循環器内科からみたSAS六甲アイランド 睡眠時無呼吸症候群 神戸ベイSAS相談所

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循環器内科からみたSAS

睡眠時無呼吸症候群と生活習慣病のかかわり

循環器内科医としての私の使命は、SASを合併している循環器疾患の患者さんが心血管イベントを起こさずに平穏に過ごしていただく、ということです。
下の図右の図は「SASがなぜ悪いのか」のページでも説明しましたが、心血管疾患における睡眠呼吸障害の合併割合です。多くの心血管疾患に睡眠呼吸障害が合併しているかがわかります。薬剤耐性高血圧症(薬を多種類投与しても血圧が下がらないタイプ)では実に8割に睡眠呼吸障害が合併しています。

このホームページでは簡単に睡眠時無呼吸症候群(SAS)と呼んでますが、専門的には睡眠呼吸障害(SDB)と呼びます。
睡眠呼吸障害(SDB)には次の3つがあります。

  • 閉塞性睡眠時無呼吸 (OSA)
  • 中枢性睡眠時無呼吸 (CSA)
  • 複雑睡眠時無呼吸

一般的に睡眠時無呼吸症候群といえばこの閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)のことを表します。睡眠中に繰り返し起こる上気道虚脱による無呼吸 (気流の停止) や低呼吸 (気流の低減) を特徴とします。上気道の構造上の問題、睡眠中の筋緊張の欠如が原因です。

中枢性睡眠時無呼吸

中枢性睡眠時無呼吸 (CSA)は心臓病と深くかかわっている病態です。 呼吸努力が継続するOSAとは対照的に、CSAは臨床上、睡眠中の呼吸ドライブの欠如により反復性換気不全が引き起こされ、ガス交換が損なわれる状態と定義されます。夜間のこうした呼吸障害は様々な併存症につながり、心血管イベントのリスクを増大させます。CSAで最も多いのはチェーン・ストークス呼吸 (CSR)と呼ばれるもので、漸増漸減タイプの呼吸に引き続いて無呼吸が持続するものです。 睡眠中の換気のコントロールが不安定になるのがCSAの症状ですが、病態生理学的には非常に多様な症状を示し、種類により有病率にも大きな幅があります。なおCSAの患者さんはいびきをかくことも少ないので、看過されがちです。

複雑睡眠時無呼吸

臨床上OSAとCSAまたはCSRの組み合わさったものです。複雑性睡眠時無呼吸の患者さんは上気道緊張が低下し睡眠中に閉塞を起こすとともに、換気コントロールが不安定なため呼吸努力が停止して中枢性無呼吸が出現します。 慢性心不全の患者さんの多くはOSA、CSAの組み合わせを伴っています。 図はCPAP装着中に出現したCSR(チェーン・ストークス呼吸)です。

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)があると心臓にとって3つの不利な現象が起こります。

  • 胸腔内圧陰性化による循環動態の変化
  • 無呼吸時の低酸素血症
  • 交感神経活性の過剰な亢進

これらの病態に複雑に中枢性睡眠時無呼吸が絡んできて病状を悪化させます。

循環器疾患(心血管疾患、心臓病)の患者さんといっても病態は多岐にわたります。
高血圧が持続すれば心肥大や臓器障害が進行し、また動脈に負荷がかかり動脈硬化が進行します。動脈硬化が進行した動脈は徐々に拡張し大動脈疾患(大動脈瘤、大動脈解離)の原因ともなります。冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)は心臓の表面の冠動脈の動脈硬化により引き起こされ、心臓の筋肉への血液が不足し心機能を障害します。心臓弁膜症は心臓の中にある弁が狭くなる、あるいは閉鎖が悪くなることにより起こります。心臓の筋肉そのものの収縮が低下してくる心筋症、心臓の右心系と左心系を隔てる壁にもともと穴が空いていて起こる先天性心疾患、さらには心臓の電気の通り道に異常をきたして起こる不整脈など様々な種類があります。
これらの病態が徐々に進行し最終的に心臓全体に悪影響がおよんだ場合、心不全という病態になります。

心不全とは、心臓に何らかの異常があり、心臓のポンプ機能が低下して、全身の臓器が必要とする血液を十分に送り出せなくなった状態をいいます。
ある日突然心筋梗塞が起こると急性心不全になりますが、高齢となり上記の心臓病が徐々に進行していくと慢性心不全とよばれる病態となります。
慢性心不全は経過の中で急性増悪を繰り返し徐々に心臓が弱っていき最終的に死に至ります。高齢の患者さんの心不全というのはこの慢性心不全の急性増悪を指すことがほとんどです。

SDBと深く関与しているのは主に高血圧、冠動脈疾患、不整脈、大動脈疾患、心不全です。

高血圧

高血圧とSDBは深く関係しています。まずOSAの患者さんは高血圧を発症しやすいといわれています。また早朝高血圧や夜間高血圧を示すことが多く高血圧性臓器障害が進行しやすく、心血管イベントリスクが高いとされています。CPAP使用により降圧効果を認めますが、治療抵抗性高血圧の患者さんはより降圧作用が大きいとの報告があります。

冠動脈疾患

冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)とSDBには様々な報告があります。OSAでは血管内皮機能が低下している、OSAの程度上昇に伴い動脈硬化の進行度合いが増加する、OSAでは冠動脈内プラーク量が多い、また冠動脈イベント発症リスクが増加するなどの報告があります。カテーテル治療を行った患者さんでもOSAがあるとその後の冠動脈再狭窄や心血管イベントが多かったとの報告もあります。
心事故といわれる急性心筋梗塞に関してはOSAの患者さんは早朝の急性心筋梗塞が多い、あるいはカテーテル治療で再灌流療法を行ってもOSAがある群で心筋梗塞のサイズが大きかったとの報告もあります。

