋白、高脂肪食となるため腎不全や膵炎があるとしてはいけません。また肝硬変があると糖新生が低下しており口からの糖質が必要です。

運動に関しては基礎代謝を上昇させ、減量効果、インスリン抵抗性を改善する効果があります。運動は嫌いなのでしないという人がいますが、運動しないと一生のうちでその分入院期間が延びるともいわれています。
ジョギング、エアロバイク、水泳などの有酸素運動は酸素を体内に取り込んで糖や脂肪を効率よく燃焼させます。継続して行うことでインスリンが効きやすくなります。ただしフルマラソンのような極端な有酸素運動は活性酸素を過剰に産生しそれに伴い一時的に体の抵抗力は低下しカゼ引きやすくなるのでご注意を。
一方筋トレなどのレジスタンス運動は筋肉量を増加し筋力を増強することで糖を取り込みやすくする効果があります。
概ね60歳までの人は有酸素運動とレジスタンス運動を組み合わせてガッツリ運動してください。75歳を超えた方は転倒防止を目標にゆっくりウォーキングでよいと思います。もちろん人によって違いますから自分の体力に合った運動をしてください。

次に薬。次々と糖尿病の薬が発売されています。インスリン製剤は約100年前に製造されましたが動物や魚由来、ヒト由来で安定した製剤が作られるようになったのは1980年代でした。内服薬は1960年代にインスリン分泌促進剤であるSU剤、インスリン抵抗性改善薬であるビグアナイドが発売されました。この2種類が中心でした。しばらく似たような薬が続きましたが、2009年から夢の薬といわれたインクレチン製剤であるDPP4阻害薬が、2010年にはGLP-1作動薬の注射薬が発売となり一気に治療の中心となりました。さらに2014年からはSGLT2阻害薬が発売され、インクレチンとSGLT2が糖尿病治療のスタンダードとなりました。またGLP1はやせ薬としても効果もあるので巷ではGLP1ダイエットなどという言葉もうまれました。2021年からはGLP-1の内服薬も登場し選択枝が大幅に増えました。

これだけ優秀な薬が増えたのだから糖尿病はずいぶん減ったのでしょうね?いや全然減ってません。生活習慣をおろそかにしている結果、糖尿病の増加が抑えられないのです。

長々と説明しましたが、糖尿病の治療にはまずは生活習慣が大切だということを理解してください。食事無茶苦茶、運動一切しない、薬だけ調整されて見かけ上のHbA1Cが少し改善しても体全体としては良くなってないのですよ。