大動脈瘤とは
全身に血液を送っている大動脈は人間の体の中で最も太い血管で、心臓から上向きに出た後、頭や腕などに血液を送る3本の血管を枝分かれさせながら弓状に左後方へと大きく曲がり、背骨の前面に沿うようにしながら腹部方向へと下っていきます。心臓から横隔膜までを胸部大動脈、横隔膜から下の部分を腹部大動脈と言います。
大動脈にはいつも血圧が掛かっているので、動脈硬化などで弱くなった部分があると、瘤(こぶ)ができやすくなります。血管の壁が薄くなって大きく膨らんでくる病気が動脈瘤で、生じた場所によって胸部大動脈瘤、腹部大動脈瘤などと称されます。大抵の大動脈瘤は、径の拡大の進行が緩やかなために、初めはほとんど無症状です。特に、胸部大動脈瘤は自覚症状に乏しく、胸部X線写真の異常な影によって初めて認められることが少なくありません。
腹部大動脈瘤は、へそのあたりに拍動するしこりを触れることにより発見されることも多いのですが、痛みを伴うことが少ないため、よく見過ごされます。
大動脈瘤の原因
大動脈瘤の原因は不明です。ただし、大動脈瘤は高血圧の人や家族に大動脈瘤の人がいるとできやすいと言われており、家族的・遺伝的傾向が認められています。
大動脈には常に血圧によるストレスが掛かっているため、高血圧の人は動脈の拡大が起こりやすくなります。動脈径の拡大が認められる人については、定期的な検診が必要です。また、破裂を防止するためには、高血圧の治療が大切です。
大動脈瘤の症状
胸部大動脈瘤は軽度のうちは無症状のことが多く、健診などの胸部X線検査で初めて指摘されるといったことがよくあります。
胸部大動脈瘤が大きくなると、周囲を圧迫して様々な症状を引き起こしてきます。声帯を支配している神経(反回神経)を圧迫すると、左側の声帯の働きが悪くなって、しわがれ声が出てきます。気管を圧迫すると呼吸が困難に、食道を圧迫すれば食べ物を飲み込むのが困難になります。こうした症状が現れてきたようなら、動脈瘤はかなり大きくなっていると推測されます。
腹部大動脈瘤では、前記のように、お腹に拍動するしこりを触れることが典型的な症状です。しかし、動脈瘤が小さかったり、肥満のためにお腹に脂肪が溜まっていたりすると、触ってもわからないことがあります。腹部のエコー検査や、CT検査で初めて発見されることが少なくありません。
大動脈瘤で怖いのは、何と言ってもその破裂です。一度破裂すると激烈な胸痛や腰痛、大出血による意識障害などを引き起こします。破裂した場合の致死率は、80〜90%にも上ると言われます。したがって、破裂前に治療するのが鉄則です。破裂のしやすさは、大動脈瘤の径の大きさにより判断され、やはり径が大きいほど破裂しやすくなります。
大動脈瘤の検査と診断
胸部大動脈瘤の有無は、胸部X線検査で調べることができます。ただし、心臓の裏に動脈瘤がある場合は見逃されることがあるので、正面と側面から胸部X線写真を撮ることによって、胸部大動脈の拡大の有無をチェックします。しかし、正確な胸部大動脈の径を知ることは胸部X線写真からでは困難です。胸部大動脈瘤を診断するには胸部CT検査が最適で、胸部大動脈の正確な径を知ることができます。そして、手術が必要かどうかも判断することができます。
腹部大動脈瘤の有無は、腹部エコーや腹部CT検査によって知ることができます。よく健診で腹部エコー検査を行いますが、胆嚢や肝臓は調べても腹部大動脈を調べないことがあり、腹部大動脈瘤が見逃されることがあります。腹部エコー検査の際には、腹部大動脈も診てもらう必要があります。CT検査を行えば、腹部大動脈の正確な径と手術の必要性の有無がわかります。
大動脈瘤の治療
大動脈瘤の拡大が軽度ならば手術は行わず、血圧を調べて高血圧があれば血圧を下げる治療を行います。しかし、動脈瘤を直接治す薬はありません。
大動脈瘤が大きくなれば、手術が必要になります。手術は、あくまでも破裂予防のための手段なので、手術の危険性と破裂リスクを十分に検討し、よくご納得いただいたうえで治療方針を決めることになります。
大動脈瘤に対する手術の基本は、人工血管による大動脈の置換術です。動脈瘤が大きい場合は、全身麻酔による胸部の開胸術、あるいは腹部の開腹術が必要になります。
近年、足の付け根からカテーテルという管を大動脈内に挿入し、人工血管を大動脈の内側から固定する方法が実用化されています。この特殊な人工血管は「ステントグラフト」と呼ばれ、全身麻酔による胸部や腹部の手術に代わる方法になってきています。ただし、どちらの治療を選択すべきかについては、患者さんの状態によります。