不整脈

不整脈関連ではSASと夜間の房室ブロック、SASと冠動脈スパスムとの関連が示唆されておりCPAP使用にて改善したとの報告があります。またSASを合併した心房細動のカテーテルアブレーション後の患者さんはCPAPを使用することで心房細動の再発が抑制されるとの報告があります。

大動脈疾患

OSAに伴う胸郭の陰圧により大動脈疾患に影響を与えます。OSA合併群ではCTでの大動脈径が非OSA群よりも大きいとされています。特に高血圧症、大動脈解離合併のOSAの患者さんにはCPAPが必須であると考えます。

心不全

SDBと心不全の関係ですが簡単に申しますと心不全の患者さんは閉塞性睡眠時無呼吸(OSAと呼びます)や中枢性睡眠時無呼吸(CSAと呼びます)が多いのです。それだけではなくOSAやCSAは心不全を悪化させます。
心不全になると多くは体液過剰状態となり、夜間横になることにより下半身の水分が上半身、のどのあたりにも押し寄せてきます。(フルイドシフトといいます)そうすると余計に上気道の閉塞が起こりやすくなりOSAを合併します。OSAを合併することで夜間の低酸素状態、交感神経過緊張状態が持続し心臓に悪影響を及ぼします。さらにOSAは本来の心臓収縮とは反対方向に胸郭を外側に引っ張る力が加わります。
また慢性心不全の患者さんはCSAを多く合併します。CSAに関してはわかってないことが多いのですが心不全の原因としても結果としてもおこるようです。

ではこれらのOSA、CSAをどのようにして治療すればいいのでしょうか。OSAは閉塞が原因ですのでCPAP療法を行うことにより閉塞は改善します。CSAはCPAP療法で改善することもしないこともあります。
ではCPAP療法をすると心不全自体はよくなるのでしょうか。いくつかのデータではOSAを合併した心不全ではCPAP療法にて心不全の予後の改善があるとされています。ただしCSAがCPAPで改善されないときは心不全予後改善が乏しいともいわれています。

そこで登場したのがASV(adaptive servo-ventilation)です。ASVが呼吸に合わせて圧を増減させるのに対し、CPAPは一定の圧を常時かけているため、両者の交感神経活動への作用が異なることが報告されました。ASVを用いるとCSRをはじめとするCSAを減少させることができます。もちろんCPAPの機能も併せ持っているので閉塞にも有効です。
ASVは現在条件付きで慢性心不全に対して保険適応となっています。睡眠時無呼吸症候群単独での保険適応はありません。
下の図右の図はCPAPとASVの応答様式の違いです。

ASVが登場してから心不全の予後が改善したとの報告が相次ぎました。2010年ごろからは一般病院においてもSDB合併の心不全にASVが多く使用されることになりました。ただしASVは人工呼吸器の扱いですのでCPAPと比較してコストが3~4倍かかります。

ASV使用に待ったをかけた論文が出ました。2015年に発表されたSERVE-HF試験です。
慢性心不全に合併した中枢性睡眠時無呼吸を伴うチェーンストークス呼吸へのASV による心血管イベント抑制を検証した大規模無作為化試験で,結果としてはASV によって心血管死亡が増える可能性が示されたのです。それ以降日本循環器学会としてはASV使用に対してはやや慎重になっています。

すなわち

  • SDB合併でOSA優位の慢性心不全にはCPAP使用で予後が改善する。
  • SDB合併でCSA頻発している場合の慢性心不全ではCPAPでの予後改善効果は乏しい。
  • ASVを使用するとSDB(OSA、CSA両方)合併の慢性心不全の改善効果はありそう。ただし大規模無作為化試験をするとASV使用群での予後が悪かった。

となります。

ここからが重要です。エビデンスレベルが一番高いのはランダム化無作為試験ですが果たしてその結果ばかりを信用してもよいのでしょうか。もっと個々の症例の内容を掘り下げていく必要があります。

先ほどのSERVE-HF試験では平均デバイス使用時間は2.7時間/夜間と、とても短いのです。当院でCPAPされている患者さんは睡眠時間のほとんどの時間でCPAPを使用されておられます、6時間程度でしょうか。たった2.7時間の使用では改善するとは思えません。

こんな考え方があります。CPAP使用時間平均4時間としましょう。Aさんは毎日4時間使用しています。Bさんは2日に1回8時間使用しています。この2人の平均装着時間は4時間ですが、単純比較してもよいのでしょうか。
あるいは同じ4時間しか装着しなくても睡眠の前半につけるのか、睡眠の後半で4時間つけるのかで意味が異なります。
睡眠の前半は深い睡眠が多いのでここでCPAPを使用すると熟睡感が得られます。ところが後半のREM睡眠で交感神経活性が上昇するので、ここでCPAPがないと酸素飽和度が低下し血圧急上昇しイベントを発生させるかもしれません。
同じ使用時間といっても意味が違ってくるのです。

またCSA優位の心不全といってもうっ血主体なのかそうでないのかで病態は大きく異なってきます。PCWPが高くない心不全での陽圧呼吸は血圧を低下させるので不適切でしょう。冠動脈リスクを上昇させるかもしれません。ひとまとめではなく個々の症例で考慮しなければいけないのです。

病態からするとCSA優位の心不全ではASVが効くはずですし、冠動脈疾患予防に関してもCPAPをしっかり装着すれば早朝REM期の交感神経活動低下を介してイベントリスクを低下させてもよいはずです。

当院では論文での結果を重視しつつも、個々の症例で詳しく検討しながらCPAP治療を行っております。

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